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投手・大谷翔平の覚醒 見えたベーブ・ルースの背中

スポーツライター 丹羽政善

まだ、試合は序盤だったが、その瞬間、球場全体は終盤のピンチをしのいだときのような熱気を帯びた。

7月13日のアストロズ戦。大谷翔平(エンゼルス)は三回、真っすぐにめっぽう強いホセ・アルテューベ(アストロズ)をフォーシームだけで1−2と追い込むと、最後は100.6マイル(約162キロ)——その日最速のストレート、しかも、真ん中高めで空振り三振を奪った。

試合は、エンゼルスが二回に先制した後、2死一、二塁の場面で大谷が右翼線に走者一掃の三塁打を放ち、その差を3点に広げた。直後の三回。ここで点を取られれば、早々に流れを手放しかねない。1死一塁で迎えたアルテューベをどう仕留めるかは、その後の試合展開を左右する――そんな場面で大谷は、力でメジャー屈指の好打者をねじ伏せたのである。

そうした一方で五回は、16球中14球がスライダーとスタイルチェンジ。再びアルテューベと対戦すると、スライダーで追い込んでからスプリットを挟み、最後もスライダー。意表をつかれたか、フリースインガー(積極的なバッティングをする打者)のアルテューベのバットは、ピクリとも動かなかった。

大谷は結局、6回1失点でマウンドを降りたが、9勝目を挙げ、前半で昨季の勝ち星に並んだ。

チームの14連敗を止めた6月9日以降は、内容も圧巻。6試合に先発し、6勝0敗、防御率0.45。39回2/3を投げて、3失点(自責点2)、被本塁打0。ここ4試合は連続で2桁三振を奪い、チームでは1977年のノーラン・ライアン以来。日本人投手では95年の野茂英雄以来となった。また、過去5試合は52奪三振だが、5試合で50奪三振以上、自責点が1点以下だったのは、自責点が公式記録となった1913年以降、ランディ・ジョンソン(97)、R・A・ディッキー(2012)、クレイトン・カーショウ(14、15)、クリス・セール(18)に次いで、大谷が5人目となっている。

ところであの日、大谷は「奪三振というのは(自分の)強み」と話す一方で、こう言った。

「それに頼らずというか、トータルで毎試合勝てるように組み立てていくのもピッチングなので、どういうピッチングができるのか、いろんな選択肢をもてるのが一番いいこと」

硬軟織り交ぜ、柔軟に。引き出しが多ければ多いほど、その日の状態などによって、その都度、違った対応ができる。そんなピッチングを見せていたのは、むしろ、6月9日以降と比べれば数字的には劣る今季序盤のこと。六回1死までパーフェクトだった4月20日のアストロズ戦と7回を投げて11三振を奪った5月5日のレッドソックス戦を除けば、4〜5月はむしろ、苦労しながらアウトを重ねる試合の方が多かった。

コメントを振り返っても、それがうかがえる。

「球数も多かったですし、ランナーもそれなりに出てたので、なかなか苦しかったですけど、最低限の回は投げれたので、そこは唯一いいところかなと思います」(4月27日、ガーディアンズ戦。5回5安打、2失点)

「球速的にもそんなに調子がいい感じではなかった。その割には粘れた方かなと思います。身体的にもフレッシュな状態ではない。それはみんなそうだと思うんですけど、踏ん張りどころかなと思いながら投げていました」(5月11日 レイズ戦。6回2安打、1失点、5三振)

6月2日のヤンキース戦までは、さきほど触れた2試合を除けば、全試合で失点している。ただ、一つ共通していたのは、悪いなりに試合をつくってきたという事実。制球が悪くても、決め球であるスプリットが落ちなくても、引き出しを引っかき回して、抑えるすべを探った。

では、そうした試合の積み重ねは、6月9日以降にどうつながっているのか。13日の試合後、大谷に問うと「なんでしょうね」と少し思案してから、言葉をつないだ。

「長い戦いなので、悪かった試合をただ〝悪かった〟で終わらせるのかどうかで(その先が)変わってくる。6点取られたとき、ただ単に、〝調子が悪かった〟で終わらせるのかどうか、その捉え方で、だいぶ(その後が)変わってくる」

結果が出るに越したことはない。しかし、悪かった試合にこそ、自分を成長させてくれる動力が埋まっている。その存在に気づけるのかどうか。目先ではなく、長いスパンで考えれば常にそこが問われる。そう捉えるなら、良しあしなど、単にその日の結果を切り取ったものであり、その分類は一面的でしかない。なにより、その点における嗅覚の鋭さこそ、今年の彼を支えている。

「(点を)取られた試合の後がいいっていうのは、このシーズン、すごい大きい」

4月14日のレンジャーズ戦では、満塁の場面でスプリットをホームランされるなど、3回2/3を投げて6安打、6失点。しかし、続く20日のアストロズ戦ではきっちり修正し、先ほども触れたように六回1死までパーフェクト。6月2日のヤンキース戦では、3回0/3を投げて8安打、4失点。しかし、9日のレッドソックス戦では7回を投げて4安打、1失点。

大谷は言う。

「いい試合を継続していくのも、もちろん大事ですけど、必ず3点、4点取られるときもくるので、何が悪かったのかな、っていうのを、毎回毎回、反省して次につなげていきたい」

おそらくそれは打撃でも同じこと。投手と違って、10回の内、3回ヒットを打てば成功。ミスのほうが圧倒的に多い。凡打から、何を嗅ぎ取るか。失敗を重ねることでしか、得られないものがある。

大谷は16日、前半を終えた。

投手としては15試合に先発し、9勝4敗、防御率2.38、123奪三振、22四球。打者としては、打率2割5分8厘(333打数86安打)、19本塁打、56打点、51得点、15二塁打、2三塁打。ベーブ・ルースが1918年に記録してから、誰もその影さえ踏めなかった2桁本塁打、2桁勝利まで、あと1勝。気づけば、偉大な先達の背中が、視界に入った。

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拝啓 ベーブ・ルース様

米大リーグ・エンゼルスで活躍する大谷翔平をテーマに、スポーツライターの丹羽政善さんが彼の挑戦やその意味を伝えるコラムです。

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