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Jリーグ新チェアマン、外交力・社会との関わりに期待

スポーツコンサルタント 杉原海太

3月15日、Jリーグに野々村芳和チェアマン(49)が誕生した。J1のコンサドーレ札幌の経営に社長として長く携わった新チェアマンは元プロサッカー選手でもある。1993年のリーグ創設から初めて生まれた元Jリーガーのチェアマンに寄せる期待は大きい。

財務、コミュニケーション力に優れた前チェアマン

退任した村井満・前チェアマンは8年にわたってリーグのかじ取り役を担った。就任当初、前チェアマンに課された最大のミッションは財務面の立て直しだった。在任中に映像配信サービスDAZN(ダゾーン)と長期の大型契約を交わし、タイトルパートナーの明治安田生命など多くの企業の協賛も得て、その苦境を乗り切ってきた。これは前チェアマンの功績の一つに数えていいだろう。

前チェアマンはまた優れたコミュニケーターでもあった。就任してすぐに浦和レッズの一部の心ないサポーターが客席で人種差別的な横断幕を掲げる事件があった。その際に取った村井氏の断固たる態度はリーダーと呼ぶにふさわしいものだった。社会に対し、常に的確なタイミングと内容のメッセージを発信する力は、2020年から発生した新型コロナウイルス禍にあっても非常に頼もしく映った。

その足跡を振り返りながら、私が思うところを誤解を恐れずに述べるならば、村井前チェアマンの良さは、生粋の〝フットボール村〟の住人ではなかったことにある気がする。ビジネスの世界からやってきて、既成の因習のようなものに縛られず、新しい風を吹かせたというか。

それは後任の選び方にも表れた。Jリーグの執行部から完全に独立した役員候補者選考委員会なるものを立ち上げ、そこで後任に求められる資質や要件を議論してもらい、候補者のリストアップから選定までも一任するという方法を採った。〝スポーツ村〟にありがちな村長(むらおさ)たちの談合・指名による後継者選びとは、透明性やスマートさにおいて、一線を画す感じだった。

初の元選手チェアマン 札幌ではアジア市場開拓

その選考委員会で推挙され、選任された野々村チェアマンは、前任者とは異なるバックグラウンドの持ち主である。サッカーどころの静岡・清水の出身で慶大を出た95年にジェフユナイテッド市原(現千葉)に入団。00年に札幌に移籍し翌年引退したが、13年から札幌の社長に就任し手腕を発揮してきた。

元選手であり、一見すると〝フットボール村〟の住人のようでいて、札幌というクラブの経営規模を約10億円から社長就任後、ほぼ3倍に拡大させ、J1に定着させるなどビジネス方面の成果も上げてきた。クラブ経営に関して周りと目線は合うだろうし、札幌にタイ代表のチャナティップ(現川崎)を連れてきて、アジアとの交流を活発にした実績もある。海外のマーケット開拓の感度は高そうだ。

選手、ファン、サポーター、スポンサーやパートナー企業など、クラブとリーグに関わるさまざまなステークホルダーとの対話が避けて通れない、これからのトップに必要な条件を、新チェアマンはかなり有しているのではないかと私は見ている。またシーズン制で意見を異にしてきた日本サッカー協会との対話にも期待したい。

いいとか悪いとかではなく、野々村チェアマンの得意分野は村井氏とは違いがありそうだ。だからこそ、村井氏から野々村チェアマンへのバトンタッチに可能性を感じるのだ。村井氏が積み残したものを解決する可能性を新チェアマンは秘めていると。

私は、日本サッカー界の喫緊の課題に外交力のバージョンアップがあると考えている。内田篤人氏や酒井高徳(神戸)ら欧州帰りの選手がJリーグのレベルに苦言を呈することがある。Jリーグ創設後、選手のプロ化から始まって監督、審判、経営サイドのプロ化と段階を踏んで進化してきた日本サッカーにあって、最も国際化したのは選手のところだと思っている。

国際的にJリーグがどんな位置にいるかを、新旧の海外組は肌感覚で理解している。そういう体感や経験をJリーグの国際競争力を高めるために、なぜ、もっと取り込んで競技面のみならずビジネス面や経営面でも生かそうとしないのか。私にとってそれは不思議の種であり続けているのだが、新チェアマンを迎えたJリーグが新たな理事会メンバーにサッカー元日本代表の宮本恒靖氏(理事)や中村憲剛氏、内田氏(いずれも特任理事)を加えたことにも、選手目線、フットボール目線を大事にするという意味で、またその結果として国際的な目線を大事にすることにつながるのではないかと、すごく期待が膨らむ。

大きな可能性を秘めたJの社会貢献活動

新チェアマンにお願いが一つ、許されるのなら、私はJリーグと社会との関わりの深さを忘れないでいただきたいと思う。今年5月、Jリーグは創設30周年のマイルストーンを迎える。新チェアマンがサッカーの競技面にフォーカスして国際競争力のアップを図るのは大いに結構なのだけれど、リーグ創設の原点から地域に密着して社会にインパクトを与えてきた実績も素晴らしいものだ。

エンターテインメントとしてのスポーツの価値は今後も最大化が図られ、放送権料や協賛金や広告ビジネスに反映されると思うけれど、一方でスポーツの人と人とをつなげる力、社会や地域の課題解決に資する力も評価されつつある。それを先取りしたのが、私から見ると、Jリーグの「シャレン!」と呼ばれる社会連携活動であった。社会の方もシャレン的なものを求めるようになり、一定の成果が表れるところまで来た。それを後退させるのは本当に惜しいと思うので、新チェアマンにはうまく引き継いでもらいたいと思う。「シャレン!」はJリーグの国際的なブランディングに寄与する可能性すらあると私は考えている。

社会からの要請はあるのだから、地域や社会への貢献活動と国際競争力のレベルアップをクルマの両輪を動かす感じで回していけば大きなシナジー効果も生まれるだろう。それはサッカー界の発信力をより高めるものと確信している。

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