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ヤクルト、画期的な「ゆとり運用」で投手力劇的アップ

野球データアナリスト 岡田友輔

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2021年日本一に輝いたヤクルトが今年も好調だ。12日に終了した交流戦では18試合制になって最多の14勝を挙げて優勝を飾った。セ・リーグ2位の巨人との差は17日時点で8ゲームまで開き、独走態勢を築いている。ハイペースで本塁打を量産し、交流戦MVPにも選ばれた村上宗隆の存在感は抜群だが、防御率2点台をキープする投手陣の奮闘も見逃せない。(記録は17日時点)

2019、20年は12球団ワースト投手陣

ヤクルトのチーム防御率は2.70。阪神の2.67に次ぐリーグ2位だが、打者に有利な神宮球場をホームとすることや、昨年後半にエース級の働きをした奥川恭伸が離脱していることなどを考えれば特筆すべき数字といえる。なかでもリリーフ陣の防御率はリーグベストの1.88だ。

2019、20年のヤクルト投手陣は防御率、失点とも12球団ワーストだった。それが昨年はともにリーグ上位に改善し、チームの飛躍の要因となった。今年はさらに安定感を増し、いまや強みになっている。

劇的な改善はいかにしてもたらされたのか。個々のレベルアップや奮闘はいうまでもないが、球界の常識を覆した起用法に注目したい。

まずは先発の登板間隔をみてみよう。1週間に6試合がベースとなる日本のプロ野球では投手6人を中6日で回すのがローテーションの常識となっていた。しかしヤクルトは違う。今年は10投手が先発しているが、交流戦最終戦までの初登板を除く52試合の登板間隔を調べると、中6日が15試合と12球団で最も少ない。巨人、広島、西武は先発投手が中6日で40試合以上を投げている。ヤクルトの次に中6日が少ないソフトバンクと中日でも24試合だから、突出して少ないことが分かる。

中6日の代わりに、中7日は14回、中8日は8回に上り、中10日も10回ある。ベテラン石川雅規はほとんどが中10日以上、エース格の小川泰弘や若い高橋奎二でも基本は中7日以上という「ゆとり運用」になっている。

さらに、ヤクルト先発陣の投球回数はリーグで2番目に少なく、トップの広島や阪神と比べると50回前後の開きがある。しっかり休養を与えたうえで、短いイニングを全力で投げさせれば、中6日のローテーションに入るだけの力がない投手でもそれなりの仕事ができる。17日時点の先発防御率3.19はリーグ2位の好成績だ。

先発の負荷が少なければ、しわ寄せは当然リリーフにいくはずだ。しかしヤクルト首脳陣は、特定の投手に負荷が偏らないよう、ここでも巧みに差配している。交流戦までの62試合消化時点で連投は22回しかない。それも21回は2日の連投で、3連投は1回だけとコンディションに配慮している。内訳をみると、登板数、投球回を多くの投手がバランス良く担う形になっており、6月に入ると無失点のまま交流戦を駆け抜けた。高津臣吾監督が交流戦のMVPを「リリーフみんな」と言ったのもうなずける。

ヤクルトは昨年も「ゆとり運用」で投手成績を改善させた。登板と登録抹消(再登録には10日必要)を繰り返し、中10日で起用し続けた奥川はその代表例だが、今年はさらに磨きをかけ、負担を一段と分散させている。まだそれほど注目されていないが、球界やデータ分析の常識に照らすと、この手法は大発見だと思う。

負担を広く薄く分散、多くの人を戦力に

大リーグで主流となっている中4日を軸とする先発ローテーションの根底にあるのは、一部の優れた投手に少しでも多くのイニングを投げさせたいという発想だ。ヤクルトはこの対極にある。シーズントータルのイニングを、広く薄く分散させて負担させることで、より多くの投手を戦力にするわけだ。

ヤクルトの成功を目の当たりにすると、6人を中6日で回すというローテーションの常識にも疑問符がつく。大リーグと違い、日本のプロ野球にはベンチ入りのほかに「1軍登録枠」があり、登板のない先発投手は1軍にいながら、ベンチからは外すことができる。新型コロナウイルス対応で現在はベンチ入りが26人、1軍登録が31人(通常はベンチ入り25人、1軍登録29人)。6投手によるローテであれば先発しない5人をベンチから外すのがオーソドックスな運用だが、ヤクルトは登録抹消も巧みに活用し、7人以上による変則ローテーションを組んでいる。こうなると、抹消しない投手も中6日にこだわる理由がなくなる。

信頼できる先発を6人そろえ、彼らがケガなくシーズンを全うすることは、理想ではあっても現実には難しい。大リーグには「ベンチ入り枠」と「1軍枠」の区別がなく、ヤクルトの投手運用は日本には日本の最適解があることを教えてくれる。他球団はもちろん、特定の社員に仕事が集中しがちな一般企業にとっても、大いに参考になるのではないだろうか。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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