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聖火リレーに感じる矛盾 現代のリーダーシップとは

ドーム社長 安田秀一 コロナ下の五輪(上)

聖火ランナーを一目見ようと集まった見物客ら=共同

東京五輪まで100日を切りました。聖火リレーが始まっていますが、新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、公道を走らないケースも増えています。こうした状況を、スポーツアパレルを扱うドームで社長を務める安田秀一氏は「密を避けるように求める一方で、なぜ人が集まるイベントをするのか」と疑問を呈します。さらに旧来型リーダーシップの問題点などを指摘します。

◇   ◇   ◇

私事で恐縮ですが、僕の経営する会社は今年で創業25周年を迎えます。緊急事態宣言の解除後、屋外で安全にできるイベント、例えばスポーツ大会やバーベキューでもやって社員みんなで祝おうか、などと検討しました。でも、変異ウイルスなど新型コロナの感染が再拡大している状況下、断念せざるを得ませんでした。うちに限らず、企業は経済活動そのものを含めたあらゆる活動が制限されたり自粛が求められたりしています。さらに言えば、飲食業や宿泊業など直接的な打撃を受けている方々の苦難とその無念を思うと、胸が張り裂けそうな気持ちになります。

でも、テレビをつけると大勢の人を集め、楽しそうに聖火リレーをやっています。「飲食店は時短営業を!」「屋外でも飲食はしないこと!」などと言いながら、自治体が主催者となって人が集まるイベントをやっている。一方でワクチン接種はなかなか進まない。ニュースを見れば、諸外国のワクチン接種はどんどん進み、その効果が生み出す期待感から消費が大きく回復している状況を目にします。果たして我が国は大丈夫なんでしょうか。

二重、三重に折り重なるように生じている矛盾に、何ともいえない無力感を覚えるのは僕だけではないはずです。有事ですので、完璧な対応は誰も求めていないでしょう。しかしながら、コロナ禍の真っただ中で行う予定の五輪への対応が、政局を優先した場当たりなものに見えてしまい、むなしさばかりが心に募ります。

双方向のコミュニケーションを

さらに主観で言わせてもらえば、菅義偉首相も小池百合子東京都知事も「テレビ時代のコミュニケーション」しか取らないところに、現代社会との絶望的な断絶を感じます。

つまり、物事をより良い方向にしようとする「議論」ができず、一方的に情報を吸い上げて、一方的に決断を強いるという一方通行の「テレビ型」の意思決定に終始しているということです。

現代社会のコミュニケーションは同時多発で情報共有され、物事が進行していく多方向の「リアルタイム型」になっています。メディアの発するあらゆる情報に対して、個々の意思をいつでもいくらでも伝えることができる。すなわち重なり合う双方向のコミュニケーションが、現代の生活様式の軸であり意思決定の根拠になっています。

菅首相も小池知事もTwitterなどソーシャルメディアのアカウントを持っていて、情報発信も熱心です。でも、その使い方が「テレビ的」で、意見の集約はするけれど議論はせず、かたくなな姿勢を貫いて印象を悪くさせてしまっています。情報収集後、対応したほうが有利になりそうな事案のみ、対処としての「一方的なお願い」をする。これが何をしても「後手の対応」と言われてしまう原因でしょう。

スマホとクラウドによって情報が瞬時に共有される時代です。現実社会は失敗も成功ものみ込みつつ、リアルタイムで物事が進行します。欧米諸国のワクチン接種の実態を見ていると、人々は目先の失敗を受け入れつつ、改善を重ねることでワクチン接種の効率性がどんどん上がっているのがよくわかります。

求められているのは、ライブ感のある議論や意見のやりとりでしょう。「こう考えているが、 もっと良いアイデアがあったら教えてください」というのが正しい姿勢だと思います。あくまでもそういった「姿勢」が大切であり、すべてに対応するということではありません。かたくなに推し進めるのではなく、透明化された議論を行うべきだということです。医療現場にすらワクチンが行き届いていない現状下、いったいどのように五輪を開催するのか、明確な実行プランの説明はありません。刻々と状況が変わる中、適宜透明化された議論があったなら、今ほど否定的なムードは広がらなかったと感じます。たとえ足元で大失敗をしても、次の成功が即座にその失敗を修復してくれる。現代社会はそんなスピード感で動いています。

女性蔑視発言をした森喜朗氏

旧来の一方通行型リーダーシップの最も大きな問題の一つは、自浄作用が効かないことです。当人が勝手にふさぐ「フタ」、その下で問題がどんどん大きくなっていることに、自分や周辺組織は気づくことができません。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の前会長、森喜朗氏の女性蔑視発言でも、本人を含む関係者の誰もが「謝罪したから問題は解決した」と一方的にフタをすることを試みました。結果的に、世界中の大問題となってしまったのがわかりやすい事例です。

最近では全日本柔道連盟(全柔連)が組織内部のパワハラを隠蔽していたという報道がありました。全柔連の会長は、日本オリンピック委員会(JОC)の山下泰裕会長が兼務しています。パワハラの隠蔽以前の問題として、税金を含む公的な補助金を分配するJOCと、それを受け取る加盟団体のトップが同じ人物であることは、ガバナンス上ありえない事態です。しかし、その問題をJОCや全柔連の理事会などでも議論された形跡はありません。謝罪というフタをすることで、周りは忖度(そんたく)してわきまえてしまいますから、正しいやり方に修正する機能が働かないわけです。

◇   ◇   ◇

後編(「五輪頼みからの脱却 スポーツ界、正解に近づく努力を」)に続きます。

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる。
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