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サッカーU-19日本代表、フランスで貴重な経験積んだ

サッカーの19歳以下(U-19)男子日本代表に同行し、フランスで開催された第48回モーリスレベロトーナメントに参加してきた。最終的に5位、6位決定戦(6月10日)に回った日本はU-20アルゼンチン代表に2-3で敗れ全日程を終えたが、コロナ禍で国際舞台から約2年遠ざかっていた若者たちは渇望していた国際経験を今回積むことができた。

ちなみに、U-20アルゼンチン代表の監督はFCバルセロナやアルゼンチン代表で活躍した、あのハビエル・マスケラーノ(38)だった。ついこの間までリオネル・メッシ(現パリ・サンジェルマン)らと共闘していた感じだが、若き幹部候補生として未来のフル代表を率いるコースを走ることになったのだろう。

大会は南仏のマルセイユ周辺の会場を使って行われた。5大陸から12チームが参加、4チームずつA、B、Cの3組に分かれてグループリーグを実施した。C組の日本は初戦のU-21アルジェリア戦を1-0で白星発進したものの、次のU-21コモロ戦を0-0からのPK戦で落とし、3戦目のU-19コロンビア戦も1-2で敗れて準決勝(各組1位と各組2位の最上位成績チームによる)に進むことができなかった。

前回の2019年大会は三笘薫(現サンジロワーズ)、田中碧(現デュッセルドルフ)、旗手怜央(現セルティック)らを擁して準優勝した。それに比べると後退した印象を与えるが、約2年のブランクの後、世界との距離を体感できたことで個々の選手には大きな収穫があったと思う。

対戦した4チームは強豪ばかりだったが、特にコモロとの戦いは驚きの連続だった。私自身、地図で調べて「アフリカ大陸とマダガスカルの間に浮かぶ島々なんだ」くらいの認識だったが、目の前に現れたのは、かつての宗主国フランスのリーグでプレーする選手ばかり。コモロと縁のある選手をかき集めたのだろうが、とにかく黒人選手特有のバネのある身体能力は素晴らしく、日本の選手は普段は通るはずのパスが、びよーんと伸びてくる足にカットされてかなり面食らうことになった。

勝てば準決勝に進むことができたコロンビア戦は、相手も日本と同じU-19の編成だったから勝利を手にしたかったが、一瞬の隙をしたたかに突かれて2失点。この年齢から試合運びのうまさも含め、南米勢はちょっとしたミスを見逃してくれない。

こういう国際色豊かな大会の良さは、日常とはまったく異なる環境、相手との戦いを経験できることだ。到着後すぐの試合なら時差に慣れる必要がある。南仏だから基本的に気候はいいけれど、グループリーグの日本の試合はすべて現地時間14時キックオフ。容赦なく照りつける日差しはサッカーをするには過酷であった。

フィジカルで上回ってくるアフリカ勢には、足技が少しばかりうまい程度ではどうしようもないことを選手も頭では分かっていたはず。しかしこれも実際に足先のプレーでかわそうとして、足ごとガサッと持って行かれるような目に遭って、初めて合点がいったようだった。

いい時にいいプレーができるのは当たり前で、苦しい状況に追い込まれた時に、いかにしぶとく戦って自分たちの時間を増やし、流れを引き寄せるか。そういうたくましさを身につける必要を選手は今回痛感したわけである。

一方で日本のチームの組織だったところ、連動性のある攻守はある程度通じたという手応えも選手は感じたようだった。アフリカ勢の強度にどう体を使って対抗するかも試合の中で徐々に慣れて覚えていく感じがあった。そういう意味で選手の覚醒を促す、本当にいい大会に参加できたと思う。

コロナ禍で国際交流がままならなかったこの2年間、日本は国内で合宿等を張って育成強化の火を絶やさないように努めてきた。それは大事なことだが、普通の合宿だと集めた選手は全員練習試合で使おうとなって、どうしても出場時間を公平に割り振る感じになってしまう。

しかし、タイトルがかかった国際大会となると「公平」よりも「勝負」が優先され、主力組とサブ組の間に線が引かれて出場時間に偏りが生まれる。それは一見すると不平等かもしれないが、人を育てる上で有効に作用する面がある。真に出番に飢えた選手は、だからこそピッチに立った時には必死でボールを追い、短い時間でも完全燃焼を目指す。サブ組から主力組にはい上がろうと向上心に火をつける。これもまた単なる合宿では生まれない、国際大会の効用といえるだろう。

日本代表で最多出場(152)を誇る遠藤保仁(磐田)は、06年のワールドカップ(W杯)ドイツ大会でフィールドプレーヤーとしてただ一人出番がなかった。その悔しさをその後の糧としたのは有名な話である。19歳以下でも、この世界で飯を食おうと覚悟したのなら「順番をおとなしく待っていればチャンスは回ってくる」なんて考えは捨てなければならない。

前身の「トゥーロン国際」と呼ばれた時代から、この大会はクリスティアノ・ロナルド(マンチェスター・ユナイテッド)ら数多くのスターを世に送り出した登竜門として知られてきた。今回も客席には欧州の腕利きスカウトが大勢陣取り、品定めに余念がなかった。それもあって試合は自然に白熱するのだった。

決勝でベネズエラを下して優勝したフランスはU-20代表だったが、前線の攻撃陣は速くて強くて、グループリーグでアルゼンチンを6-2で破壊した試合はセンセーショナルの一語に尽きた。フランスのアタッカーで大会中に英プレミアリーグのクラブへの移籍が大々的に報じられた選手もいた。

今回、もう一つ目を引いたのは審判団が全員女性だったこと。この大会のレベルの高さに目をつけた国際サッカー連盟(FIFA)が、研修を絡めた女性審判養成の舞台に選んだようだった。

正直、レベル的には玉石混交というか、お世辞にもうまいといえないレフェリーがいた。一方で開幕戦を担当したレフェリーはフィジカル的には男性に勝るとも劣らない能力を備えていた。日本からも山下良美さんが呼ばれて笛を吹き、レベルの高さを示していた。山下さんは、5月にFIFAが発表したW杯カタール大会の36人の主審リストに、W杯史上初めて名を連ねた3人の女性レフェリーのうちの1人である。

3年ぶりに開催されたトーナメントに参加して、つくづく感じたのは本当によくできた大会だな、ということだった。12チームが参加して順位決定戦も行うことで、参加チームは最低でも4試合できる。A、B、Cの3組を1日ずつずらして試合をさせると、中2日でグループリーグを毎日2試合ずつ回していける。その効率の良さは短期集中の研修にも向いている。つまり、主催する側、試合をする側、スカウトする側、研修をする側、全員がウインウインになれる気持ちの良さがある。だからこそ48回も続いてきたのかもしれない。

その間にはたくさんの失敗もあったかもしれないが、試行錯誤を重ねながらフランス産のワインのように大会を熟成させてきた。単に伝統があるだけでなく、世界中から逸材が毎回集まることでサッカーの未来を感じる場所でもある。

そんな大会を複数の日本企業がスポンサーとして支えていた。その1社であるセキドの関戸正実社長と現地で偶然話をする機会があったけれど、日本サッカーを強くすることに貢献したいという熱い思いが伝わってきて、頭が下がる思いだった。

しみじみと思ったのは、こういう規模の国際大会を日本でもできないかなあということ。時期を選べば、結構なお祭りにできるのではないか。コロナ禍で閉塞感がある今だからこそ、ついそんな夢のようなことを考えてしまった。

(サッカー解説者)

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