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アナウンサーとしての教え 還暦迎え、思い新たに

私は今年「年男」です。4月には誕生日を迎えます。48歳ではありません。ついに60歳、「還暦」を迎えてしまうのです。還暦の意味を調べたら、「60年で干支(えと)が一回りして、再び生まれた年の干支にかえる。元の暦に還(かえ)る」という意味で、再び生まれ変わるといわれています。そこで、生まれ変わったつもりで新人アナウンサーとしてスタートした時のことを思い返してみました。

今も心に残る言葉

入社当時、研修で上司からいわれて今も覚えている言葉があります。その上司は長岡一也さんでした。長岡さんは私が生まれた1961年(昭和36)年に日本短波放送(現在のラジオNIKKEI)にアナウンサーとして入社して競馬中継に携わり、「競馬中継の祖」ともいえる人です。

筆者の入社当時の教育係だった長岡一也さん

今も千葉テレビなどで放映中の「金曜競馬CLUB」にキャスターとして出演されています。つまり60年近く競馬中継など競馬関連番組にレギュラー出演されているわけで、もはやギネス級といえると思います。入社当時の印象深い言葉について、おさらいの意味でいま一度、長岡さんにお話を伺いました。

36年前、競馬を全く知らない初心者として入社した私に、長岡さんは、これからどう競馬と取り組んでいくべきかについて、以下のように言われました。

〈競馬という「窓」を通して社会を見る〉競馬は社会の一つの現象として存在している。競馬に興味を持つことはもちろんだが、競馬を通して社会を見ることで、競馬への理解が深まるはず。競馬が特殊なものではなく、「日常の中の競馬」ということを考えて私は取り組んでいます、と長岡さんは言われました。

当時の競馬は今とは違って、「競馬・競輪・競艇」とひとくくりにされました。華やかさとは無縁で、プロ野球とは違うギャンブルスポーツと思っていたのですが、そう言われて考えを改める気になったものです。まだ日本中央競馬会が略称をNCKから現在のJRAに変更する前の話です。

アナウンサーに必要なこと

声を出すアナウンスの講習では、「アナウンサーに必要な3つの要素」があると言われました。これも印象に残っています。長岡さんは以下の3つを挙げられました。

新人研修当時のテキスト

〈正しい発音・発声〉これは当たり前で、ラジオですから正しい言葉をきちんと発声しなければ人に伝わりません。

〈感性〉センスといえるかと思いますが、同じ物を見ても捉え方や感じ方が他人と違えば、別のものを生み出せるのではないかと今は理解しています。「感性は生涯磨いていくものだ。そのためにいろんなことを見て聞いて勉強していくことが大事だ」と教えられました。

長岡さんは自分が競馬に何を感じるか、自分の感性を大事にしてきたそうです。何も感じないのに中継でしゃべり出してはいけないと言われました。朝、競馬場に来たら人けのないスタンドを歩き、その日の天候、向こう正面の景色など、何かを感じて中継に臨んでいたそうです。ラジオは言葉で勝負するわけで、「自分の感性で捉えた言葉でないと伝わらない」と信じて仕事をしてきたということです。

何も感じることなく、十年一日のごとく競馬中継で同じ言葉しか使わず、あの日、研修で言われたことを全く守っていない自分が恥ずかしくなりました。

〈人に好かれること〉アナウンサーとして最終的に成功するために、一番必要なことだと言われました。当時はピンときませんでしたが、60年近く生きてきて、今ではなるほどと思います。これはアナウンサーに限らないことだと思います。地位や名誉とは関係なく、人がその人の周りに自然と集まって、「〇〇さんと一緒にいると楽しいね」「〇〇さんは頼りになるね」といわれたら、その人は素晴らしい人生を送っているのだと思うようになりました。

では、人から好かれるためにはどうしたらよいのか。長岡さんは、「聞き上手」になることだと言われました。人は様々で、その人がどんなことを言おうとも一度は認めて、自分との違いが見えてきたときに初めて、自分のことが言えるのだと。何も見えていないのに初めから自分を押し出していくと嫌がられる。「聞き上手」になることが大事だと言われました。

よくしゃべるアナウンサーはたくさんいますが、相手の話をうまく引き出す聞き上手なアナウンサーはどれだけいるでしょうか。対談やインタビューするときは聞き上手であれと教えていただきました。

新社会人へ贈る言葉

この「アナウンサーに必要な3つの要素」は全ての人にもいえることだと思います。もうすぐ4月。多くの新社会人が門出を迎えます。その人たちにも3つのことをお伝えしたいです。「チョーウケる!」などチョーチョー言わずに正しい言葉を使い、どんな仕事であっても己の感性を磨きつつ取り組み、そして人に好かれる人間になる。

一つのゴールを迎える私も、新入社員時代の素直さを取り戻して、新たなレースに挑んでいきたいと思っています。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小林雅巳)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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