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大谷狂騒曲となったオールスター、その舞台裏は…

スポーツライター 丹羽政善

13日、オールスター戦の1回を投げ終え、ポーズをとる大谷=共同

そういうことだったのか。

7月に入って、エンゼルスのジョー・マドン監督は、今回の球宴でア・リーグの指揮を執ったケビン・キャッシュ監督(レイズ)から、大谷翔平(エンゼルス)のオールスター戦での起用について、ある提案があったことを明かした。

「ショーヘイとペリー(エンゼルスのゼネラルマネジャー〈GM〉、ペリー・ミナシアン氏)に相談して、こちらの考えを伝えようと思う」

その際、提案の内容については、「まだ、明かせない」としながらも、「ショーヘイはそのアイデアを気に入ると思う」と、含みをもたせた。

それがはたして、準備のルーティンなどを考慮した「1番・大谷」であり、「先発・大谷」だったわけだが、キャッシュ監督とマドン監督が一計を案じ、指名打者を解除することなく、大谷に投げさせるための根回しをした。その計らいに、大谷も感謝している。

フルスイングが示した感謝の気持ち

「柔軟性とか、なかなか伝統あるこういう場所では難しいと思うので」

初回、打席に入るとき大谷はナ・リーグのダッグアウトに向けて手を振った。それに対して、デーブ・ロバーツ監督が、軽く帽子を取って応じている。ルール変更そのものは、相手監督が了承すればいいという。大谷は感謝の気持ちを、あの場で示したのかもしれない。

その1打席目は2球目を打って二塁ゴロ。3回の2席目は初球を打って一塁ゴロ。打者としてはわずか3球ではあったものの、大谷はその3球すべてをフルスイングしており、そこには意図が透けた。

「(選んでくれた)ファンの皆さんもそうですし、こうやって起用してくれた監督、コーチの皆さんもそう。本当にすごい良い経験をさせてもらってありがたい」

ファンらが何を望んでいるのか。それに応えよう――との思いがにじんだ。

余談ながら、セントルイスで行われた2009年のオールスターゲームでは、こんなエピソードが残っている。

初回、先頭で打席に入ったイチロー(当時マリナーズ、現・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)は、明らかに初球から本塁打を狙った。ファウルになったが、そこにも意図があった。

「昨日(球宴前日)、実はマドン監督とレストランで偶然会ったんですよ。ワインをごちそうしてくれて、その代わりに『ファーストピッチ、ホームランを打て』みたいなことを言われたので、ファーストピッチを打たなきゃしょうがない状況だったので、そういう理由もあって、狙っていったんですけどね」

ア・リーグの監督を務めたマドン監督にも話を聞こうと、試合が終わってから監督室を訪ねてイチローとのやり取りについて問うと、「そうなんだよ」といいながら、「まぁ、座れ」と椅子を勧めてくれた。

テーブルにはワインボトルと飲みかけのグラス。思わずそこに目がいくと、視線に気づいたマドン監督が言った。

「1杯、飲むか?」

大谷の記者会見が行われたクラブハウス前の廊下は日米のメディアでごった返した

話を戻すと、大谷の2打席目が終わったあと、記者席にこんなアナウンスが流れた。

「今から、ア・リーグのクラブハウス前の廊下で、大谷の記者会見を行います」

次の瞬間、日米のメディアが、慌ただしく席を立っている。

オールスターゲームでは出番の終わった選手から順に取材を受ける。試合途中で帰る選手も少なくない。よって試合などまともに見られないが、クラブハウスへ下りる階段で一緒になったESPN.COMのジェフ・パサン記者が、笑いながら言った。「ESPNからは記者が3人来ている。なのに、みんな席を立った。誰も試合を見ていない」

それぞれが異なったアングルで大谷の2日間を追いかけていたようだ。

会見場所として指定された廊下は、駆けつけた日米の記者でたちまちあふれた。米メディア、日本メディアの順で取材が行われたが、米メディアの輪も見る見るうちに膨れ上がる。その前日、ホームラン競争で敗れたあとに行われた会見でも人垣ができたが、その比ではなかった。

会見が終わってしばらくすると、エンゼルス広報のグレース・マクナミーさんからこんな写真が送られてきた。大谷と菊池雄星(マリナーズ)という花巻東高出身の2人によるショットである。

体調不良で登板を回避した菊池㊨との2ショット=Angels Baseball提供

マクナミーさんは当初、2人そろってオールスターゲームに選ばれた記念にと、ボールを用意。サインしてもらったものを母校へ届けようと考えていたという。すると、今回は体調不良で登板を回避した菊池が、あらかじめユニホームを用意していたとのこと。2人は懐かしいユニホームにペンを走らせた。こんなメッセージを添えて。

「花巻から世界へ」

それぞれの思いが込められたユニホームは後日、ボールとともに母校へ寄贈されるそうだ。

大谷と菊池のメッセージが記されたユニホームは後日、2人の母校に届けられるという=Angels Baseball提供

大谷がオールスターゲームで着用していたものも、米野球殿堂博物館へ寄贈されることになった。

試合終盤、取材に応じた同博物館広報のジョン・シェフタコスキーさんが「大谷がこの特別な試合で使用したアイテムの重要性に鑑み、提供を依頼した」と明かした。

それに応じた大谷は、スパイク、フットガード、ハンドガードなどの4点を託している。スパイクには土がついたままだったが、「それも歴史の一部です」とシェフタコスキーさん。「きれいにすることはありません。そのまま展示します」。スパイクの汚れさえも、将来、それを見た人々の想像力をかき立てる。

なお、大谷が米野球殿堂博物館へ使用アイテムを寄贈するのは3度目。18年には初登板で被った帽子と打者として初めて出場したときのバッティングヘルメット、今年4月4日には、投打の「二刀流」を引っさげて初めて出場し、本塁打を放ったときのバットが、それぞれ同博物館があるクーパーズタウンへ送られたという。同博物館では貸し出しも行っているので、いつか日本でも公開されるのではないか。

米野球殿堂博物館へ寄贈される大谷の用具

さて、試合が終わってから、米メディアが今回のオールスター戦をどう報じたのか、一通り確認してみた。すると、ロサンゼルスやアナハイムの地元メディアは、当然ながら大谷一色だった。記者席で一緒になったロサンゼルス・タイムズ紙のジャック・ハリス記者は「とにかく、『どんな切り口でもいいから、大谷の話題を書いてくれ』とエディターから言われている」と苦笑した。

「ネタはいくらでもあるけど、俺は一人だから、限界がある」

彼とは5月終わり、大谷はシーズンで何本ぐらいホームラン打つのか、という話をしたことがある。彼の予想は30本台後半。「7月中に超えそうだね」と話しかけると、バツが悪そう。

「いや、あの予想は、現時点ではまだ間違いではない。しかし、開幕前にある日本メディアに聞かれたとき、25本と言ってしまった。あれをほじくり返されたら、恥ずかしい」

地元メディアが大谷を大々的に扱うのは理解できる。しかし、先ほど触れたESPN.COMもそうだが、ニューヨークなど他都市のメディアも、大谷の一挙手一投足を伝え、ワシントン・ポスト紙など、完全に主従が逆転していた。ワシントンD.Cに本拠地があるナショナルズからは、ナ・リーグの先発投手を務めたマックス・シャーザーのほか、ホームラン競争で大谷を下したフアン・ソトらが出場している。となれば主役は彼らのはずなのに、シャーザーは"大谷と対戦した投手"という扱い。脇役に追いやられていた。

他も似たりよったりで、イチローが、1年目でいきなりオールスターゲームに出場し、全米規模で注目された20年前ことを思い出したが、今回の大谷フィーバーは、紛れもなく今年のオールスターゲームを象徴する現象と言えるのではないか。

マスクなしの球宴、コロナ禍はどこへ? 

ところで――。

おそらく、テレビでオールスターゲームを見た日本のファンは、満員の観客や、その客席のファンがマスクをしていないことに、驚いたのではないか。ほとんどの種目が無観客で行われることになった東京オリンピックとの差が、図らずも際立った。

オールスター戦前日の記者会見も、屋外で行われたことは、新型コロナウイルス禍への一定の配慮なのかもしれないが、多くのメディアが密集し、選手との間にアクリル板などもなく、一定の距離を求められることもなかった。少し前までの厳しい取材制限を考えると戸惑いもあり、マスクをしていない人と近距離で話すことにはまだ抵抗がないわけではないが、それが日常になりつつある。今回のオールスターゲームは、そのことも象徴していた。

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