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本は読んだ、さあ旅へ 最低3冊持って旅情を楽しむ

2019年春の家族旅行で(岩手県花巻市の宮沢賢治記念館)

新型コロナウイルスの影響で自粛生活が長引き、趣味の読書に費やす時間が増えた。自分の名前すら書けぬまま小学校に入学し、当然、勉強にもついていけずに劣等生だった私。その償いといわんばかりに、両親はたくさんの本を与えてくれた。印象深かったのは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」だ。ストーリーが漠然としていて、幼い頃の自分には理解し難かったけれど、人は感情を持つ生き物であり、さまざまな世界観を持っていてよいのだという意識が子供心に芽生えた。

高学年で読んだジュール・ヴェルヌの「神秘の島」からも大きな影響を受けた。絶海の孤島に漂流した人間たちが互いに知恵を出しながら生きる様を通じて、科学知識の面白さや人間のたくましさを学んだ。

これらの書籍には途中で数点の挿絵があるものの、情景を頭の中で想像するにつれ、あたかも自分が実際にそこにいるような錯覚をおこした。その過程でまだ見ぬ将来への期待、そして大人になりどのように生きるのかというビジョンを育み、もっともっと未知なる世界へ旅に出たい、という内なる衝動に駆られるのだった。

このような私の幼少期の経験もあり、2年前、童話の舞台である岩手県へ家族で旅した。事前に宮沢賢治の童話集を妻と分担し娘に読み聞かせておいた。おかげで賢治の心の理想郷「イーハトーブ」とされる岩手の野山や川が、娘には童話の舞台に見えたのだろう。旅行中ずっと童話のなかの登場人物について楽しそうに語り続けた。その後も娘は宮沢賢治にとどまらず幅広く読書に夢中になってくれた。

私自身、本に触発されて見知らぬ世界への憧れを膨らませる生き方は今も変わらない。長期にわたって出かける際には最低でも3種類の本を持つようにしている。ひとつは寝る前に読むと安眠できる本。すでに内容を知っていてストーリーが軽妙で、気分が良くなる物語は睡眠導入剤の役割があり重宝する。そしてもう一つは仕事に関係する、半ば読まねばならないもの。

最後がその旅で訪れる地にちなんだ本だ。以前、山口県の駅でふと購入した吉田松陰や高杉晋作をテーマとした司馬遼太郎の「世に棲む日日」は道中読み続け、小説に登場した土地を訪れると、旅ならではの感傷的な心境も手伝って、およそ150年前の彼らの姿や情熱がありありと現在の出来事のように目に浮かんだ。それから幕末史に強く引かれ、この読書スタイルが病みつきになった。時間があれば本の舞台となった地にあえて足を運ぶこともある。私にとって旅と本は、切っても切り離せない存在となっている。

本を読み、本で培った空想を伴って旅することは、単なる趣味を超えた人生そのものといえる。旅は日常生活でささくれ立った心を癒やし、心を新しい何かに向かわせるエネルギーをわきたたせる。そこに本があると、より一層効果があるように感じる。この1年以上にもおよぶ自粛中心の生活で新たな本に触れ、おかげでまた足を運びたい場所も増えた。本を携え、再び全国各地を気兼ねなく巡ることができる日が待ち遠しくてならない。

(プロトレイルランナー)

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