日本と豪州、打球の鋭さはほぼ互角 WBC1次リーグ
野球データアナリスト 岡田友輔

大谷翔平(エンゼルス)の投打二刀流の活躍、日本代表初選出のラーズ・ヌートバー(カージナルス)の躍動、多種多様な本業を持つ選手が集まったチェコ代表の奮闘――。6年ぶりの開催となった野球の国・地域別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」がいよいよ佳境に入ってきた。1次リーグB組の日本は4連勝で危なげなく勝ち進んだが、投打のデータをつぶさに見ていくと、大勝続きだった試合結果とは少し違った側面が浮かび上がってくる。
日本は中国を8-1で下して好発進すると、その後も韓国(13-4)、チェコ(10-2)、オーストラリア(7-1)を寄せ付けなかった。投手陣のレベルは日本と他国で大きな差があったと言えるだろう。
日本は大谷、ダルビッシュ有(パドレス)、佐々木朗希(ロッテ)、山本由伸(オリックス)という盤石の先発が4枚。加えて戸郷翔征(巨人)、今永昇太(DeNA)、宮城大弥(オリックス)、高橋奎二(ヤクルト)という第2先発も実力者ぞろい。休養日なしの4連戦という1次リーグでは、投手陣の厚みという日本の強みを存分に生かす戦いができた。

日本の投手陣は総じて四死球が少なく、奪三振は韓国戦を除いて2桁を記録した。アウトの多くを三振で奪い、何が起こるか分からないインプレーの打球を少なくする。これをできたことが失点の抑制につながった。
一方、日本投手陣といえど、バットにボールが当たってしまうとリスクが大きいことがデータからは読み取れる。各国の打者が力強いスイングをしていたのは観戦していた多くの人が感じていたのではないだろうか。「ハードヒット」という指標でその部分を見ていきたい。
ハードヒットとは初速が95マイル(152.9キロ)を超える打球を指す。打球速度が速ければ外野を越えるような長打になる確率は上がるし、ゴロだったとしても内野の間を抜けやすくなる。

米大リーグのデータサイト「Baseball Savant」によると、韓国戦で日本の投手が打たれたインプレー打球のうち、ハードヒットの割合は50%だった。一方、韓国の投手は36.7%にとどまった。日本の投手が高い割合でハードヒットを許していたことの裏を返せば、韓国の打者は力強いスイングをしていたということになる。
豪州戦も同じような傾向で、日本投手が許したハードヒットの割合は38.9%で、オーストラリア(29.6%)を上回った。この試合で最も打球速度が速かったのは一回に大谷が放った電子看板直撃の3ランで182.1キロ。2位はマカードルの二ゴロ(八回、172.8キロ)、3位はホールのソロ(九回、168.6キロ)で、上位10選には日本と豪州が5人ずつ名を連ねた。飛び抜けた数値を残した大谷を除けば、スイングの強さや打球の鋭さという点において豪州と日本は伍していたのだ。
準々決勝までは危なげなかった日本だが、準決勝からは相手打者のレベルが格段に上がる。奪三振の数は減り、インプレー打球は増えるだろう。ある程度の失点は覚悟する必要があり、打線がそれ以上の得点を奪えるかが勝負のポイントになる。
その点、日本のファンが気をもむのは1次リーグで打率1割4分3厘にとどまった村上宗隆(ヤクルト)の状態だろう。全打席の配球と結果を示すチャートを見ると、ストライク判定された高めの球の見逃しが目立つことが分かる。

一般的に日本のストライクゾーンは横に広く、米大リーグは縦に広いとされている。1次リーグの球審は米大リーグ機構(MLB)の審判が多く、村上の思うストライクゾーンと球審の判定との間にズレが生じていたと考えられる。村上が高めの対応に苦慮していることは準決勝以降の相手も当然分析しており、そこを執拗に突いてくるはず。準々決勝のイタリア戦では5番で起用されて2安打1打点と復調気配を示した村上のさらなる修正力に期待したい。

さて、WBCはMLBとその選手会が主催する大会とあって公式球などが米国仕様になっているのだが、試合にまつわるデータ提供も米国仕様なのをご存じだろうか。今回ご紹介した打球速度やハードヒットの割合といったデータは前出のサイト「Baseball Savant(https://baseballsavant.mlb.com/)」で試合中にリアルタイムで更新されている。「さっきの大谷の痛烈なライナーの速度は?」「この投手はどの球種をどのくらいの割合で使っているのか?」といった疑問に瞬時に答えをくれるのだ。
テレビ中継では実況や解説者が情報を提供してくれるが、いまはそれ以上に詳細なデータを自分で取りにいくことができる時代。ぜひパソコンを傍らに置いて準決勝以降の試合を観戦してみてほしい。日本のプロ野球では公開されていない詳細なデータをリアルタイムで確認できる体験は、野球の新たな楽しみ方の発見につながるかもしれない。