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二極化がすすむ大リーグ、格差から生まれる創造力

スポーツライター 丹羽政善

1997〜98年ごろ、アメリカでは水よりガソリンの方が安かった。もちろん、税金の関係で州などによって価格は異なるが、当時住んでいたインディアナ州では、1㌎(約3.8㍑)あたり約80㌣(約100円。当時のレート1㌦=約125円で計算)。水が1㌎90㌣〜1㌦だった。

1999〜2000年ごろ、取材でサンフランシスコを訪れると、ガソリンの値段が1㌎2㌦を超えていた。スタンドを通り過ぎるときに思わず二度見したが、それがどこへ行っても当たり前になるまで、さほど時間はかからなかった。

今、筆者の住むシアトルは、1㌎約3㌦30㌣。一時期は4㌦を超えていたので少し下がったが、それでも高止まりしたまま。一方で水の値段はさほど変わっていない。

ドジャースはバウアーと年俸4000万㌦で契約した=AP

大リーガーの年俸が3000万㌦を超えるようになって久しい。昨年は13選手の年俸が3000万㌦を超えていたが、先日、トレバー・バウアーがドジャースと3年契約を交わし、今季の年俸が4000万㌦であることが明らかとなった。ついに、年俸4000万㌦の時代に突入したのである。

あくまで契約時だが、バウアーの年俸はパイレーツ(約3894万㌦)、オリオールズ(約3776万㌦)、インディアンズ(3656万㌦)の今季年俸総額を上回っており、その格差も話題となった。

バウアー1人でソフトバンク総年俸

日本のプロ野球との差も開くばかり。日本プロ野球選手会が公表している昨年の年俸総額によれば、11球団がバウアーの今季の年俸を下回り、オリックス、ロッテ、中日、ヤクルトはその半分にも満たない。ソフトバンクが42億744万円だったので、ほぼ同額か。

かつてーーといっても、もう40年ほど前のことだが、ここまで大きな開きはなかった。むしろ、日本の野球界の方が、待遇がよかったのかもしれない。

楽天に復帰した田中将は日本球界の最高年俸を9億円(推定)にまで押し上げた=共同

以前も紹介したことがあるが、1971年に日米野球で来日し、後に3度のサイ・ヤング賞を獲得するジム・パーマー(オリオールズ)は「あの年の僕の年俸は7万㌦。でも、日米野球に出場すると1万㌦ももらえた」と当時を振り返った。

ワールドシリーズの第7戦でパイレーツに敗れたオリオールズは、6日後に日米野球の第1戦を戦い、そのまま日本各地を転戦し、18試合を行った。今の日米野球にはもう、疲労などを理由にスター選手が来なくなってしまったが、当時は「みんな、大喜びで日本へ行った」という。「当時はオフにアルバイトをする選手もいたぐらいだから」

そんな時代はもうしばらく続く。

1978年、今度はレッズが来日し17試合を行った。2014年に歴代でも屈指の捕手として知られるジョニー・ベンチにインタビューすると、彼もまた「あの年の年俸は40万㌦だったが、日本で試合をするとこんなにもらえるのかと思った」と苦笑しながら述懐している。

「ホームランを打つとさらに賞金がもらえる。あの頃、みんな日米野球へ行きたがった」

70年代、日米の最高年俸は拮抗していた

最高年俸(日本の場合は推定)で比較した場合、1㌦360円だった固定相場制が崩れ、変動相場制になったあとも70年代の半ばまでは1㌦300円前後だったので日本円に換算すると大リーガーの最高年俸の方が上だが、70年代は拮抗している。

ところが、1980年以降、最高年俸も平均年俸もどんどん差が開いていく。

昨年の平均年俸は日本が4189万円。大リーグは162試合開催されていれば4億1535万円。約10倍である。15年は円安だったこともあるが、日本が3811万円だったのに対し、大リーグは4億7840万円。この年の差は約12倍だ。

今季の最高年俸は、楽天に復帰した田中将大が9億円まで押し上げたが、バウアーが42億円なので約4.7倍である。

80年代前半を境に差がついたのは、大リーグで76年にフリーエージェント制度が導入されたことが大きく、近年は巨額のテレビ放映権料が、その差を広げる原動力ともなっている。

大リーグに話を戻すと、球団間の格差は上位でも異なる。バウアーと契約したドジャースの今季の年俸総額は10日の時点で、約2億3484万㌦でリーグトップ。2位のヤンキースが約1億8989万㌦なので、1位と2位でもおよそ4500万㌦もの開きがある。

ただ、そうした裏には方向性の違いもにじむ。確かに、昨年は年俸総額2位のドジャースがワールドシリーズを制した。しかし、同28位のレイズが同1位のヤンキースをア・リーグの地区シリーズで下し、同5位のアストロズにもア・リーグ優勝決定シリーズで勝ってワールドシリーズに駒を進めている。

年俸総額下位チームの健闘も

年俸総額上位10位までのチームでプレーオフに進んだのは5チーム。一方、下位8チームのうち、5チームがポストシーズン出場を決めている。つまり、決して年俸総額上位のチームがプレーオフの出場枠を独占しているわけではなく、プレーオフに進んだ16チーム中9チームの年俸総額は平均以下だったのだ。

大リーガーの年俸はやがて4000万㌦も当たり前となり、5000万㌦の時代がやってくる。しかし同時に、資金力がなくても工夫次第で戦えるチームはつくれる。そんな二極化が言われて実は久しいが、ますますその傾向が強まっている。背景にはデータサイエンスを駆使したアプローチがその一端として垣間見え、資金がないからこそ、そこに創造力が生まれるという摂理を目の当たりにしているようでもある。

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