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王さんから大谷へ 敵も魅了するスーパースターの系譜

オールスター戦で投打「二刀流」の先発出場を果たした大谷は圧巻の千両役者ぶりだった=共同

1回戦で負けて良かった?

大リーグのオールスター戦を見るのに、今年ほどテレビの前にくぎ付けになった年はない。日米のファンの注目を集めたエンゼルスの大谷翔平が、まず12日の本塁打競争で28本もかっ飛ばし、13日の球宴は先発投手で「1番・指名打者」と史上初の投打同時先発出場を果たし、160キロ台の剛球を投げて勝利投手に。圧巻の千両役者ぶりだった。

本塁打競争では2度の延長戦の末に1回戦敗退となったが、敗れてよかったともいえるのではないか。規定の3分間と、特大の本塁打を打って得た1分間のボーナスタイムと合わせて4分間打ち続けた結果、大谷は見るからに疲弊していた。これで準決勝、決勝と進んでいたら、もう一つの見せ場の球宴に差し支えただろう。

私は本塁打競争に出たことはないが、打撃投手を務めたことはある。誰に投げたかは覚えていないが、「素直な球がいくから」ということでご指名があったと記憶している。同志社大時代に投手を務めたことが、ひょんなところで役に立ったものだ。

オールスター戦でブルージェイズのウラジーミル・ゲレロ(右)と談笑するエンゼルスの大谷翔平=共同

オールスター戦には1980年から86年にかけて7度出場した。トータルでは1割台の打率しか残していないが、優秀選手に2度輝いた。1度目は中日時代の82年に大阪球場で行われた第3戦。終盤に代打で出て、全セの勝利を決める適時打を放った。

球宴のメンバーに選ばれると、まともに休養が取れないままペナントレースの後半戦に向かうことになる。そこで、このときは夏休みを兼ねて妻子と一緒に大阪に行った。子どもとホテルのプールで泳ぐなどしてのんびり過ごし、昼ごろ球場へ出掛けた。試合は代打の1打席だけで、優秀選手になって賞金を手に。「楽な仕事だなー」と思ったものだ。

2度目の受賞は84年、ナゴヤ球場での第3戦。中日の本拠地ということもあり「1番・中堅」で先発出場し、2安打した。この試合のハイライトは江川卓(巨人)の8者連続奪三振。私は外野を守っていたこともあり、この快投はオールスターで最も印象深い出来事として心に残っている。

MVP狙いで本塁打を打ちにいくのがオールスター

オールスターではどの打者も最優秀選手(MVP)を狙って本塁打を打ちにいく。当てにいかない、いわばいちかばちかのスイングは隙が生まれるから、オールスターでは空振りが出やすい。そうはいっても門田博光さん(南海)やブーマー(阪急)、落合博満(ロッテ)らそうそうたる顔ぶれの全パを次々に三振に仕留めていった江川はさすが。この年の江川の真っすぐは分かっていても打てなかった。だからこそ、9人目の大石大二郎(近鉄)にカーブを投げて二ゴロとされ、江夏豊さんの「9者連続」に並べなかったのはもったいなかった気がした。

16日のオールスター第1戦でMVPの全セ・菊池涼(手前)と、敢闘選手賞の(後方左から)全パの山川と山本、全セ・近本ⓒNPB/BBM2021=共同

他チームの選手に色々な話が聞けるのが球宴の楽しみといわれるが、私はあまり打撃論を交わしたことがない。当時は、よそのチームの選手と口をきいてはいけないという風潮があり、球宴でも深い話をする雰囲気ではなかったと思う。

一方で、ペナントレースで思わずはっとする言葉をかけられたことはあった。巨人戦で3ボール1ストライクから1球見逃し、フルカウントから四球を選んだときのこと。出塁すると、一塁を守っていた王貞治さんに尋ねられた。「ワンスリー(当時はストライク数を先に言った)からの球は『待て』のサインが出ていたのか?」。私が「出ていません」と答えると、「あれは振らないといかんな」。

1番を打つことが多かった私は、自分にあるノルマを課していた。1試合に2度は出塁し、後ろの打者に頑張ってもらって1度はホームにかえる。3連戦なら少なくとも計4本は安打を打つ。塁に出る意識が強かったため、3ボールから1球待てる場面では、甘い球でも見逃すことがよくあった。

常に球界全体の繁栄を考えていた「ON」

常にクリーンアップを打っていた王さんからすれば、どんなカウントであろうが一発長打を狙える甘い球を見逃す手はあり得なかっただろう。なんともったいないことを、という思いから出た言葉で、それからはカウント3-1からの1球は甘く来れば振りにいく気持ちで打席に立った。

王貞治さんの一言が打撃の視野を広げてくれた

戦前から戦後にかけて活躍し、通算1000安打第1号となった中日の大先輩の坪内道典さんにも「打者有利のカウントで1球見ると四球は取りやすいが、安打数は減る。積極的に打つ方が相手は嫌がるんじゃないか」とアドバイスしていただいた。四球は一塁止まりだが、振ればより先の塁に行ける可能性が出てくる。大先輩たちの一言で視野が広がった。

他チームの選手にアドバイスするのはご法度という時代に、同じ野球人という視点で王さんが苦言を呈してくれたのは実にありがたかった。巨人監督時代にライバルの阪神が戦力不足と聞き「それじゃあ困るんだ」と話した長嶋茂雄さんとともに、常に球界全体の繁栄を重要視していた。自分のところさえよければいい、と考える人が少なくなかった中、2人はスーパースターといわれるだけの心の広さがあった。

メジャーで大谷が本塁打を量産するのを敵味方なくファンが喜ぶのも、大谷を球界繁栄をもたらす宝と思っているからこそ。あまねくファンをとりこにする現代のスーパースターの魅力も計り知れないものがある。

(野球評論家)

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