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巨人―阪神「伝統の一戦」通算2000試合の重み

通算2000試合目の阪神戦で勝利し、タッチを交わす巨人ナイン(15日)=共同

長きにわたってプロ野球史を彩ってきた巨人―阪神戦が15日、東京ドームでの一戦で通算2000試合に到達した。1936年に始まり、あまたの名選手たちが激しいつばぜり合いを繰り広げてきた、まさに伝統の一戦。互いにライバルと認めるチーム同士だからこそ、他のカードをしのぐ注目を集めてきたといえるだろう。

私は87年から引退する91年までの5年間、阪神に在籍し、この戦いをじかに経験した。88年から2年間、阪神を指揮した村山実監督は、巨人戦となるととりわけ闘志を燃やした。現役時代の長嶋茂雄さんとの対決は球史に残る名勝負。引退後もその熱はいささかも衰えるところがなかった。

87年限りで後楽園球場が閉鎖となり、88年からは東京ドームが巨人の本拠地になった。ただ、同じ巨人戦でも甲子園球場での試合は独特の雰囲気に包まれていた。声援の音が他の球場とは異質なものだったのだ。お客さんの声援はわいわいがやがやとしているものだが、甲子園ではそれがどーんというどよめきのような響きをもってグラウンドにとどろく。バックネット裏から内野にかかる銀傘の影響だったのだろう。人の声というより、ある種独特のサウンドとして迫ってくる感じがあり、選手に高揚感を起こさせる効果があった。

詰めかけたファンがつくった熱気

ただ、私が在籍していた5年間の阪神は最下位が4度、5位が1度の暗黒時代。巨人とは力の差がありすぎて「伝統の一戦」と口にするのがおこがましいほどだった。闘志を内に秘める選手はいたかもしれないが、それを表に出す人は村山監督以外にはほとんどいなかった。当時、伝統の一戦の熱気をつくったのは甲子園に詰めかけてくれるファンの方だった。

対決の構図を実感したのは、むしろ中日時代の方が多かった。星野仙一さんが打倒巨人の急先鋒(せんぽう)だったのは周知の通り。ほかにも対巨人となると目の色を変える選手がいた。ある選手は、巨人戦の前のカードになると「足を痛めた」などと言って、しばしば休養していた。巨人戦に万全の状態で臨むための芝居であることは同僚も分かっていて、「また仮病を使ったな」とささやかれていた。

阪神は佐藤輝の活躍もあり首位を快走している=共同

球団も巨人への対抗心は強かった。試合に勝つと選手がもらう勝利給が、巨人戦は5割増しほどだったと記憶している。仮病を使ってまで巨人戦にピークを持っていこうと思う選手が出るのも当然だったといえる。

テレビの全国放送があるのも巨人戦ならではだった。当時は中継が始まるのが大体、午後7時すぎ。中日で1番を打っていた私の第2打席が回ってくるあたりの時間だった。どうせなら全国のプロ野球ファンに自分のプレーを見てほしい。もう少しで中継が始まりそうだというときは、打席に入るのをわざと遅らせたものだ。ネクストバッターズサークルに戻って滑り止めをつけ直すなどして時間を稼ぎ、ゆっくりと打席に向かった。

プロ初安打と初本塁打は巨人戦

プロ入りしてすぐに中日の寮長に言われた。「自分の名前と顔をファンに覚えてもらうことが大事だよ」。今のようにCS放送などで全試合がテレビ中継される時代ではなく、巨人戦は自らをアピールする絶好の機会。私のプロ初安打と初本塁打がともに巨人戦だったのは偶然ではなかったのかもしれない。

ただ、自分を知ってほしい思いはあったが、それで巨人戦にことさら力が入ったわけではなかった。中日時代に勝利給が弾んだとはいえ、巨人に勝っても他のチームに勝っても同じ一勝。巨人戦だけ頑張るのは他チームやファンに失礼だし、力を抜く試合があっては優勝はできない。

中日から西武に移籍した際、特にビジターゲームの観客の少なさに驚いたが、それでもパ・リーグの選手は腐らずに全力でプレーしていた。考えてみれば当たり前の話で、巨人―阪神戦とそれ以外のカードに価値の違いなどない。

それでも巨人戦が高い関心を集めてきたのはその強さゆえだろう。かつての巨人はオールスター級の強さを誇った。王貞治さんと長嶋さんが双璧で、脇を固めたのが柴田勲さんや土井正三さん、高田繁さん。とにかく強い巨人を倒さないと優勝はないと、他チームは血眼になって向かっていった。

おおっぴらに「巨人にだけは勝ちたい」と言う選手もいた。今なら「ほかの試合は負けていいのか」とたたかれそうだが、おおらかだった時代の空気も手伝って許された。対決ムードをあおるコメントはむしろファンに喜ばれたほどだった。

私がいたころの阪神のように、どちらかが弱いと「伝統の一戦」の看板が泣く。その点、今季はルーキー佐藤輝明らの活躍もあって久方ぶりに阪神が首位を快走し、巨人は2位で追走と、両者の対決がより注目される構図になっている。2000試合の節目のシーズンにともに好調を続けるあたりは、伝統のなせる業でもあるのかもしれない。

(野球評論家)

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