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「二刀流」大谷に魅せられた ベン・バーランダー

スポーツライター 丹羽政善

昨年3月16日、ウィリアム・ヒルスポーツブック(現シーザーズスポーツブック)というオンラインのギャンブルサイトは、大谷翔平(エンゼルス)が2021年のア・リーグMVP(最優秀選手)を獲得するオッズを+3000に設定した。100ドル(約1万1400円)が3000ドルになる計算だ。

翌17日、サイ・ヤング賞を過去に2度獲得し、11年にはア・リーグMVPとのW受賞を果たしたジャスティン・バーランダー(アストロズ)の弟で、昨年2月半ばからFOXスポーツのリポーター兼アナリストを務めているベン・バーランダーは、「僕なら、ショーヘイ・オオタニに賭ける」とツイート。「ケガさえしなければ、彼はMVPを取るようなシーズンを送る。そのことを誰が否定できるんだい?」と続けた。

その彼に昨年12月、久々にアナハイムで会った。

「すごい儲(もう)かったんじゃない?」

そう声をかけると、バーランダーは「みんなに言われるんだ」と苦笑しながら、両手で顔を覆った。「本当に賭けておけばよかった……」

ツイッターのプロフィル欄に、日本語で「大谷翔平大好き」と載せるほど熱狂的な大谷ファンのバーランダーは昨年春、オープン戦が始まってから大谷が本塁打を量産し、投手としても復調を示すと、MVPの可能性を開幕前から訴えた。その時点ではしかし、賭けの倍率が示すように、大谷の世間的な認知度はまだまだ。

〝週刊大谷ニュース〟立ち上げ

彼は3月25日から「Flippin' Bats」という週1回の番組をYouTubeチャンネルで開始し、1回目に「今年、大リーグで注目すべきトップ5」というテーマで大谷を扱ったが、そこまで時間を割いて凄(すご)さを力説したわけでもない。いや、バーランダーとしてはもっと大きく扱いたかったが、「プロデューサーが、そこまで興味を持ってくれなかった」と振り返る。なんなら、大谷コーナーをつくろう。「Flippin' Bats」のスピンオフとして、大谷の単独プログラムを立ち上げよう、とも訴えたが反応は鈍く、「『まぁ、そのうちに』とはぐらかされ続けた」そうだ。

結局、〝週刊大谷ニュース〟がスタートしたのは5月18日のこと。そのときは「Flippin' Bats」の1コーナーだったが、翌週からかねての念願通り、「Flippin' Bats」のスピンオフとして、「週刊大谷ニュース」を独立させた。

「実は、プロデューサーが変わったんだ。もちろん、ショーヘイの活躍があってこそだけど、新しい人は僕がやりたいことを理解してくれて、最初はさすがに『大谷だけで、1本つくるのか?』と驚かれたけど、途中からは『どんどんやろう』という感じだった」

当初は、1回あたり3〜5分程度。しかし、その時間はどんどん長くなり、時には10分を超えることも。8月に入ると専用のセットが組まれ、なんとスポンサーまでついた。「PV(ページビュー)も増えて、それは通常の番組と比べて10倍以上だった」

実は、彼のプログラムは日本でも人気で、YouTubeだけでなく、ポッドキャストで公開されているが、昨年は度々、野球部門の人気ランキングでNo.1となっている。シーズンが終わるとバーランダーは、テレビなど、メディアのビジネス面を評価するサイノプシス・メディアから、スポーツ関連ウェブチャンネルのベストホストに選出された。

二刀流を諦めた大学時代

それにしてもなぜ、ここまで大谷に魅せられたのか。その問いに彼は、自身の大学時代まで時を戻している。

「兄もプレーしたオールド・ドミニオン大で、2年までは二刀流としてプレーしていたけど、3年生になるとき、コーチに呼ばれたんだ」

彼は、そのときのことを「一言一句、思い出せる」と言いながら、コーチの威圧的な口ぶりをまねた。

「二刀流は無理だ、諦めろ。どちらかに絞らなければ、ドラフトされない」

非情の宣告だった。

「確かに、自分には二刀流は無理だった。ショーヘイほど、才能もなかった」

そのコーチの言葉は正しかったが、間違いでもあった。

実際、打者に絞ると、3年のときには打率.367、11本塁打、出塁率.429で、オールアメリカンのサードチームに選ばれ、13年6月のドラフトで兄が所属していたタイガースから14位で指名されている。「意固地になって二刀流を続けていたら、やはりドラフトされなかったと思う。どうやってそれぞれに練習時間を割けばいいのか、どんなトレーニングをすればいいのか、まるで分からなかった。だから、コーチは正しかった」

しかし、〝二刀流が無理〟という決めつけには、ずっと納得がいかなかった。

「道はあると思っていたから」

悶々(もんもん)とする中、日本では二刀流として活躍する選手がいることを知る。そして2018年、大谷が海を渡ってやってきた。「言葉にならないぐらい衝撃的だった。自分の夢を実現してくれたから、という話ではない。やはり、『無理だ』という考えが支配的だった。でも彼は、100年の常識を覆してしまったのだから」

兄ジャスティンと大谷の初対戦の衝撃

まだ、大谷がメジャーでデビューして間もない頃、再び言葉をなくした。2018年5月16日、大谷は、彼の兄であるジャスティンと初めて対戦し、3三振を喫している。

試合後、「野球をやってきて、おそらく打席の中で見た一番速い球。ここまで品のある球というか、スピードもそうですけど、なかなか経験したことがない」と大谷は話したが、弟の視点は異なった。「1打席目、兄は真っすぐでショーヘイを追い込んだ。しかし最後、スライダーで三振を取った」

確かにジャスティンは5球続けて真っすぐを投げ、2−2と追い込んだ。しかし、6球目はスライダーが外れ、7球目もスライダー。その球に大谷のバットが空を切った。

「兄はルーキーと対戦するとき、変化球なんて投げない。真っすぐで押して、力の差を見せつけようとする。ところが、スライダーを投げた。ショーヘイが普通の打者ではないと認めた証拠だった」

昨年6月、ヤンキース戦を見ながら、バーランダーは兄とメッセージのやり取りをしていた。大谷が内角高めの真っすぐを2球連続で空振りしたとき、「やはり最後も、高めの真っすぐで勝負してくると思う?」と兄にメッセージを送ると、こう返信があった。

「気をつけたほうがいい。ショーヘイなら適応してくる」

すると大谷は、1−2からの5球目、相手が内角高めに投げ込んだ真っすぐをライナーで右翼席に運んだ。

「やはり、2人は次元の違う選手であることを、思い知らされたよ」

昨シーズン、1年にわたって大谷を追いかけたバーランダーは、もっと、大谷のことを知りたくなった。「日本へ行って、大谷がどうやって育ち、どう二刀流を極めていったのか、たどってみたい。二刀流のルーツに関して、ぜひ、ドキュメンタリー番組をつくりたい」

11月、大筋でその許可がFOXスポーツから下りた。後は、新型コロナウイルス感染拡大が収まり、日本への入国制限が緩和されるかどうか。

「なんとか、収まってほしいね。そしたら日本へ行って大谷ファンとも交流したい」

(敬称略)

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