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ラグビー新リーグ成功のカギは 谷口氏と葦原氏が対談

2019年のラグビーW杯では日本中がラグビーブームに沸いた(日本-スコットランド戦)

ラグビーの新リーグが来年1月に開幕する。トップリーグ(TL)を発展解消してできるリーグは海外展開や地域密着、チームの事業化を柱に掲げる。日本ラグビー協会の谷口真由美・新リーグ法人準備室室長と、バスケットボールBリーグの初代事務局長として立ち上げに尽力した葦原一正さんに、成功のカギを語ってもらった。

――新リーグ設立の経緯は。

谷口「ラグビーの競技人口は増えていないし、TLの観客者数も平均5000人ほど。2019年ワールドカップのようなフィーバーがまたあるかも分からない。だから大企業の後ろ盾があるチームに興行権を渡し、自主運営をしてもらう。その中で観客動員を増やす方策を考えてもらえたらと走り出した。協会には以前から新リーグ構想があり、19年には清宮克幸副会長もプロ構想を提唱したが、この構想は急激すぎて多くの人がついていけなかったようだ。かといって以前のリーグ構想ではスピード感が遅い。 いいとこ取りをして改革を進めようとなった」

スタジアム確保は譲れない条件

葦原「ラグビーのポテンシャルはものすごく大きい。リーグの収益化も大事だが、まずはガバナンスを固めることが正しいプロセス。いい制度や思想ができればお金はおのずと集まる」

谷口「譲れなかったのは1万5000人収容のスタジアムをチームに確保してもらうこと。Jリーグも既にスタジアムを使っているし、地域によってはそもそも基準に合う施設がない。東京近郊のチームは特に大変な状況。最初の段階で支障が生じているのはスタジアム。でもここは譲れませんとやっている」

2016年に産声をあげたバスケットボールのBリーグの開幕戦。施設の確保は高いハードルだった

葦原「Bリーグの時は(初代チェアマンの)川淵三郎さんが5000人規模の施設を確保しろと押し切った。チームに厳しい条件を課すことはチームやファンへの愛。ハードルが高い方が、行政と話すことで物事が動きやすくなる。スタジアム、アリーナの問題はぶれないことが大事。条件を下げると、真面目にやってきたチームにフェアじゃなくなる。全国にラグビー場がたくさんできると楽しみ。ただ、最初の3年間に関してはスタジアム確保の義務化ではなく『目指すこと』という表現になっている。苦悩がにじみ出ているような」

谷口「今回、協会側は各チームの入会を審査するのではなく、既に存在する25チームに(1~3部リーグに分けるための)順位付けをする立ち位置。Bリーグとは大きく違う」

――以前の新リーグ構想で協会が既にリーグ法人を設立。25チームが入会金を支払って加入した経緯がある。

谷口「『また別の新リーグができるからいったん法人から脱退する、なんて会社に説明できない』というチームの声があった。Bリーグのように、条件を満たさないチームは入れない、とするのは難しかった」

Bリーグ元事務局長の葦原一正氏

葦原「国際統括団体の外圧もあってガラッと変えやすかったBリーグと違い、厳しい条件だ。新リーグ法人のトップの権限を高めないとガバナンスが難しくなる。JとBの定款は比較的良くできている。理事の構成はチーム、リーグ・協会関係者、外部有識者が3分の1ずつでバランスが取れている。理事会に不満があるなら社員総会で過半数の賛同を集めればクビにできる。普通の企業のガバナンスと同じ」

――4月に現在の法人を改組し、新リーグの運営法人をつくる。理事のバランスは。

谷口「現法人の理事や社員はチームの人が圧倒的に多い。ガバナンスをどう設計するか。まだ固まっているわけではないが、理事の構成はJやBのように『3分の1ずつ』がシンプルだと考えている。ガバナンスコード(国が定めたスポーツ団体の運営指針)で求められる、女性理事40%以上も目指す」

葦原「ガバナンスは実際の運営も大事。Bリーグでもドライにはやらなかった。僕も事前にチームの根回しをし、個別の意見を聞いた。事務局のメンバーの思想も大事。最後は『べき論』で考えろと。(新リーグの条件を決める際などに)チームの要望する細かい条件をのみ出すと足並みが乱れ、事務局が崩壊する。最後はリーグの思想や定款に立ち戻ることができるかどうかで未来が変わる」

実業団と独立法人が併存?

――今回、チームの独立法人化は義務付けなかった。

葦原「実業団リーグの存在は否定しないが、法人化の効果は大きい。究極は誰のためのチームですかという話。親会社があると、チームの人はサラリーマンなので上の顔しか見ない。独立法人になるとファンや地域を見るようになり、バランスが生まれる。地域やファンのためのスポーツなら法人化。クラブの収支をオープンにし、ステークホルダーに見えるようにするためにも法人化をして監査を入れる必要がある」

日本ラグビー協会新リーグ法人準備室の谷口真由美室長

谷口「ラグビーは大企業が支えてきた歴史的な経緯がある。選手の数が多く、試合も週に1度が限度という条件もある。すぐに全チームに独立採算を求めるのは難しいとなった。構想に何年もかけ、親会社にも準備してもらってとなればまた別だったが。まずはハイブリッド型というか、実業団と独立法人が併存する形で始まると思う。成功例を見て法人化をするチームも出てくるだろう。どう収斂(しゅうれん)するのかワクワクしている」

「(選手の総年俸に上限を定める)サラリーキャップも費用抑制の観点から導入することになるだろう。社員選手もいるので他リーグの制度はそのまま適用できないが、戦力均衡の観点からも設けた方がいいと思う」

野球、サッカーに負けない「世界最高峰」に

葦原「サラリーキャップは費用抑制と戦力均衡のどちらを目指すかが大事。前者ならチームを法人化して経営情報を開示させないと意味がない。後者を目指すなら、ドラフト制度やチーム間の収益分配の仕組みなどの検討も必要だろう」

――新リーグはプレーオフで海外の強豪クラブと対戦する方針だ。

葦原「いいことだと思う。まずは国内基盤を固めるのが基本だが、将来的に海外のお金を得ようと思うなら早め早めに動いた方がいい。海外展開がすぐに収入に結びつくわけではない」

谷口「『世界最高峰のリーグ』をうたっている。世界の選手が日本でプレーしたい、日本のチームと戦いたいと思えるリーグになるために何をすべきかを逆算し、プランをつくっていきたい」

葦原「優秀な選手が来日する最高峰リーグというコンセプトは極めて正しい。日本の野球、サッカーは欧米のリーグに比べると収入の規模が小さく、まだそうなっていない。ラグビーが世界最高峰になるには同じことをやっていてはダメ。ここまで大胆にやるかというくらいドーンといかないと。野球、サッカーと集客面などで並ぶ規模のあるスポーツコンテンツは日本ではラグビーしかないので期待している」

(聞き手は谷口誠)

たにぐち・まゆみ 父が近鉄ラグビー部コーチ、母が同部の寮母だったため、寮のあった近鉄花園ラグビー場内で育つ。 法学者やテレビ番組のコメンテーターとして活躍した後、2019年に日本ラグビー協会理事に就任。20年から新リーグ法人準備室室長を務める。1975年生まれ、大阪府出身。阪大大学院博士課程修了。大阪芸術大客員准教授。
あしはら・かずまさ プロ野球DeNAのフロントなどを経て、2015年にBリーグの事務局長に就任。17年から常務理事を兼任した。日本バスケットボール協会理事として国際交渉などを担った後、20年7月に退任し、スポーツビジネスコンサルティングのZERO-ONEを設立。早大大学院修士課程修了。1977年生まれ、東京都出身。ハンドボール日本リーグの新法人のトップに内定している。 17日に『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』を出版する。

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