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スポーツ界に希薄な主体性 今こそ「独立自尊の精神」を

ドーム社長 安田秀一

米スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店、ドームで社長を務める安田秀一氏はスポーツを健全に発展させることは、地域の活性化につながると考えています。ただ、現在の日本は中央集権が進み、独立自治の発想が希薄とみています。今回はスポーツと日本社会の統治の現状にまで思考を広げていきます。

◇   ◇   ◇

東京五輪・パラリンピックが終わり、菅政権が終わり、岸田内閣の誕生とともに総選挙を迎えるという、大変慌ただしいというか、政治家の都合に振り回されているように感じます。特に昨今はスポーツと政治の関わりを強く感じることが多いです。

僕自身、スポーツ関係の会社を創業して以来25年間、欧米におけるスポーツ文化が生み出すさまざまなメリット、人材育成、地域活性化、経済効果、いうなれば人づくり、街づくり、それに伴う税金の使い方などをつぶさにみてきました。ダイナミックに進化し続ける欧米のそれに比べると日本のスポーツはしばらくの間、「体育の延長」という価値に限定されていました。

「寄らば大樹の陰」的な日本の「空気」

その差を生み出している根本的な背景に「意思決定方式の違い」があると強く感じています。欧米のそれは、スポーツチームの運営も、街づくりにおける税金の使い方も「独立自尊」の精神、つまり「民主的な発想」が根底にあり、反対に日本の場合は「親方日の丸」で、寄らば大樹の陰的な「空気」が意思決定の大きな根拠になっていると感じています。

例えば、日本の水泳選手は「プロ」なのでしょうか。もしくは誰の、どんな活動までがプロで、どこまでがアマチュアなのでしょうか。学生でもプロ活動はできるのでしょうか。そして、そのルールはどのようなプロセスで決められるのでしょうか。選手の活動やその収入はどの組織によって管理され分配され、どのように納税されているのでしょうか。

そもそも金メダルのために公金を投入していいのか?ということ自体、「空気」が決めていると感じますが、僕個人としては選手が主体的に自身を「プロ」と定義し、日本水泳連盟に属さない形でプロ活動すべきだと思っています。つまり、水泳連盟は日本オリンピック委員会(JOC)やスポーツ振興くじtotoの運営団体である日本スポーツ振興センター(JSC)から補助金をもらっている団体ですので、お金を稼ぐことができない選手に対する助成に限定すべきだ、という考えからです。

日本の各競技団体を見てみると、大半の活動費を補助金に頼っている状態が続いています。従い、日本の財政悪化から補助金の増加は見込めず、少子化で競技人口は縮小し、明るい未来を描くのが大変厳しい状態です。さらに言えば、補助金はJOCやJSCの定義する基準によって支払われますから、競技団体は競技者やファンよりも中央団体の意向を最優先してしまいます。

例えば、東京五輪で5個の金メダルを獲得した日本のレスリング、競技人口は約1万人だそうです。対して金メダル3個を獲得した米国のレスリング人口(会員登録者)は23万人で、米国のレスリング協会の2020年の収入は11億円を超えていて、そのうち半分以上の6億円強を登録会員からの会費が占めます。

一方で日本のレスリング協会の収入は8.4億円で、そのうち補助金などが4.9億円で58%を占める「親方日の丸」状態です(「日本レスリング協会令和3年度収支予算」から)。また補助金の根拠になっているのが金メダルなので、メダル獲得に全ての力学が向かってしまいます。一方で米国は、会員登録者数が財源の根拠ですので、より本質的な「レスリングの普及、活性化」に力学が向かっていきます。

中央集権では時代に合わない

学生野球を例にすると、「早慶戦」を筆頭に数万人の観客が入り、全国的に知名度の高い東京六大学リーグと、北海道学生野球連盟とはその環境も課題もまるで違うに決まっています。しかしながら、現状は日本学生野球協会の定める「日本学生野球憲章」にのっとった運営しかできず、地方大学野球の運営は困窮を極めています。チームはスポンサー集めなど商業活動ができず、活動費を得るために学生がアルバイトをするという本末転倒な話をよく耳にします。自立に向けて創意工夫をする「独立自尊」の精神を根っこにもてば、中央集権で時代に合わなくなった野球憲章の改定が進むのではないでしょうか。

この構造はスポーツのみならず、地方交付税交付金に頼る地方行政とまったく同じ状況といえると感じています。これは「スポーツを通じて地域社会を豊かに」という目標を掲げて設立した「いわきFC」というサッカークラブを通じてそのことを強く実感しました。地域にはほぼ財源がなく、できることといえば中央政府が設定する補助金付きの政策ばかりです。戦後75年間、そんな状態だから自力でゼロから価値をつくるという発想や気概が育っていないことに、大きな課題を感じます。

新たな日本のリーダーとなった岸田文雄首相は、所信表明演説で「分厚い中間層を生み出す」と演説しました。この「分厚い中間層」は間違いなく地方にたくさん存在していました。地方に拠点を持っていた第2次産業に、団塊の世代という働き手が猛烈に働くことで、昭和の復興は成し遂げられました。

新しい資本主義や分配が先か成長が先か、などという表層の議論の前に、過去から数十年にわたって言われ続けている本質的な課題が「地方創生」です。ここから目を背けては、成長も分配もあり得ないと思います。地方創生を僕なりに解釈すれば「地方分権」という仕組みの変革であり、その背景となるのは「独立自尊」の精神だと思います。

地域の競争が国全体の活力に

合衆国であるアメリカも、連邦国家であるドイツも州独自の憲法が制定されていて、まさに地方の独立自治が国家運営の基盤となっています。日本では「イギリス」とよばれる国家の実態は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの国の連合体です。それぞれの州や国には地域を代表する有名な大学やスポーツチームが存在し、スポーツでも経済でも教育でも地域同士の競争が盛んで、国家全体に血液を循環させています。日本においても、江戸時代までは藩が独立自治を行い、「天下太平」の根源となっていました。

緊急事態宣言が明け、世界で活躍した3人のアスリートたちと久しぶりに会食しました。彼らは3人とも日本の地方から世界に旅立ち、再び日本を活動の拠点にしています。1人の現役アスリートは、「安田さん、給料は下がってしまうんですが、現役最後はXX県に帰って、地元を盛り上げたいって思ってます」

元アスリートの1人は、地元の復興を夢に見て、現役時代に稼いだお金を元手に地域経済へ投資をし、事業にまい進しているとのことでした。

もう1人は、こんなことも言っていました。

「僕が子供のころ、XXの工場が地元にあって、クラスの半分くらいはXXの関係者だったんじゃないかな。XXが地元でお祭りやってくれたり、運動会をやってくれたりしてすごい華やかだったなあ。今は、工場自体がなくなって、本当に人がいなくなりました。にもかかわらず、立派な県庁の隣には同じく立派な市役所があったりします。一体どうなってるんでしょうか。僕はスポーツを使って地元を元気づけ、活気づけたいです。やっぱり地元に帰ろうかなぁ」

新型コロナウイルス禍で多くの人々の価値観が変わっている中、地元の疲弊を悲しむ若者は着実に増えていると感じます。半面、今の党首討論を聞いていると、どうしても「親方日の丸」的な発想で、東京に集めた税金をまんべんなくばらまくことばかりアピールしているように感じます。

「そもそも中央集権の仕組みのままでいいのか」

「地域社会が自ら財源を持ち、自ら決断すべきことじゃないのか」

僕は「大好きなスポーツを仕事にして、主体的に生きたい」と、そんなことを思い、25年前に起業しました。そして「スポーツしかない!」というような街が、欧米にはたくさん存在するのをつぶさに見てきました。スポーツ以外であれ、その街の特徴を生かし、地元愛を活力に、自ら自立と成長の芽をつくっていく。そんな街々がボトムアップで国家を支えていく。

「成長か分配か改革か」

それらすべての活力の基礎となるのは民主主義の力、なにより「独立自尊の精神」だと僕は思っています。そんな社会に導いてくれるのはいったい誰か。じっくりと選挙に向き合いたいと思います。

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在はドーム代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる。

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