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サッカー代表に最強OA 日本、五輪でメダルの予感

5日のガーナ戦に快勝し、喜ぶU-24日本代表の(右から)酒井、吉田ら=共同

6月のサッカー日本代表の活動が終わった。目を見張ったのが、3人のオーバーエージ(OA)を組み込んだ24歳以下(U-24)日本代表の充実。「何色かは分からないが、メダルは取れる」。東京オリンピックへ向け、そんな予感が大きく膨らんだ。

本来、五輪のサッカー競技はU-23の選手と年齢制限の適用を受けないOAの選手(1チーム最大3人まで可)によって行われる。それが今夏の東京五輪は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、開催が2020年から21年にずれ込んだため、年齢制限の上限も1年上がってU-24になった。

この1年の延長を、A代表の森保一監督と彼の腹心でU-24代表を率いる横内昭展コーチがうまく生かしてきたと思う。2人は「1チーム2カテゴリー」を合言葉に、A代表とU-24代表に共通のコンセプトを落とし込みながら、選手を行き来させてチームづくりを進めてきた。その行き来の最後のピースが6月のU-24代表にはめ込んだ吉田麻也(サンプドリア)、酒井宏樹(浦和)、遠藤航(シュツットガルト)という3片のOAだった。

練習で吉田㊨と話す横内監督代行=共同

彼らと、冨安健洋(ボローニャ)、中山雄太(ズウォレ)、堂安律(今季限りでビーレフェルトを退団)、久保建英(ヘタフェ)らU-24の俊英は既にA代表でともにプレーした経験がある。その密度をそっくりそのまま「A」から「24」に移し替えたのだから、チームの熟成が一気に進むはずだ。東京五輪本番の指揮権は横内コーチから森保監督に移るけれど、実質的にはA代表に等しいのだから、齟齬(そご)が生じる余地もない。

得点力の上積みを第一に考えると、A代表の主戦FW大迫勇也(ブレーメン)もほしかったところだが、所属チームが2部に落ちたことで大迫はこのオフに移籍する可能性もある。となると、7月は英気を養い、新天地でレギュラーポジションをしっかり確保してもらった方が、9月から始まるワールドカップ(W杯)カタール大会アジア最終予選にとってためになる。そんな配慮も森保監督に働いたのだろう。

それに、前線の補強は即効性があるようで、対峙するDFの力量次第で結構厳しい局面に陥ることもある。野球でいうところの「打撃は水物」に似た世界が。今回、森保監督が中盤から後ろの選手でOAを固めたのは、守備はグループで連動して守るものなので好不調の波は小さく、計算が立ちやすいこともあるのだろう。

実は私も04年アテネ五輪の監督として代表チームの編成に苦労した一人だ。当時のA代表の監督はジーコさんだった。同じ年にアジアカップが7月から8月にかけて中国であり、そこに出る選手は直後のアテネ五輪で使えない状況だった。心優しいジーコさんは私に「好きに選手を選んでいいぞ」と言ってくれた。その言葉に甘え、GK曽ケ端準(当時鹿島)、MF小野伸二(当時フェイエノールト)、FW高原直泰(当時ハンブルガーSV)をOAにしたいと申し出た。ジーコさんにとって相当な痛手だったと思うけれど、「メダルを狙うには最高の人選だ」と言って認めてくれた。

しかし、高原はエコノミークラス症候群の発症で五輪代表に選ぶことはかなわず、小野も最終合宿地のドイツ・ニュルンベルクに到着したのは8月3日、初戦のパラグアイ戦のわずか9日前だった。A代表と違って、選手を招集する権利が協会にない五輪代表の強化は常にクラブとの調整がハードルとなる。OAの合流は本番直前が当たり前で融合させるのは毎回難しい。そういう意味で、6月のこの時期に、これだけの融合を果たせた今回のような例は過去にない。兼任監督のメリットを最大限に生かした、本当に素晴らしいプランニングだと思う。

遠藤(中央)のOAでの補強は非常に利いている=共同

OAの3人は素晴らしい存在感を放っているが、中でも遠藤の補強は非常に利いている。話題になったA代表との強化試合も遠藤が終盤ピッチに交代で入ると形勢が逆転し、U-24代表が押し返すことができた。試合中にがみがみ怒鳴って周りを動かすタイプではないが、囲まれても慌てない落ち着き、パスをインターセプトするうまさ、相手がトラップしたところにするりと体を入れてボールを取るうまさ、どれもこれも絶品だ。

「飛び込むなよ」「飛び込むなよ」と子供の頃から教えられ、ボール保持者とずっと「お見合い」をしがちな日本選手にとって、自分から仕掛けてボールを奪いにいける遠藤は育成年代にとっても最高のお手本といえよう。

何より、遠藤についてはワンタッチパスのうまさを強調したい。16年リオデジャネイロ五輪代表で主将を務めたころから縦パスに光るものを見せていたが、海外でもまれて精度がさらに上がった感がある。

そんな遠藤と吉田が後方から縦につけるパスの力量は、五輪代表の非常に重要な武器になっている。2人とも「縦に行きますよ」という見え見えのタイミングでは出さない。出すタイミングがさりげなく、一拍速いから、受け手には前を向く時間がプレゼントされる。そのコンマ何秒の速さが、受け手に次の行動を考える時間的余裕を持たせてくれる。

ビルドアップのパスをどうやって引き出そうか、アタッカーが四苦八苦するところで、遠藤も吉田もそこを飛ばして相手陣内の深いところに縦パスをつけてくれるので、その瞬間、アタッカーは一斉に「良かった」という思いとともに前を向いて動き出すことができ、攻撃が活性化することになる。

吉田と遠藤、そして右サイドで精力的にアップダウンして攻守に厚みをつけてくれる酒井の3人は、五輪の日本サッカー史上最強のOAと呼んで差し支えないだろう。

酒井㊨は右サイドで精力的にアップダウンして攻守に厚みをつける=共同

6月は一戦一戦が厳しいオーディションの連続だった。一つ大きなミスをしたら五輪の選考から漏れかねない状況。23人の選手で約1カ月間、最大7試合を戦うW杯と違って、五輪のサッカーは18人の選手でほぼ中2日で最大6試合を戦わなければならない。うち3人がOAとなると残りは15人、GKが2人いるのでフィールドプレーヤーはたったの13人だけ。「狭き門」という表現では足りないくらい厳しい。こうなると、どうしても複数のポジションをこなせる選手が有利になる。アテネ五輪の選考の際、私も主将でボランチの鈴木啓太君(当時浦和)を外すつらい決断をした。

男子の五輪メンバー発表は22日と決まった。刻一刻と運命の日は近づいてくるが、6月の合宿の間、特にOAの3人が合流してからはU-24のメンバーはこれまで味わったことのない次元で頭を回転させていたことと思う。優れた選手と一緒に過ごす時間は多くの学びがあり、足りないものが自然に伸ばされていくような状態になるものだ。ちょっとした会話の中で「ハッ」と目からうろこが落ちるようなことが。だから当落には関係なく、五輪のような大きな大会に向けて良い準備をする、チャレンジすることは、必ずその選手の未来につながる。

チームも同様だ。最強のOAの加入で最強のチームになり、一つ一つの試合を養分にして伸びるU-24代表は結果はどうあれ、9月からW杯最終予選に突入するA代表を確実に底上げするだろう。その戦いから「東京五輪経由W杯カタール行き」を実現させる選手も出てくるはず。メダルは確約できないし、五輪そのものが今はどうなるか分からない状況だが、そこに向けてチャレンジする準備の一日一日が、大きな成長の土台づくりになっているのは確かなことである。

(サッカー解説者)

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