/

震災を機に東北のクラブ支援 社長・オーナーに聞く

J3盛岡はNOVAホールディングスの資金で選手を積極補強した

東日本大震災で打撃を受けた東北のスポーツクラブが、新たなオーナー企業のもとで再出発している。手を差し伸べた理由や、生まれた変化は何か。クラブや親会社の3社長に聞いた。

サッカー女子マイナビ仙台・粟井俊介社長

サッカー女子のマイナビ仙台レディースは9月開幕のプロリーグ、WEリーグに参戦する。東京電力マリーゼからJリーグ1部(J1)仙台の女子部門へと、震災後の10年間は形を変えて奮闘してきたが、2月からは就職情報大手マイナビの支援を受けている。同社出身の粟井俊介社長は女子サッカーの未来を開き、地元の人々を勇気づけるクラブを目指すという。

マイナビ仙台レディースの粟井俊介社長=マイナビ仙台提供

――クラブの親会社となった経緯は?

「震災からの復興を目指す東北に何か協力したいと2014年にベガルタ(仙台)のスポンサーになったのが始まりだった。WEリーグ立ち上げの時、ベガルタから経営を引き継いでほしいという話があった。女性活躍社会のけん引役になるというWEリーグの理念は、様々な人生の転機をサポートするマイナビの理念とも合致する」

――WEリーグのクラブで初めて全選手のプロ契約を打ち出した。

「これまでアマチュアリーグだったから選手は体のケアなどに時間をかけきれなかった。プロ選手になることで午前から練習して午後は人間性を磨き、体のケアや戦術に磨きを掛けられる。そうした環境を全選手に整備することが一番の狙いだった」

――女子サッカーの年俸水準は高いとはいえない。

「従来もリーグのごく一部の選手はプロだったが、年俸200万円くらいの選手も多かった。そこを大きく引き上げた。先行投資だが、選手たちと一緒に女子サッカーの市場を大きくし、東北の皆さんが前向きになれるメッセージを伝えていきたい」

――事業的な見通しは?

「これまで選手の人件費がほとんどかかっておらず、チームの予算は1億~1億5000万円くらいだった。今は『1桁億円』の真ん中くらいで(男子の)J3くらい。1季目はチームの結果を出しながら選手の発信力や人間性を高める基盤固めをしたい。3季目で採算が取れるように勝負することが現実的かと思う」

――選手のキャリア形成も支援している。

「マイナビの事業に『アスリートキャリアスクール』がある。競技で培った力を(ビジネスなどで)生かすための気づきを与えるスクール形式の場で、うちの選手が昨年12月~今年1月に講師をやった。選手にとっても教えることで成長できる。そうした発信の機会をつくり、社会にメッセージを届け、常に自分を高める機会をつくろうとしている」

バスケットボールB2仙台・志村雄彦社長

バスケットボール男子の仙台は震災後、11年に一時活動を休止、16年のBリーグ1部(B1)に参戦後も資金力の差に苦しみ、1年でB2に降格した苦い経験を持つ。巻き返しを期し、地元でサプリメント製造販売を手掛けるボディプラスインターナショナルの支援を18年から受ける。震災当時に選手だった志村雄彦社長はお金に換えられない価値を地域にもたらしたいと強調する。

B2仙台の志村雄彦社長

「当時はどう生きていくかで精いっぱい。今の言葉でいえば、バスケが不要不急なものだった。また仙台でバスケができるとは到底考えられなかった。資金調達などいろいろ課題がある中でファンがチーム存続の署名活動をしてくれたこともあり、11年10月のシーズン開幕にこぎ着けたのは素晴らしかった。ただ、もう当時を知る選手やフロントスタッフはクラブにいない。当時の記憶や思いをつなぐのが僕の役目だ」

――ボディプラスが親会社になった経緯は?

「Bリーグに参戦した後、資金的な事情もあって厳しい戦いを強いられていた。震災以降に結びつきが強くなったボディプラスさんといっしょにやっていこうと当時の経営陣が判断。私も選手を引退してフロント入りした」

――どんな変化が生まれましたか?

「ホームアリーナをゼビオアリーナ仙台に移し、エンタメ性を前面に打ち出すことでB2で2年連続集客数1位になった。足で稼ぐことでスポンサーも約90社から約150社に増加。今年もコロナの影響がありながら過去最高のスポンサー収入となった」

「今までは(看板などの)露出だけでスポンサー営業をすることが多かったが、宮城県内の各地域で試合をする『ナイナーズフープ』などの地域貢献活動への支援もしてもらうようになった。コロナで大会がなくなった子供の試合をプロに近い演出で開催したり、子供向けにボールの寄贈をしてもらったりと、今までと違う活動で協賛をもらっている」

――震災から10年が過ぎた。今後の地域への貢献は。

「チームの存在自体が地域への貢献。試合をしていろいろな人がつながることで地域への貢献は計り知れないものになる。先日、宮城県南三陸町で試合をした。9シーズン前から試合をしているが、昔、お客さんだった子供がボランティアとして手伝ってくれたし、『来てくれてありがとう』と言ってくれる人もいた。これが僕らの仕事だと思った。利益を上げることはもちろん、お金で買えないないものをつくっていきたい」

NOVAホールディングス・稲吉正樹社長

英会話教室大手のNOVAホールディングスは19年にサッカーJ3の盛岡の親会社となった。経営面で苦闘が続いてきたクラブを支援する同社の稲吉正樹社長は、積極的な資金支援こそが地元への貢献になると話す。

J3盛岡の親会社となったNOVAホールディングスの稲吉正樹社長

――経営権取得のきっかけは?

「うちは教育や語学、海外というキーワードでビジネスをしている。その次を考えたとき、顧客である子供たちとシナジーがあるスポーツかなとなった。プロチームのスクールは地元で広く受けいれられている。Jリーグのクラブでチャンスがあればと探していた中でグルージャ(盛岡)から縁をもらった」

――クラブ経営で特に力を入れているところは?

「これまでは経営のテーマが『存続』になってしまっていた。選手への投資ができていないから負けてサポーターが離れ、スポンサーも獲得が難しいという悪循環だった。まずは最大の商品である選手に予算を割いた。クラブの予算規模は以前の約3億円から約5億円と全く違うチームになった。フロントの人員も今までの3倍に増やし、営業や地域連携のための人員を特に強化している」

――今年は震災10年の節目の年となる。

「Jリーグで唯一、県内の全自治体をホームタウンにさせてもらっている。今年から全県ホームタウン構想を立ち上げ、選手一人ひとりを各自治体のアンバサダー的な存在に指名した。職業体験のような取り組みや、小中学生の無料招待などいろいろな取り組みを始めた。今後は全ての自治体でスクールを開校できるようになればいい」

――J2、J3の基準を満たすホームスタジアムへの期待もかかる。

「今のいわぎんスタジアムでJ1ライセンスを取るには改修、改修となり、難しいかと思っている。我々が指定管理者になれる新スタジアムを盛岡駅の近くにつくれればいい。チームや会社単体ではできないので行政や地元企業の皆さんと一緒に10年以内に実現したい。寒冷地に合ったドーム型にできれば一番いい。ただ、昨年の順位は最下位。まずは勝ってスタジアムが必要という機運にすることが第一歩だ」

――今後、地域にどんな貢献をしていきたいか?

「全県の誇りに感じてもらえるよう、強く大きなチームにすることが僕たちにできること。クラブに投資して大きくすることが一番の貢献になる」

(聞き手は谷口誠)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン