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22年開幕のラグビー新リーグ 〝プロクラブ〟誕生に期待

2022年1月に開幕するラグビーの新リーグの概要が決まった。バスケットボールBリーグなどのようなプロリーグではない。「何が変わるの?」という疑問を持つ人もいるだろう。ただ、過去の他競技の「新リーグ」と比べると、ビジネス面で一歩前に進んだものになりそうだ。ラグビーで収益を稼ぐ〝プロクラブ〟も生まれる見通しになっている。

日本代表が8強に躍進した19年W杯の盛り上がりを、新リーグは日常のものにできるか(アイルランド戦で突進する日本代表の稲垣)

「ラグビーチームから声をかけられたんです」。ここ数カ月、他のプロリーグなどでビジネス経験のある何人もの知り合いから同じ話を聞いた。新リーグではチケット販売やスポンサー集めをチーム自らが行う必要がある。しかし、親会社の福利厚生の一環だった実業団にノウハウはない。変化に備え、積極的なチームは人材集めに奔走している。

パナソニックやサントリー、三菱重工相模原などのようにチームを担当する社内の部署を事業系に変え、収益化を目指すケースも多い。「各チームがこれだけビジネスをしようと動き出したのは、プロリーグ以外の過去の日本の新リーグにはなかったポジティブな変化」。Bリーグの初代事務局長としてビジネスモデルを構築した葦原一正氏(スポーツビジネスコンサルティング会社ZERO-ONE代表取締役)はチームの本気度を評価する。

親会社の支援受け、自主的に衣替え

チームを親会社から独立した法人にしようと準備している例も複数ある。選手全員がすぐプロ契約にならないとしても、「ラグビーの興行を目的とする組織」という意味で、プロクラブに近い存在となる。

日本のスポーツ界で実業団が法人化するパターンは基本的に2つだった。リーグのプロ化で上から迫られた場合。そして親会社の強化縮小によりやむなくクラブチームに変える場合。ラグビーの新リーグは、親会社の支援のもと自主的に衣替えをする新しいケースとなりそうだ。

メリットは大きい。「企業から独立することで経営の自立性が生まれれば、スタッフの考え方が変わる。死ぬ気でチケットを売り、スポンサーを集めようとなる。リーグの成功にチームの法人化は欠かせない」と葦原氏。仮に親会社の業績が悪化した場合でも、法人化しておけば新たな引き受け手を探しやすい。

一方で、自社の役員から「試合が少なく選手の数が多いラグビーの事業化はハードルが高い。収益性を求められない現状の方がラグビー部にとってもいいのでは」と言われたチームもあるという。成功例が出てノウハウが共有されば、法人化に踏み切るチームはさらに増えるかもしれない。

新リーグは全25チームを1~3部の各リーグに振り分ける。評価基準は今季のトップリーグの成績や観客動員、スタジアムの確保状況など。ファンクラブの活動を充実させているクボタや、自社のスポーツ観戦アプリを活用するNTTコミュニケーションズなど、1部入りを目指してビジネス展開を加速させているチームもある。

新リーグは1万5000人収容のスタジアムの確保を24年までに義務付けることも大きな特徴。Bリーグ誕生以前のバスケットなど、プロリーグ以外の日本のリーグでは踏み込めなかった領域である。パナソニックが埼玉・熊谷ラグビー場、キヤノンが横浜市の日産スタジアムとニッパツ三ツ沢球技場を確保したほか、サントリーは都内に新スタジアムを模索するなどこちらも前向きな動きが出ている。

ただ、ファンにとっては変化が分かりにくい面はある。選手のプロ化やチームの法人化を義務付けるプロリーグにはならなかった。19年に日本協会の清宮克幸副会長が新リーグ構想を打ち上げた時はプロ化をうたっていた。しかし、チームなどから反発が高まり、協会は方針を変更。新リーグ法人準備室の谷口真由美室長は「急激な変化に耐えられない結果、チームが減るのは大きな損失」とプロ化をやめた理由を語る。

バスケは「外圧」とリーダーシップでプロ化

もとより新リーグの設立は様々な人の利害が対立する難事業である。他競技でも当初はプロ化を訴えながら変化の乏しい「新リーグ」に後退した例がほとんど。Bリーグの創設時も一部チームから強い反発があったほか、利害関係者が訴訟を検討する事態にもなった。プロ化を貫徹できたのは、国際統括団体の「外圧」と、川淵三郎初代チェアマンの強力なリーダーシップがあったから。どちらもない今回、1万5000人収容のスタジアム確保という厳しい条件で合意形成できたのは一つの成果と言える。

もちろんまだハードルも多い。葦原氏は「リーグの成功にはガバナンスの構築が何よりも重要」と指摘する。新リーグの運営法人は4月に発足するが、重要事を決める理事の選定方法などは未定。「リーグとチームの意見は一致しないことが多い。一般企業が社外取締役を入れるように、利害関係のない第三者の意見を取り入れる仕組みが大事になる」。Bリーグは理事の人数構成を明文化。3分の1がクラブ関係者、3分の1が外部有識者とすることでリーグ幹部とのバランスをとっている。

スタジアムの確保も課題で、有力チームでもメドがついていないケースがある。「新リーグ準備室や協会の幹部にもっと交渉の場に出てきてほしい」とあるチームの幹部は話す。Bリーグの誕生前、川淵三郎氏はクラブの幹部や報道陣を引き連れて自治体のトップと会い、アリーナの提供を呼び掛けた。今回も親会社の幹部や自治体への協力依頼はもっとあってもいいだろう。リーグ準備室の幹部にはプロリーグなどの経験者がおらず、人材の確保も必要になる。

サントリーに加入したニュージーランド代表のバレット(右)。近年は海外有力選手のトップリーグ参戦が目立つ

点差が開きやすいラグビーでは戦力均衡の仕組みもより求められる。協会は選手の総年俸に上限を設けるサラリーキャップを入れる方針。プロ選手と社員選手それぞれに枠を設ける案が出ている。プロアマ混合の現状では難易度は高いが、「サラリーキャップは新人のドラフト制度などと併用することで効果が高まる」と葦原氏は指摘する。

近年はプロ選手の増加に伴って不透明な選手契約が出ているとの声もあり、代理人にライセンス制度を設けることも検討されている。チームが独自に動き出した法人化も、どこかの段階でリーグとして義務化することは必要ではないか。1部リーグのクラブの資産価値を高めるとともに戦力均衡を進めるため、昇降格制度のない「閉鎖型」のリーグへの移行も考えるべきだろう。

日本ラグビー協会は24年までの3年間を助走期間にあたるフェーズ1、28年までの4年間をフェーズ2、32年までをフェーズ3と位置づけ、制度の見直しなどを進める予定。「世界で見直しが進んでいる国際試合のカレンダーと国内の日程を調整し、事業性も高めて世界最高峰のリーグにすべく、10年間で方向性を確固たるものにしたい」。日本協会の岩渕健輔専務理事は話す。

クラブW杯構想に日本チームも参戦?

新リーグには他にはない売り物もある。「海外のチームと戦えるチャンスがあるのはすごくいい」。クボタの立川理道主将は16日、オンラインイベントで喜んだ。1部リーグの上位は海外勢とのプレーオフに参戦できる予定。相手などは交渉中だが、画餅に終わる可能性は低い。

南半球のスーパーラグビーは南アフリカの脱退が濃厚になったことで危機的な状態。残されたニュージーランド、オーストラリアは昨年から水面下で日本チームとの対戦を求めている。スターがそろうフランスリーグも将来的なクラブW杯の構想を持ち、日本チームとの交流を要望しているという。

近年の日本代表の躍進と国内の人気向上、国際情勢の変化により、日本は有利な立場で交渉できそうだ。「新リーグで(19年の)ワールドカップの熱狂を日常のものにしたい」と岩渕専務理事。ビジネス面の成功と国際交流が実現すれば、目指す光景は近づいてくるだろう。

(谷口誠)

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