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車いすの息子に伴走 聖火に託す介護負担減の願い

東京五輪の聖火リレーが始まって1カ月が過ぎた。新型コロナウイルスの感染再拡大で公道を走らない場所があるものの、聖火は着実に全国を巡っている。静岡県に住む落合重美さん(82)は6月、車いすで運ぶ息子の伴走を務める。その車いすは自作したもので、障害者らの負担を軽減する工夫を盛り込んでいる。リレーで広く知ってもらい、障害者とその家族の人生を変えたいと願っている。

「本番までには、もう少し座り心地を良くしないとね」。JR菊川駅(静岡県菊川市)から近い自宅の居間を改装した工房で、車いすの青い座面の感触を確かめながら、落合さんの目は一段と細くなった。

次男の泰明さん(42)は左脳障害のため福祉施設で車いすの生活を続ける。日々の生活の中で大きな問題の一つが究極のプライベートである排せつだ。トイレに行きたくなった場合、介護者に支えてもらいながら便座に移動するなどの必要がある。車いす利用者にとっては精神的な負担、介護者にとっては肉体的な負担になる。

聖火ランナーとして参加する予定の泰明さん=落合重美さん提供

自作したリフト付き車いすはこうした問題を軽減する。いすの左右にある滑車とベルトを使った手動式のハンドルを動かし自分の体を持ち上げる。座面には穴が開いており、ジッパーを股下まで下ろせる「穴開きズボン」を着用していれば、簡易型の便器を尻の下に置いて1人でも排せつすることができる。

NTTで福祉分野の新事業を企画していたサラリーマン時代から次男の生活をサポートする機器の開発構想を温めていた。1993年に退職した後は車いすの開発がライフワークに。電動リフトは高額になるため、簡素な仕組みの手動リフトの改良を重ねてきた。

以前、試作品を出展した福祉機器の展示会で、親の介護を20年間続けたという高齢の女性から「これがあれば、私の人生は変わっていた」と涙ながらに話しかけられたことがあった。リフト付き車いすは障害者や高齢者を抱える家族の希望になるのではないか、と考えるようになった。

実は五輪には縁がある。2002年ソルトレークシティー冬季五輪では、大会組織委員会が公募していた障害者の観戦者らを助ける福祉機器に、車いすを載せられる「雪上車いすキャリー」を提案した。採用が決まり、20台を寄贈。現地に足を運び、使い方を指導した。功績が評価され、大会組織委のミット・ロムニー会長から感謝状が贈られた。五輪は社会の変革を呼びかける舞台になる、と思った。

それから約20年。再び五輪との縁がめぐってきた。新たにガススプリング(空気バネ)をリフトと組み合わせ、大きな力を加えなくても体を浮かせられる新型を開発しているときに、応募した聖火ランナーに泰明さんが決まった。だが、ほぼ完成した昨春、コロナ禍のため東京五輪、そして聖火リレーの1年延期が決まった。

この1年間、感染対策を重視する福祉施設からは息子との面会を避けてほしいと言われ、つらい日々が続いたが、最近、ビデオ会議システムを使った面会ならば可能と連絡があった。コロナ前、いつも笑顔で迎えてくれていた息子と話せる日が楽しみだ。車いすの開発も立ち止まっていたわけではない。リフトと車いす本体を分離して別の車いすと組み合わせられるようにするなど改良を重ねた。

自信作を披露できる聖火リレーは「神様からの贈り物」と感じている。泰明さんが乗る車いすを押しながら参加する当日を待ちわびている。

(山根昭、近藤康介)

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