/

渋野1人じゃない 「束」で世界と戦える女子ゴルフ

編集委員 串田孝義

昨年12月の全米女子オープン、第2ラウンド終了時点で首位に立ち、笑顔で記者会見にのぞむ渋野日向子=共同

34年前の全米女子オープン、第3ラウンドを終えた岡本綾子は2位に1打差をつけて首位に立っていた。悪天候による順延で最終Rが行われたのは月曜日。岡本とL・デービース、J・カーナーの3人が首位に並び、3選手のプレーオフは火曜日に18ホールで行われ、デービースが優勝を果たした。

1987年全米女子オープンの最終ラウンドで観客の声援に応える岡本綾子=AP

岡本は自著「情熱と挑戦」のなかで、優勝が逃げていった瞬間を振り返っている。最終Rの13番で下り1メートルのバーディーパット、そのライン上にスパイク跡が残っていた。現在のルールでは直せるが、当時は直せない。球ははねて入らず、結局3パットボギー。そのときキャディーと交わした言葉「しょうがないね」は米ツアー仲間ではすでにポピュラーな日本語だったそう。

昨年12月の全米女子、日本女子として岡本以来となる最終日を首位で迎えた渋野日向子。日曜のラウンドが雷雨で月曜順延となるのは岡本のたどった経過とよく似ていたが、なにしろ異例の冬開催。極寒と、荒れたフェアウエーでボールに泥が付着する運不運に左右されながら74(パー71)とスコアを落とし、逆転負けを喫して単独4位で終えた。

世界ランク底上げ 出場日本勢は19人まで増える

女子ゴルフ最古のメジャー制覇に日本選手として大きく近づいた2つの風景。よく似ているようで実は大きく異なっている。もちろん、開催コース、時期が違う。新型コロナウイルスの影響で史上初の無観客で行われたのもそう。ただ、それ以上に大会の景色を違ったものにしたのは昨年の大会には日本から総勢19人も出場していたこと。

1987年の大会に出場した日本人プロは岡本一人。あとはアマチュアの服部道子がいただけだった。70年に樋口久子、佐々木マサ子が初参戦してから昨年大会はちょうど50年。日本女子の全米挑戦は続いたが、岡本の時代を含め長い間、米国に渡った日本のエースが文字通りの孤軍奮闘を余儀なくされてきたのがお決まりの構図だった。

風向きががらりと変わるのは2006年2月に女子ゴルフで男子とほぼ同じ形式の世界ランキングの算定が始まり、その順位がメジャー大会の出場資格でものをいうようになったあたりから。米ツアーまで行かずとも日本を主戦場とする選手に海外スポット参戦のチャンスが広がった。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)も下部ツアーを世界ランクの対象試合に加えるなどしたことで、日本選手の世界ランクを全体的に底上げすることにも成功した。

14年に12人と初めて2桁となった全米女子の日本勢(アマを含む)は一昨年で出場14人に達していた。その年は比嘉真美子が予選をトップ通過した。昨年はコロナ禍で中止となった各地での予選会出場枠を世界ランクでの選出に振り向けたことから史上最多の19人へと膨れ上がり、その中の1人、渋野が再び予選1位通過。日本勢快走のタスキをしっかりと受け継いでみせた。予選通過は9人、最終的に4位の渋野、11位の高橋彩華ら4人がトップ20入り。20位タイまでの22人中、8人を占めた韓国に次ぎ4人の米国と肩を並べる勢力となった。

昨年の全米女子を勝った韓国の金阿林は25歳。韓国ツアー2勝、大会前の世界ランクは94位だった。渋野の負けは残念な結果とはいえ、この伏兵の下克上劇は日本を主戦場とする多くの選手に「自分にもできる」という大きな勇気をもたらすことになりそうだ。

「私にも」 日本勢から次なる伏兵の期待

日本女子ゴルファーの頑張りにツアーの試合を主催するスポンサー企業も支援を惜しまない。今年は賞金総額3億円の大会が出現、日米ツアー共催のTOTOジャパンクラシック(11月4~7日)が新たに4日間大会となるなど、海外で勝てる選手を育てる舞台の整備が進む。

昨年は日本女子オープン、JLPGAツアー選手権リコーカップのメジャー2冠を達成した原英莉花ら、4日間大会をすべて日本選手が勝ってみせた。2010年代、イ・ボミ、アン・ソンジュ、申ジエら4日間大会になると歯が立たなかった韓国勢との競い合いのなかから、鈴木愛ら日本選手も体力、知力を含めたロングスパンのマネジメントができるようになりつつある。

思えば19年全英女子OPを初出場で勝った渋野はその年の5月、4日間大会の国内メジャー、ワールドレディース・サロンパスカップでプロ初優勝、海外メジャー制覇へと駆け上がった。米ツアーを主戦場とする畑岡奈紗、今年も海外メジャーフル参戦を目指すことになる渋野に続く、海外メジャーを制そうと勇み立つ者が日本のどこから飛び出してきても不思議はないといえる。

87年全米女子で2位となるまで岡本は5年連続で一桁順位をマーク、メジャー制覇のドアをノックし続けた。当時は岡本一人で続けてきた挑戦を、黄金世代(98年度生まれ)、ミレニアム世代(2000年度生まれ)が入り乱れ「束」になってかかっていくのが日本の女子ゴルフの今、これからの10年ということだろうか。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン