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中田よ、あるがままに 豪放さもプロ野球の見どころ

中田の行為の背景にはチームを良い方向に持っていきたい思いがあった=共同

日本ハム・中田翔の行動が話題になった。4月7日のソフトバンク戦の五回に空振り三振に倒れた中田は、ベンチに戻るとバットをたたき割ったという。チームは前の日まで1勝6敗2分けの最下位。苦境の中で思うような打撃ができなかったことで感情が爆発したのだろう。

この行為にインターネット上で批判の声が上がった。「チームのムードが悪くなる」「バットを作っている人を悲しませた」。もっともな指摘だと思う。皆が感情の赴くまま奔放に行動したら組織は成り立たない。道具を粗末に扱う姿はプロ野球選手に憧れる子どもに見せられるものではないだろう。

ただ、中田が取った態度を一刀両断できるかというと、そうではない気がする。あの行為の裏にあったのは、打てなかったことでチームに貢献できなかった悔しさ。最下位に沈むチームを何とか良い方向に持っていきたい思いが強かったがゆえに、あそこまでの行動になったと捉えることもできる。これが、無気力プレーをしたのなら容赦なく批判されるべきだが、今回は行為自体に問題があった一方、野球の方では全力プレーを貫いた点で弁解の余地はあるのではないかと思う。

私の中日時代の先輩、星野仙一さんは所構わず当たり散らしていた。打たれてイニング途中で降板すると、それこそベンチの湯飲み茶わんを投げてたたき割った。星野さんなりのストレス発散法で、本人いわく「パリーンと割れるからすっきりするんだ」。我々は「またやってるな」という感じで気にすることはなく、それでチームの雰囲気が悪くなることもなかった。

かつては外国人選手がバットを折るシーンもよく見られた。近鉄にいたラルフ・ブライアントらが三振をした後、両手で振り上げたバットを太ももで真っ二つにへし折るのを何度も見た。そうやって感情を表す選手が多かった時代なら、今回の中田の行為がここまで注目されることはなかったかもしれない。

バットを折ることは良くないが、それくらい悔しがるのは決して悪いことではない。思うような結果が出なかったときに一瞬、「くそー」と感情が高ぶって出る態度や表情は計算なしのもので、それもプロ野球の見どころだと思う。それこそ星野さんが監督のとき、審判に向かって鬼の形相で抗議に走ると、お客さんは「待ってました」と喜んだものだ。これが淡々とやる選手、監督ばかりだったらどうだろう。喜怒哀楽がにじみ出るからこそ、一つの人間ドラマとしてプロ野球が多くのファンに支持されているのではないだろうか。

日本ハム首脳陣とすれば、中田がそこまで悔しがったエネルギーをどう勝利に結びつけていくかが大事になる。バットを折ってからすぐに諭そうとしたところで、感情が高ぶっている中田の耳に言葉は入っていかないだろう。時間がたって冷静さが戻ったときが話をするタイミングだ。

栗山監督ら日本ハム首脳陣としては中田の悔しさをどう勝利に結びつけていくかが大事になる=共同

そこで何を話すかだが、「あの態度はだめだぞ」という言葉ははたして効果があるかどうか。事の重大さは本人が十分わかっているはずで、そこでの「だめだぞ」はかえって傷口をえぐるようなものかもしれない。私が監督なら「ああやって悔しがるのは悪くないよ」と言いたい。打てなかったから悔しがる、その姿勢は当たり前のもので、まずそれ自体を肯定する。そうすれば言われた方は承認欲求が満たされ、自分がしたことについて自ら反省することにつながるように思う。

今回の件で栗山英樹監督は「こんなに負けていて悔しさが出ないのはおかしい」と話したという。中田がバットを折ったことをいさめるだけでなく、チームへの思いから出た態度だったことを認めたのは立派だった。

考えてみると、星野さんが感情をストレートに出したのは投手だったからかもしれない。自分が投球することでプレーが動くことから、投手族には良い意味で自分主体の人が多いように思う。我の強いワンマンくらいの人がエースになるケースが多かったから、そういう人が感情を表に出すのは自然なことだったのだろう。

一方で野手には協調性がある選手が多いように思う。一人ひとりが駒として1~9番に配置され打線ができあがることから、プレーの面でも精神面でも仲間とのつながりを意識しやすい。そこで中田がバットを折ったのは野手の一人としても良くなかったが、半面、悔しさをあらわにすることで野手陣の結束を強める効果もあったのではないだろうか。

反省すべきことはあるにしても、今回の一件で中田がおとなしくなるようでは寂しい。やんちゃな人間がいるから面白いわけで、豪放さが持ち味の中田が優等生になれば、中田が中田でなくなる。ただでさえ個性的な選手が少なくなっている今、誤解を恐れずに言いたい。中田よ、もっと暴れろ!

(野球評論家)

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