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「真のスターはクラブ」を証明した川崎 次はアジア

2季ぶり3回目のJ1優勝を飾った川崎。今季で引退する中村(左)やルーキー三笘(右)らタレントが融合し、チームとして団結した=共同

明治安田生命Jリーグも残すは今週末の最終節のみとなった。J1は既に川崎が2年ぶり3回目の優勝を決めている。来年1月元日の天皇杯決勝、ファイナルが同4日に順延されたルヴァンカップ(東京・国立競技場)を無事終えると、幾多の困難がつきまとった2020年シーズンをなんとか完走できることになる。

苦難のシーズン乗り切ったサッカー界

この1年、Jリーグが苦労しながらここまでたどり着けたのは、プロスポーツの先輩であるプロ野球との連携が大きな力になったことも理由だろう。監督、スタッフ、選手には日常生活の厳格な管理とPCR検査を施し、ファン、サポーターにはスタジアム周辺や客席での規律ある行動を求める。そうやってリーグを再開した後は「こうすれば安全に試合ができる」「こうすれば大会開催も可能」という知見を積み重ねられた。これは他の競技団体も大いに勇気づけたことと思う。

日本サッカー協会(JFA)も10月はオランダ、11月はオーストリアで日本代表戦を計4試合組んで、無事に終わらせた。選手を鍛え、チーム力を伸ばすためにはブランクをつくってはならない。そんな意志の力があって、苦難を乗り越えられた。12月に入ると、各年代の男女の日本代表が千葉・幕張の「高円宮記念JFA夢フィールド」に集まっては合宿を行っている。未来に向けて努力する子供たちの姿を見ていると、私までエネルギーが湧いてくる。スポーツの持つ力だろう。

過密日程で各クラブが若手にチャンスを与えた結果、横浜MのGKオビ(左から2人目)のような逸材も次々出てきた=共同

今季のJ1を振り返ると、「交代枠の3人から5人への拡大」「J1からの降格なし」といったコロナ禍ゆえの特例がもたらした影響について、あれこれと思いを巡らしてしまう。

ポジティブな面では、各クラブは若い選手に出場機会を与えることに積極的にチャレンジした。約4カ月の中断を挟んだために、超の字がつくほどの過密日程になり、それをくぐり抜けるために必要だったとはいえ、チャンスをもらったことで大きく伸びた若手が各クラブにいる。川崎のルーキー、三笘薫はその代表例で、GKも鹿島の沖悠哉、湘南の谷晃生、横浜Mのオビ・パウエルオビンナら逸材が次々に出てきた。

降格増える来季はシビアなシーズンに

ただ、来季もこの流れが続くかというと、読めない部分がある。今季は降格がないため、2021年のJ1は20年のJ2からの昇格組(1位と2位)を加えた20チームで争われる。21年シーズンもJ2から昇格できるクラブは上位2チームだけ。一方で22年のシーズンからJ1はこれまでどおりの18チーム制に戻すから、21年は4クラブがJ2に自動降格する(20-4+2=18)。20クラブ中、5つに1つは降格するわけだから、今季の反動が襲う来季は極めてシビアな戦いが待っている。そうなると監督の用兵も「長い目で見て」という割り切ったスタンスはとりづらくなるかもしれない。

今季のJ1はシーズン中の監督交代が少なかった。これもJ2への降格がないことと無縁ではないだろう。降格はクラブにとって一大事だから、例年なら降格圏にとどまるクラブはシーズン中の選手補強や監督交代など、激しい動きに走るものだ。今年はそういう動きは乏しかった。コロナ禍での経営環境の厳しさから余分な出費を控えた面もあるのだろう。

来季はおそらく様変わりする。スタートでつまずいたクラブはゴールデンウイークの頃には監督を代えている気がする。序盤から、それくらいの緊迫感に満ちた戦いが繰り広げられると思う。シーズン中でも強化に資金を割けるクラブとそうでないクラブの明暗がコロナ禍でより鮮明に表れる気もするし、その差を知恵と工夫を凝らして埋める監督の力量に舌を巻くことになるかもしれない。その激烈な戦いを思うと、今季J1に昇格できなかったクラブの方が、イレギュラーな戦いに巻き込まれずに済んで、かえって良かったような気がするくらいである。

川崎、バイエルンを思い起こさせる総合力

歴史的な独走優勝を成し遂げた今季の川崎は「真のスターはクラブである」ことを証明したように感じる。歴史も伝統も伝説も積み上がっていくほどに、輝くのは特定の選手ではなくクラブそのものだなと。1節を残して2位につけるG大阪の勝ち点65は昨季なら優勝に絡める数字である(優勝した横浜Mの勝ち点は70)。そんなG大阪の健闘がかすむくらい、今季の川崎は強すぎた。

誤解してほしくないのは、「クラブがスター」というのは川崎の選手の粒が小さいという意味ではない。スターが集まっているから逆に誰がスターか分からないという意味である。若手と中堅とベテランが複雑に絡みあい、見事にチームとして一致団結していた。そこは欧州王者のバイエルン・ミュンヘンと一脈通じるものがある。バイエルンもレバンドフスキというポーランド代表の傑出したストライカーはいるものの、見る者を魅了するのはチームとしての総合力だ。オランダ代表のロッベン、フランス代表のリベリの二枚看板をそろえていた頃とは明らかに色が変わっている。

チームとして輝く川崎は、だから「今季のMVP(最優秀選手)は誰?」となると意外に選ぶのが難しく、議論が分かれる。私個人はCBの谷口彰悟を押す。今季の谷口は進境著しく、相手のセットプレーとなって失点につながりやすいディフェンシブサードでの反則が本当に少なかった。

圧倒的な強さを誇った川崎。守備と攻撃の好循環の中心にDF谷口(右)がいた=共同

もともと川崎は常に相手を押し込んで戦うので、自陣で与えるCK、FKの数は少ないのだろう。ただ、前のめりになって相手陣内で戦うと、その分だけ自陣に大きなスペースをつくりやすい。その穴を谷口ともう一人のCBジェジエウ、そしてアンカーの守田英正がバランスよく協働して、うまく埋めていた。

いい攻撃ができるからいい守備ができる、いい守備ができるからいい攻撃ができる。その循環をつくり出したキーマンが谷口で、特に左CBの仕事はパーフェクトに近かったように思う。ジェジエウが出場停止だった大分戦で右のCBに入り、ファーサイドの対応がいつもと逆になり、クロスにかぶって退場処分を受けたのが、わずかに瑕疵(かし)としてあるくらいだ。

17年のJ1初優勝から4年連続でタイトルを手にした川崎。ここまで成果を上げたら次の目標はアジアチャンピオンズリーグ(ACL)しかない。

ショートパス主体の攻撃に三笘のようなドリブラーを絡め、チーム全体で攻守に圧倒する。相手陣内に押し込んで戦い、ボールを失っても厳しく鋭い回収行動で2次、3次攻撃につなげる。そういうJでのスタイルをACLでも貫いて、頂点に立ってほしいものである。

(サッカー解説者)

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