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活況戻った東京マラソン ランニングで広がる輪

ランニングインストラクター 斉藤太郎

3月5日、東京マラソン2023を走ってきました。2月5日の別府大分毎日マラソンからちょうど1カ月後のレースでした。

会場に向かう電車には、計測用チップをシューズに装着しているのでそれとわかる出場ランナーたちが新宿に近づくにつれて増えてきました。スタート前の会場は昨年とは比較にならないほどの混雑。プロ野球「観戦」の3万〜4万人は経験していますが、これからフルマラソンを「走る」「戦う」3万8千人の気迫、熱量の差は比較にならないというか、趣の異なるものでした。トイレ、荷物預けを済ませて、スタート40分前にどうにか整列できました。

スタートのロスは1分24秒、3447位で通過しました。1キロ3分55秒あたりで2時間50分切りを想定していたものの、過密状態が続き、1キロ地点は4分50秒。はやくも1分近く余計に使ってしまいました。1秒でも削るといった気持ちを消して、無理な追い越しを控え、少しずつリズムを整える作戦に切り替えたのでした。風船を目印にしたペーサーが率いるサブ3の大集団を追い越したのは10キロを過ぎてから。ようやく3時間0分のラインか?とややため息交じりの気持ちにもなりましたが、ペースが安定し始めました。その後の展開は表の通りです。

混雑によるスローラップも幸いし、後半のハーフの方が速い、ネガティブスプリット。ネットタイムでは2時間46分45秒と、年齢(48歳)を下回るエージシュートランを達成することができました。

興味深かったのは順位変動です。序盤の混雑は別としても、ほぼ一定ペース。上昇したわけでもないのに、中間点以降385人、30キロ以降198人、40キロ以降で25人を追い越していました。ペースダウン波形をたどるランナーがいかに多いかということがわかります。

外国人ランナーの存在感

大会前の皇居ランナー、東京ビッグサイトでの受付、どちらも普段にないほどの数の外国人ランナーが東京に集まってくれた印象でした。

レース中、視界には常時外国人ランナーが並走していたと言い切れるほどの状況でした。エリート選手以外ではそういった一般ランナーの走り方に関心を奪われ、レーサーの視点とコーチとしての観察視点とハイブリッドで走っていました。ここでフォームの崩れ方を2通り紹介させていただきます。

1つ目は骨盤が後傾していて、猫背姿勢に陥るタイプ。腰が引ける、砕けるという表現をしますが、バランスが後ろに崩れたような走り方です。本来は体の真下で地面を捉え、体重を乗せるべきですが、膝を前に出そうとか、ももを上げようといった意識の方が強くなり、効率よくは進めません。日本人はこちらのタイプが多いようです。先天的に腰椎のカーブ(前への湾曲)が少なく骨盤が起きてしまいやすいことや、日ごろの座位時間が長いことが影響しているのでしょう。

2つ目は真逆で、背筋がのけぞるようなシルエットになるタイプです。脚は大きく後ろに流れて、後方へのキック力によって進むようなフォームです。真後ろを走っていると靴底が私のおへその前をかくように通過します。また、肘を深く畳み込んだ腕振りで、肩が上がり、あごが上がってしまいます。せっかく前傾姿勢ができているので、もう少しおなかを縮めて、体幹をまっすぐにしての前傾の方が、重心移動が改善され、接地時にしっかり路面を捉えられるのでは、と感じます。

こちらは先天的に骨盤の前傾が強い人種、外国人の方に多く見られると思います。苦しくなると上下動が激しくなり、例えばポニーテールの女性ランナーは髪が大きく揺れている。そんな方を多く見たのでした。

海外のサッカー審判員に教えた際にも似たようなフォームを目にしました。「力強い走り」の象徴のように焼き付いているようにも思えました。もう少し肩を下げて、肘の角度を広げて、何となく腕の振り子を大きく使った方が楽に進むのではないかと思います。外国人のエリート選手に関しては、ここまでののけぞりや肩を上げる姿勢はなく、全体的にリラックスできています。

沿道の応援

フィニッシュ後にいただいた写真や動画の数は、応援自粛要請のあった昨年との大きな違いでした。指導するニッポンランナーズのメンバー、関係者、数年ぶりに会った知人、こんなにも多くの方に各所で応援していただいたことに感謝です。反対に沿道応援に駆けつけた方々は、行けばきっとあの人に会える、誰々を励ましたい、ランナーからエネルギーをもらいたい――。そんな心境で向かい、出会いや感動を味わうことができたと思います。

中でも感慨深かったことは、高校の同級生(陸上部ではない友人)が出場していて、すれ違いざまに声を掛け合ったことです。走ることが本業の陸上部とは違い、他の運動部は基礎力強化を目的に嫌々ランニングに取り組まされていた光景を覚えています。あの頃は避けたかったランニング。それが卒業から30年という時がたった今では自ら走ることを選び、準備を積み、フルマラソン完走を目指し、同じレースを走っている。そんな価値観の変容が不思議であり、こちら側の世界に足を踏み入れてくれたことをうれしく思ったのでした。

1年前の心肺停止からの復活

昨年2月、練習会中に心肺停止で救急搬送されたメンバーがいます。予定していた昨年の東京マラソンは欠場。病室のテレビで観戦されました。退院後は、指示を守り安全な環境と安全な手法に気を配り、ウオーキングから再開し、夏を過ぎた頃にはランニングもOKとなりました。担当ドクターからの許可を得て、今回、悲願の東京マラソン出場。4時間30分台で完走されたそうです。ご本人から届いたメッセージは以下のようなものでした。

<こうして完走できたことは、特に後遺症のない社会復帰につながったニッポンランナーズはじめ関係者の皆さんの迅速な人工呼吸、自動体外式除細動器(AED)使用などの初動対応、医師の皆さんの除細動器(ICD)装着含め、回復に向けた的確な処置・診断や無理せずに運動継続するようにとのアドバイス、退院後の街歩きから食生活・レース応援等家族のサポートのたまものです。ありがとうございました。毎朝バイタルチェックを行い、心拍数に気を配りながら、活動領域を広げていきたいと思います>

今大会のテーマは「ONE STEP AHEAD」。縦にも横にもランニングを通じてつながっている人と人とのご縁があらゆる地点につながり、心が和まされた。熱気を取り戻した東京マラソンを走り終えた感想です。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。エッセンシャル・マネジメント・スクール特別研究員。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195KM トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。
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