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渋野が覚醒した瞬間 どん底から全米V戦線へ

編集委員 串田孝義

 全米女子オープンで4位に入った渋野=共同

残り3ホールで想定された予選カットラインに1打届いていなかった鈴木愛が16、18番のパー5でバーディー奪取、予選を通過した。10月31日、ゴルフの樋口久子・三菱電機女子2日目。前年優勝者として迎える晴れの3連戦初戦、今年ずっと不調の沈滞ムードを引きずりながら、賞金女王は自身への怒り全開でもがいていた。

16番で予選カットライン上につけた直後の17番パー4、ティーショットを右へ曲げてピン奥6㍍に3オン。外せば再び「水面下」に沈んでしまう正念場の下りのパーパットを、鈴木はジャストインのタッチでカップに沈めた。その瞬間を、同組で目の当たりにしたのが米ツアー遠征から帰国初戦の渋野日向子だった。

その日の渋野は前半から2ダブルボギー、1ボギーで5つ落としたスコアを取り返すことができずホールアウト。6月の開幕戦、アース・モンダミンカップから国内2戦連続予選落ちを喫した。オフに練習を積んだアプローチも「(試合では)怖い」と弱音が漏れた。「去年の自分と比べてしまう自分がいて情けなくなる。それでは前に進めない」

2020年を通じて、まさにこの日が底の底。ただ、その暗闇を激しい炎で照らしたのが、昨年の国内ツアー最終戦まで賞金女王を争った鈴木がみせた魂のパットだったように思える。

三菱電機女子の第2日、17番で鈴木(右)のプレーを見つめる渋野=共同

ルーキーイヤーに全英女王へと駆け上がった「シンデレラ」は今年、現状にとどまるのをよしとせず、一層の成長と進化を目指した。ところが、2月のアジアでの米ツアーから始まるはずだったシーズンがコロナ禍で次々と中止に追い込まれ、オフの期間が予定以上に長期化。その間、青木翔コーチの下、アプローチの特訓、米ツアー参戦を見据えて飛距離アップにも取り組んだ。懸命に取り組んできた分、練習の成果を目に見える形で確認したいという変化へのこだわりが行き過ぎて、渋野のプレーを縛り付けてしまったように見える。

緊張の国内開幕戦に続き、英スコットランドでの2連戦の舞台は経験の差、得手不得手がストレートに表れるリンクス。予選落ちも仕方ないと割り切ればよかった。米本土に渡ってからはメジャー2戦を含む4戦すべて予選を通過。初挑戦の戦果としては上出来と思えるが、自己評価が伴わなかった。どこへ打つかでなく、どう打つかにばかり神経が集中するあまり、「自分のゴルフ」を見失った。米遠征中は突如、パターの握りをクロスハンドに変えたこともある。

「自分のゴルフができたらいい」。全米女子オープン最終日を首位で迎えるにあたり、渋野が発した抱負の弁。渋野のゴルフは高弾道ショットでひたすらパーオンを狙い続け、あとはパットで勝負。アプローチは苦手で、グリーンを外すとボギーをたたく可能性も高いが、それなら次のホールでバーディーを取り返せばよい、という本来極めてシンプルなもの。

ボールに泥がつく悪コンディションで3日目は61%まで下がった渋野のパーオン率もその日全体の15番目、3日間通せば74%となお全体2番目の高い数字だった。全米女子オープン2日目で単独首位に立った渋野は好調の理由を「(変化にこだわってきた今年の)これまでの自分を捨てたこと」と語っている。

全米女子オープンの第2ラウンドで単独首位に立った渋野=共同

「プロになりたてとか、始めたてぐらいの気持ちの方がゴルフに対しても気持ち的にもすごく成長できる。初心に帰ったことになるのかな」。模索を続ける自身のゴルフの変化を測る基準点をメジャーチャンピオンになった1年前の20歳の自分に設定するのでなく、もっと手前から。この1年を近視眼的にみれば、コロナ禍で成長の進行は非連続となったし、成長の角度もでこぼこ。ただ、長い目で見れば間違いなく右肩上がりを実感できる。

最終ラウンド、気温6度の厳寒で体が動かず、自分のゴルフの生命線のパーオン率は44%まで落ちた。それでもサンドセーブ率100%、再三の厳しいパットを決めて、結局4人しか残れなかった通算アンダーパー圏内(1アンダー)に滑り込んだ。20年の最後の最後、悩みの種だった小技に助けられた。苦しんだ1年は無駄ではなかった。

渋野の予選落ちは英米遠征から帰国初戦の三菱電機女子が今年最後。あとは国内の終盤2戦を5位、3位と1桁順位にまとめて全米女子オープンへと向かった。最終戦のリコーカップ、2人一組で回るこの試合の最終日、渋野が一緒に回ったのが鈴木だった。74と苦しんだ鈴木に対し、渋野はこの日6人だけのアンダーパー(71)で回ってみせた。全体の3番目のパーオン率(72%)をマークしたこの「恩返し」のラウンドが、全米女子オープンでの躍進の前兆だったのかもしれない。

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