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3割打者は絶滅する? テクノロジーが加速する投手の進化

野球データアナリスト 岡田友輔

今年のプロ野球は投手の活躍が際立っている。ロッテの佐々木朗希が4月に日本球界28年ぶりの完全試合、5月にはソフトバンクの東浜巨が無安打無得点を達成した。十回途中まで完全投球を続けた中日・大野雄大や7回無安打で交代した西武バーチ・スミスもいる。

防御率2点台以内が22人

「投高打低」の傾向は一部のエース級に限ったことではない。セ・リーグでは規定投球回数に達している14投手のうち、防御率2点台以内を8人が占める。パ・リーグはもっとすごい。16人のうち14人が防御率2点台以内、1点台以内も6人を数え、オリックスの山岡泰輔に至っては0.82である。(以下、数字はすべて20日現在)

打者の状況は厳しい。規定打席到達者で打率3割を超えているのはセが5人、パが4人しかいない。出塁能力や長打力に基づき、打者の総合的な攻撃力を測るwOBA(加重出塁率)を算出すると、セ・リーグが3割6厘、パ・リーグが2割9分5厘。これは5年前に比べてセが1分5厘、パが3分近くも低い数字だ。

本塁打を除いた打球が安打になる確率を示すBABIPもセが2割8分4厘、パが2割8分1厘。5年前は2割9分台半ばだったから、こちらも明らかに低下している。ボールの影響などもあるかもしれないが、野手の間を抜ける強い打球が減り、バットに当たってもヒットになりにくくなっていることを示す。

速球の平均球速は5年間で3キロアップ

偶然ではない。近年、投手のレベルは目に見えて向上している。例えば、今年の直球の平均球速はセが145.5キロ、パが146.3キロ。5年前に比べると3キロ程度アップしている。佐々木朗をはじめ、かつては漫画の世界だった160キロ台を投げる投手が現れ、150キロ台に至っては多くの投手が軽々とマークする。一昔前は考えられなかったことが現実に起きているのだ。

「投高打低」へのシフトは米国では10年以上前から起きていた。大リーグでは投手の球速アップや変化球の多様化で三振が年々増えている。大リーグ史上最速のペースで三振を積み重ねるダルビッシュ有(パドレス)はその象徴ともいえる。個々のレベルアップに加え、投手の分業制が進んだ現代は次から次にリリーフが出てきて、打者の目が慣れる暇もない。データを駆使した守備シフトでヒットゾーンまで塞がれると攻略は至難の業だ。

投手の進化はテクノロジーの登場と密接に関係している。2000年代半ばごろから、大リーグでは高機能カメラや計測器の導入により、ボールの回転数や回転軸といった投球メカニズムの「みえる化」が進んだ。自分の特徴や課題を数値で把握し、合理的にレベルアップを図れるようになった。持ち球の分析や取捨選択、精度向上に新球の習得……。どの球をどれぐらいの比率でどのコースに投げれば打者が最も打ちにくいかという「ピッチデザイン」の研究も進んだ。こうした〝最適化〟を通じて大化けする投手も現れた。

常に「受け身」の打者、進化に時間がかかる

一方、打者はテクノロジーの恩恵を受けにくい。投手の仕事のほとんどが「投げる」という自己完結する行為なのに対し、打者の仕事はきた球への対応という受け身の行為だからだ。

投手はフォームなどの改良で良い球を投げられるようになる割合が高まるが、打者は違う。打撃フォームをどれだけ磨いても、タイミングを外しにくる投手に対し、理想のスイングをできる機会がどれだけあるか。スイングが良くてもバットの芯に当たるとも限らない。

打者の成長は、崩されながらも安打を打てる技術といった投球への対応力にあるともいえる。若くして活躍することが珍しくない投手に比べ、野手が一本立ちするのに時間がかかるのも、こうした違いが影響していると考えられる。

この違いは驚くに当たらない。先端技術を使った球筋の測定やデータの活用はまず、ゴルフ界から始まった。ゴルフスイングも投球同様、自己完結型の行為である。インターネット全盛の現在、球団やリーグの垣根を越えた投手の情報共有も進む。日本の投手も大リーグの最新の情報をタイムリーに仕入れて活用できる。

先日、ソフトバンクの千賀滉大が「3割打者が存在しない時代が来る」との持論を展開している記事を読んだ。その理由として挙げていたのも、投手と打者の進化のスピードの違いだ。当事者たちも力関係の変化をはっきり自覚しているのだ。

米独立リーグでは投本間の距離を延ばす試みも

大リーグで広がった「フライボール革命」は打者側の対抗策でもある。連打を期待できないのであれば、ホームランなど長打の確率が高まるフライを打って、一振りで得点するしかない。現状を鑑み、得点を挙げるために考え抜かれた戦術なのだが、その行き着く先は三振かホームランかという一見すると味気ない野球だ。

プロの投手と打者は動体視力の限界ギリギリのラインでせめぎ合ってきた。投手の球速が上がるなどして打者が対応できる閾値(いきち)を超えてしまうと、打撃は駆け引きや技術ではなく、狙い球を決めて1、2、3でバットを振る「ギャンブル」に変わってしまう。

米国では「見る野球」の娯楽性を維持するため、独立リーグのアトランティック・リーグで実験的に投本間の距離を延ばすなど、いきすぎた投手優位の状況を是正する取り組みが始まっている。ほかにもストライクゾーンを狭くする、飛ぶボールを採用する、外野フェンスを前に出すなど色々な手法が考えられるだろう。

27のアウトのうち19が三振だった佐々木朗の完全試合は、野球の時空間をゆがめるような衝撃があった。投手の進化は、これまでの野球の規格をも揺るがし始めている。

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