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社会人野球でも科学的データ 新たな視点、指導に生かす

2020年の都市対抗野球を制したホンダ。今回のテレビ中継ではトラックマンの測定データを表示する新たな試みが実施された=共同

社会人野球で、投球の回転数や打球の速度などのデータを明示し、選手個々の課題発見やレベルアップに役立てようとする試みが始まっている。米大リーグなど海外の野球界は、データを科学的に分析する手法にたけている。プロ野球をはじめ日本球界を支える大きな存在でもある社会人野球がこの分野に力を入れることで、球界全体を底上げしたいとの思いが関係者にはある。

都市対抗で「投球回転数」「打球角度」など表示

12月3日、ホンダの11年ぶり優勝で幕を閉じた都市対抗野球。テレビ、インターネット中継では、2回戦以降の全ての試合でトラックマン(弾道測定器)による計測データが表示された。

画面に映されたのは、投手のボールの「回転数」と打球の「速度・角度・飛距離」。視聴者になじみのないデータの持つ意味を説明するため、中継には野球解説者のほかに、科学的なデータを用いてチームや選手のサポートなどをしているネクストベース社の専門家がデータ解説者として登場した。

大会首位打者に輝いたホンダの佐藤竜彦がセガサミーとの準決勝で延長十回、バックスクリーンに放った満塁本塁打は「飛距離133㍍、打球速度180㌔」をマークした。プロの打者でも150㌔を超えれば優れているとされる中、驚異的な打球速度で、データ解説に加わったスポーツ科学者の神事努氏(国学院大准教授)は「打球角度25度で、長打が出やすいといわれるバレルゾーンのど真ん中の数値を出した素晴らしいスイング」と説明した。

都市対抗準決勝でホンダの佐藤が放った満塁弾は打球角度25度と、長打が出やすいとされる「バレルゾーン」のど真ん中の数値を記録した=共同

新型コロナウイルスの影響を受け、ようやく開催にこぎ着けた今年の都市対抗は観客数の上限1万人で実施された。今回トラックマンの協力を得て初めてデータを提供した狙いについて、日本野球連盟の谷田部和彦・専務理事は「(会場でなく)試合を映像で見てもらえる機会に、従来の社会人野球とは違った楽しみ方を提供することで、アマチュア最高レベルの野球の面白さ、奥深さを多くの人にPRしたかった」と話す。

社会人野球にデータ活用の流れをつくったのは、日本代表「侍ジャパン」の社会人代表監督を務める石井章夫氏だ。2017年に監督に就任すると、ネクストベース社に依頼し、代表候補合宿で複数のデータ測定器を使って選手個々のデータを取り始めた。「限られた代表メンバーに能力のある選手を招集するためにも、持っているポテンシャルを数字できちんと把握したかった」からだ。

選手の特徴を可視化、選考にも活用

アジア選手権、アジア大会などの国際試合を通じて石井氏は、ライバルの韓国や台湾がパワー野球へとかじを切っていることを肌で感じたという。米大リーグでは投球の回転数、打者の平均打球速度や角度といった細かい数字が一般にも見られる形で公開されている。石井氏は「米国に倣って韓国や台湾も科学的データを駆使し始めた」と分析し、強い危機感を抱いた。

防御率や打率、打点、本塁打といった試合での成績に加え、選手の特徴を可視化できるデータを測定すれば、代表選手の選考基準の明確化にもつながる。感覚に頼るだけの練習と比べ、具体的なデータがあれば選手の上達も早くなると考えられ、石井氏は「同じ150㌔を投げる投手でも回転数や回転軸によって球質、軌道はそれぞれ異なる。『代表クラスのあの投手のようになりたい』と思ったとき、個々の数値があれば目標とする選手に近づくための大きな指標となる」と強調する。

日本野球連盟は今後、今回の都市対抗で取得した選手のデータをどのように活用していくかを検討する。蓄積したデータの各チームへの提供、一般への公開が今後の課題。石井氏は「新しい野球の視点を模索したい。情報が広く公開されれば選手の育成法、指導法が変わり、データを科学的に分析するアナリストのような専門スタッフも増える。社会人野球の取り組みが球界全体の意識改革を促すきっかけとなり、競技力の向上につながるはず。選手たちも喜んでくれる形になれば」と話している。

(常広文太)

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