/

特別なスポーツではない 「パラスポーツ」の未来像

日本障がい者スポーツ協会常務理事 高橋秀文氏

8月24日の東京パラリンピック開会式まで100日を切った。パラリンピック効果で障害者スポーツの注目度は高まっているものの、その先はどうなるのか。障害者の特別なスポーツという分類そのものが時代遅れになるのかもしれない。日本障がい者スポーツ協会(JPSA)は今年3月、「2030年ビジョン」を公表した。JPSAの高橋秀文常務理事に障害者スポーツのこれから、そして目指す社会の未来像について語ってもらった。

――「2030年ビジョン」の中で、障害者スポーツの呼び方を「パラスポーツ」に変更すると宣言しました。どんな理由からですか。

「今回のビジョンでは、団体名などの固有名詞を除き、一般的な障害者スポーツはパラスポーツと置き換えて記載している。日本語で言えば、もう一つのスポーツ。パラリンピックスポーツの略ではない」

「なぜ変えたのかというと、障害者スポーツという言葉の持つイメージが人によって相当に差があるから。障害を持った方だけがする特別なスポーツというイメージだとすると、実態とは違う。障害がある人もない人も一緒に楽しめるのが現実で、それをさらに深めていきたい」

――具体的にはどんな競技で楽しめますか。

「例えば、ボッチャは企業の新入社員教育に採用してもらって、人気がある。障害者のスポーツとしてスタートしたが、これからの人たちは『パラリンピックにもボッチャがあるけど、しょっちゅう僕たちがやっているスポーツじゃないか。障害者もプレーするのだね』となるだろう。ボッチャを障害者スポーツと呼ぶと(実態と)違うイメージになってしまう。それを見直して、30年に向かっていきたいと考えた」

――今回のビジョンでアピールすべき点は何でしょうか。

「共生社会を実現していこうというのがビジョンのポイント。山の形をした三角のイメージで、底辺となる横軸では裾野を広げるようにパラスポーツの普及拡大を図り、斜め軸では山を高くするように競技力を向上させる。横軸と斜め軸の2辺を伸ばして三角形の面積を大きくしていけば、大きな山に木がしげるように活力ある共生社会が実現する」

出典:日本障がい者スポーツ協会

――競技力の向上を重視しながらも、東京大会のメダル目標数は記載しませんでした。

「JPSAには内部組織として日本パラリンピック委員会(JPC)があるため、『パラリンピックでメダルをたくさん取ることが目的なのか』と聞かれることがあるが、そうではない。共生社会の実現という目的に向かって、その有効な手段としてパラリンピックがある。大会の目標として、できるだけ多くのメダルを取って大活躍していこうと言っているが、それは目的ではない」

――共生社会を実現するため、JPCが策定したJPC戦略計画では何が要になりますか。

「子どもへの教育が大きな柱。すでに『I'mPOSSIBLE(私はできる)』というパラスポーツ教育の教材を使い、小中学校でパラスポーツの体験会などを実施している。『Impossible(できない)』という英語にアポストロフィーをつけると『私はできる』に変わる。この教材は、ちょっとした意識の変化で世の中が変わっていくということがテーマだ」

「体験会では小学生が『東京パラリンピックで本物の試合を見たい』という感想文を書いてくれる。競技会場が無理ならば、テレビを通じてでもよいから、見てもらいたい。見ればわかるし、見れば変わる」

――障害を抱えながら競技に挑むアスリートたちの活躍を子どもたちが見ることで何が期待できますか。

「意識が変わり、日本が共生社会に向かっていけばうれしい。パラリンピックを見た子どもたちがこれからの日本をつくっていってくれる。パラスポーツ教育の活動を30年に向かって展開しながら、日本を大きな意味で変えていきたい」

たかはし・ひでふみ 1954年東京都生まれ。78年東京ガス入社。導管企画部長などを経て、2009年執行役員。神奈川支社長、営業第一事業部長を歴任した後、15年日本障がい者スポーツ協会(JPSA)に出向し、常務理事に就任。パラスポーツの普及に尽力するとともに、日本パラリンピック委員会(JPC)副委員長としても活躍している。

(山根昭 近藤康介)

日経からのお知らせ 日本経済新聞社は5月26日、今夏の東京五輪・パラリンピックをテーマにした第8回日経2020フォーラム「TOKYOから考えるスポーツの力」をオンラインで開催します。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長、三井住友フィナンシャルグループの太田純社長、日本障がい者スポーツ協会の高橋秀文常務理事、ソウル五輪銅メダリストの田中ウルヴェ京氏らが登壇します。詳細・申し込みは公式サイト(https://events.nikkei.co.jp/36876/)で。
Tokyo Olympic and Paralympic 特設サイトはこちら

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン