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池江調教師の眼力 「線で見る競馬」の面白さ

2年ぶりに観客を迎えて行われた札幌競馬

先週末、開幕週の札幌競馬場を訪れた。2年ぶりに観客を迎えた札幌、北海道での開催。土日とも1300人台の入場とはいえ、場内ではファンの気持ち、熱が、ものすごく感じられた。数の問題ではない、やはりお客様がいる競馬場の雰囲気は良い。入場再開後の各競馬場を訪れて、それを強く感じる。

さて、2021年春のGⅠシリーズも、27日の宝塚記念でフィナーレを迎える。ここ2年はリスグラシュー、クロノジェネシスと、暮れに有馬記念も制する「強い牝馬」の圧勝が続いているが、今年も連覇を狙うクロノジェネシス、無敗で大阪杯を制したレイパパレと、やはり牝馬が注目を集める。果たして、どんなレースが繰り広げられるのだろうか。

私は過去に宝塚記念の実況を3回、担当している。08~10年で、どのレースもそれぞれに思い出があり、印象深かったが、特に印象に残るのは09年、ドリームジャーニーが勝った一戦である。

梅雨のただ中に行われるレースとあって、戦前は雨予報だったが、当日はまさかの快晴に恵まれ、青い空、濃い緑の芝を、真一文字に突き抜けたドリームジャーニーと池添謙一騎手。あの絵は本当に美しく、今も脳裏にくっきりと焼き付いている。だが、特に印象深いのは、そういうことが理由ではない。一頭の馬に対するホースマンの冷静な分析、そして熱い思い、それが結実した勝利に思えたからだ。今回はそんな話をお届けしたい。

栄光の2歳時、クラシック無冠からスランプに

ドリームジャーニーは、06年の朝日杯フューチュリティステークスを鮮やかに差し切り2歳王者に輝いた逸材。翌年のクラシックでも期待を集めたが、皐月賞8着、日本ダービー5着。秋は神戸新聞杯を快勝したものの菊花賞で5着。無冠に終わった。当たり前の話だが、GⅠを勝つのはそう簡単なことではなく、そこまでは仕方がないとして、菊花賞後、信じられないような結果が続く。当時阪神の1800㍍戦だった鳴尾記念、翌08年のマイラーズカップ、安田記念と惨敗の連続。かつての2歳王者は、もう終わってしまったのか? そんな印象を与えていた。

安田記念の後、ドリームジャーニーは夏の小倉記念に出走した。レースの週、栗東トレーニングセンターに取材に赴いた私は、管理する池江泰寿調教師から、こんな言葉を聞いた。「右回りの、コーナー4つの2000㍍は、この馬のフットワークから間違いなく合うと思います。この読みは、確実にはまると思いますよ」。自信に満ちあふれた言葉だった。

迎えた当日、序盤は後方を追走していたが、3コーナーすぎで自ら動き、直線で力強く抜け出して独走となったゴール前。「これが、池江調教師の言っていたことなのか……」。ドリームジャーニーの力強いフットワークを見ながら、感動を覚えつつその様子を描写していた。その背には池添騎手。夏は北海道を拠点に騎乗する彼が、惨敗した安田記念に続いて2度目のコンビとなるこの馬のために、わざわざ小倉に駆けつけ、見事に陣営の期待に応えた。2歳王者から真の王者へ。ここからドリームジャーニーの新たなストーリーが始まった。

続く「コーナー4つの右回り2000㍍戦」の朝日チャレンジカップを快勝したが、天皇賞・秋は10着と大敗し、有馬記念は4着。明けて09年のアメリカジョッキークラブカップが8着、中山記念も2着。なかなか勝利をつかめずにいたが、久々の「コーナー4つの右回り2000㍍戦」となった大阪杯(当時GⅡ)では、前年のダービー馬ディープスカイを首差でかわして優勝した。小倉記念から、「コーナー4つの右回り2000㍍」戦は3戦全勝で、しかもダービー馬を撃破。池江調教師の慧眼(けいがん)は本当に素晴らしい。このレースも実況していた私は、ただただ感動しながら言葉をつないだ。

ドリームジャーニーは続いて、菊花賞以来の長丁場となる天皇賞・春に出走した。当時、池江調教師は長距離戦出走について「馬も、携わる人も、そこへ向かうことで成長する」と強調していた。長い距離をこなすために、馬は我慢を覚え、またそうするために、人も調教など様々な点を工夫して成長する、そういう話だ。結果は0秒3差の3着。単純な比較はもちろんできないが、菊花賞の時より、着順も着差も前進したのは事実である。

運も引き寄せ、宝塚記念で待望のGⅠ2勝目

そして迎えた宝塚記念。週半ばに栗東で行われた記者会見で、池江調教師は天皇賞・春の走りから感じた収穫など、プラス材料を強調しつつ、「とにかく雨は降らないでほしい」と、ひたすら天候を気にしていた。前記の通り予報は雨で、降水確率も相当に高く、降雨は避けられない雰囲気だったから無理もない。

だが、奇跡は起きた。当日はまさかの快晴で良馬場に。絶好のコンディションを追い風に、ドリームジャーニーは大阪杯当時よりも、ディープスカイとの着差を広げ、他の強豪相手に完勝した。馬、人の思いが結実した、本当に素晴らしい勝利だったと思う。

2009年の宝塚記念。快晴の下、突き抜けたドリームジャーニー=JRA提供

後にドリームジャーニーは有馬記念も制し、その年の最優秀4歳以上牡馬に選出された。前年の夏、この馬の適性を見抜いて小倉記念に参戦したことから始まったストーリー。一連の取材を通じて、点ではなく線で見る競馬の面白さ、奥深さを、改めて教えられた出来事だった。また競馬マスコミの一員として、伝えるべきは何かを教えてくれたと同時に、こんなことをもっと伝えられたら、そう思わせてくれた出来事でもあった。

今年の出走馬にもそれぞれ、様々な馬と人のつながり、ストーリーがある。栄光に輝くのはどの人馬か、素晴らしいレースを楽しみに、発走の時を待ちたい。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 中野雷太)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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