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「鬼木の刃」切れ味鋭く J1川崎にスキなし

札幌戦の勝利で昨季から22戦無敗のJ1新記録を打ち立て、タッチを交わす川崎・鬼木監督(左から2人目、16日)=共同

今シーズンも明治安田生命J1リーグは王者川崎の強さが際立っている。17試合を戦って14勝3分けと無敗で首位を独走、2位名古屋との勝ち点差は10に開いた(5月20日現在)。一方、4チームがJ2に自動降格となる残留争いは激烈。すでに3チームで監督が交代し、そこにコロナ禍の影響を見てしまう。

監督交代の口火を切ったのは横浜FCだった。開幕から8試合未勝利が続き、4月8日に下平隆宏監督の解任とユースチームの早川知伸監督の昇格を発表。その6日後に鹿島がザーゴ監督の解任と相馬直樹コーチの昇格を、5月14日にG大阪も宮本恒靖監督との契約解除と松波正信強化アカデミー部長が暫定的に指揮を執ることを発表した。

開幕前、大型連休の頃には監督が何人か代わっていると予想していたが、昨季2位のG大阪、同5位の鹿島でそれが起ころうとは。この世界、本当に一寸先は闇だ。

特に気の毒に思うのは宮本氏だ。チームの新陳代謝に取り組みつつ、昨季はリーグ2位、天皇杯準優勝の好成績を残した。監督という仕事は解雇を恐れては何もできない。毎日が真剣勝負。チーム改革はクラブ全体で問題意識を共有しないと難しく、実現には時間もかかる。現在、無敵の川崎にしても長年、ライバル勢から「シルバーコレクター」と言われ続けた。宮本氏が進もうとした方向に間違いはなかったが、チーム内に新型コロナ感染者が出て、2月27日の開幕戦を戦った後、4月3日まで試合ができなかったことは大きなハンディになったと思う。

しかし、宮本氏もまだ44歳。2018年7月にG大阪の監督に就任してから吸収したものは多いだろう。試行錯誤しながらチャレンジし続けた3年間だったと思うし、今年1月の天皇杯のような「この試合に勝ったら優勝」という頂上をかけた戦いを経験できたのは貴重だ。今後必ず、その経験を生かせる舞台が回ってくるだろう。

鹿島は監督交代をうまく改善につなげた。危機に果敢に対処する、このクラブのフロント力をまたも見せつけられた思いだ。

鹿島の名サイドバックだった相馬監督は古巣にコーチとして戻るまで、川崎や町田で監督経験を積んできた。古い表現で恐縮だが「他人の釜のメシ」をたくさん食べてきた修業はダテではない感じ。監督経験が浅いうちは、選手に知っていることを多く伝えようとして逆に消化不良を起こさせてしまいがち。49歳の相馬監督の仕事ぶりは、それとは逆で、選手に伝えるべきことが簡潔に整理されていた。そうでないと就任後、公式戦9戦無敗(6勝3分け)、順位を15位から6位まで上げるという即効性のある仕事はできないものだ。

特に改善されたのは守備である。アプローチを仕掛けるときのボールや人との距離が確実に近くなり、一の矢が外れても二の矢、三の矢と継げるようになった。それが攻撃を加速させることにもつながっている。コロナ禍における入国制限で合流が遅れた新外国人選手も戦列に並び始めた。

G大阪や鹿島のような強豪でも早めに監督交代の挙に出たのは、やはり4チームが自動降格という今季限定ルールからくるストレスの大きさゆえだろう。

通常、J1に残留するための目安となる勝ち点は「試合数×1」とされる。38試合を戦う今季は勝ち点38がボーダーラインというわけだ。ただ、一昨年までのように2チームが自動降格で、下から3番目はプレーオフに回るルールなら、この〝法則〟がはまると思うのだが、降格枠が4チームに広がる今季は、確実に残留するには45は欲しいと個人的には見積もっている。そして、おそらく秋口には早々に降格する最初の2クラブが決まるくらいの感じであることも……。

川崎は名古屋との2連戦で連勝した(4日の試合で先制ゴールを決めるジェジエウ㊧)=共同

一方、優勝するために必要な勝ち点は「試合数×2」とされる。今季の場合は76ということになる(34試合制の昨季、川崎は83という驚異的な勝ち点で優勝したが、19年の横浜Mは70、18年の川崎は69で優勝)。現在首位を走る川崎は17試合ですでに45まで積み上げている。この調子なら、100という大台も夢ではない感じだ。

今季の川崎には〝風〟も吹いている。2位名古屋との天王山とされた2連戦(4月29日、5月4日)は連勝でスイープしたが、名古屋はフィッカデンティ監督が新型コロナに感染し、どちらの試合も指揮を執ることができなかった。指揮官不在の間、名古屋は1勝3敗と急ブレーキ。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に出場する両チームゆえの変則日程であるが、強力ライバルとの対戦を全日程の3分の1あたりで、それも敵将不在の間に終わらせることができるとは……。

川崎は日程の消化もスムーズでアクシデントにも襲われていない。昨季と同様、5人の交代枠をフル活用し選手をうまくローテーションさせながら戦う、鬼木達監督のマネジメントも見事だ。先発から外れっぱなしだと、選手のモチベーションはどうしても下がるけれど、対戦相手と選手のコンディションに応じて、一人の選手をあるときは先発、あるときはベンチからと、うまく使い分けている。先発で出るときと、交代で出るときでは役割が違うだけ。選手もその違いをきちんと心得てプレーしている。

日程がたてこむと計画的にコンディションを保つのは難しいものだ。まして毎試合、プレーの強度を高いレベルで保つのは。川崎はそれもできている。

感じるのは試合が最高のトレーニングになっていること。例えば、後半の残り30分から投入される選手の場合、「30分しかない」と思えるからプレーの強度をすごく上げてくる。様子見なんかせずにトップギアで試合に入る。ボールを取った、取られた、上がる、下がる、走る、をすごい強度で頻度で繰り返す。だからベンチにいる選手のコンディションが落ちていかない。週中の試合はベンチから、週末の試合は先発で、あるいはその逆という形で使われて、試合の強度の高さによってコンディションが維持される。その上で白星という結果もついてきて、自信はさらに強固になる。そういう好循環でチームが回っている。

圧倒的な攻撃力でゲームを支配する川崎は、相手のペナルティーエリア内でのプレー回数とパス本数が最も多いチームである。ペナルティーエリア内にボールが入った段階で川崎の選手は、ほぼ全員前向きになっている。守る側にすると、ボールは自分の前にあっても、マークすべき相手は通り過ぎた後なので、同一視野にボールと人を収めることができない。そうなるのは技術力と判断のスピードに差があるからだ。

ボールを取られた後のスプリント回数も川崎は今年さらに増やしている。そもそも相手陣内に深く入り込まないと、アタッキングサードでボールを取り返すのは難しい。取られた後のスプリント回数が増えているのは前提として、いかに相手を押し込んでいるかということ。そこの切り替えの速さはリーグナンバーワンだ。

そういう川崎の戦い方を見ていると、19年に横浜Mにリーグ優勝を持っていかれたのが、よほど悔しかったのだと思っている(それがなければ、17年から前人未到の4連覇を達成できていた)。横浜Mはロングスプリントが得意なチーム。そのダッシュ力を封じるには、相手陣内に押し込んで発動させないのが一番。押し込んで包み込んで顔を上げる暇さえ与えず、苦し紛れに蹴らせてそこを狙ってボールを回収という、ハーフコートに収めて戦うスタイルに磨きをかけた。

国内無敵の川崎は6月、いよいよACLの戦いに挑む。彼らのスタイルが、アジアで猛威をふるう姿を見るのが待ち遠しくて仕方ない。

(サッカー解説者)

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