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ホッケーで描くまちづくり 大井競技場を「聖地」に

スポーツコンサルタント 杉原海太

「品川区×ホッケー」というプロジェクトに今、関わっている。この夏の東京五輪・パラリンピックでホッケーの開催会場になる品川区の大井の競技場を、ラグビーにおける秩父宮のような、ホッケーの聖地にできないか。そんな思いから動き始めたものである。

昨年12月、大井ホッケー競技場で行われた男子日本リーグで優勝を決めた岐阜朝日クの選手たち=共同

プロジェクトの中心にいるのは日本ホッケー協会の坂本幼樹事務局長だ。坂本事務局長は邦銀から外資系のバンカーになり、さらにJリーグなどが音頭を取ってスポーツ経営人材の育成と知恵の集積を目的に設立したスポーツヒューマンキャピタル(SHC)の受講生になったことが縁になり、現在のポジションに就いた人。

ホッケー協会は2030年をターゲットに「Japan Hockey Road to 2030」という長期計画を策定した。オリンピックのレガシー(遺産)でホッケーの新時代を創るという計画に大井ホッケー競技場の聖地化も組み込まれている。既に品川区や隣の大田区との地域連携を高めるために地元の自治体関係者や商店街連合会、町内会といった地域で暮らす人々をホッケーの観戦に誘い、裾野を広げる活動に取り組んでいる。

理念に賛同し、昨年9月には日本ホッケー協会と東京モノレールが「オフィシャル社会共創パートナー」協定を結んだ。スポーツを通じて沿線地域を活性化し、ホッケー、企業、地域の3者がウインウインの関係になるのを目指してのことだ。

にぎわいを一過性に終わらせない

そんな動きの中で、私も「品川区×ホッケー」というワークショップに参加するようになった。中心となっている運営メンバーは坂本事務局長と竹中茂雄氏(東海道品川宿FCコーチ)、大多和亮介氏(大和シルフィード社長)、上井雄太氏(フューチャーセッションズ)、そして品川区役所の文化スポーツ振興部オリンピック・パラリンピック準備課の方たち。大多和氏と上井氏はJリーグの社会連携プロジェクトでもご一緒させていただいており、そこで得られた知見はこのプロジェクトでも生かされている。

せっかくオリパラの会場になったのだから、にぎわいを一過性に終わらせるのではなく、品川のまちづくり、子育て、教育、高齢者の健康問題など、いろいろな面でホッケーを役立てることはできないか。それが日本で真のホッケー文化の醸成につながるのではないか。レガシーとして残すのはハード(施設)だけでなくソフトも。そんな思いから皆が集まり、知恵を出しあっている。

 大井ホッケー競技場は2019年夏に開催された東京五輪テスト大会の会場にもなった=共同

オリパラの会場地として、期間中はインバウンドのお客さんがたくさん来るだろうと最初は見込んでいた。江戸時代から品川には宿場町だった歴史があるし、おもてなしの精神を発揮する絶好の機会に思えた。しかし、そんな期待はコロナ禍の今、大きく揺らいでいる。

しかし、ホッケー協会が今、取り組んでいるのは、ある意味で「祭り」の開催に左右されないまちづくりといえる。万が一、オリパラが開催されなくても、それで頓挫するような話ではない。そういうプロジェクトがあることを「面白いな」と感じながら私も議論の輪に加えてもらっている。 

「メダル頼み」の構造を変えよう

面白いと感じることを詳述すると、1つ目は、ホッケー協会が自ら「勝った」「負けた」以外のところでスポーツの価値を捉え直していることにある。オリンピックという素晴らしいお祭りのインパクトを有効に使って(たとえそれが開催されなくても)、祭りの後の日常にスポーツを根付かせることを実践している。それはオリンピックの度に叫ばれる「金メダルが何個取れた」みたいなことに、勝るとも劣らない活動になる可能性を感じる。

日本にはマイナー競技ほど「メダルを取れば世界は変わる」みたいな妙な信仰がある。しかし、メダルを取った後、にぎわうのは直後のブームの間だけで、やがて潮が引くように人が去っていくことが珍しくない。そういう構造を根本的なところから変えていこうとスポーツ組織が自ら動き出していると感じるのだ。

2つ目は「アフターコロナ」のスポーツビジネスの在り方として注目される「365日モデル」とリンクしているように感じることだ。このモデル、プロ野球の千葉ロッテマリーンズなどでスポーツビジネスの専門家として活躍された荒木重雄氏(スポーツマーケティングラボラトリー代表取締役)が説かれているもので、従来の「スタジアム内」「試合日」を中心とした収益モデルを「スタジアムの外」「非試合日」にまで広げようというものである。

 メジャースポーツでなくても、地域社会との結びつきによって価値を高めることができる=共同

チケット収入にしても放送権ビジネス、広告露出の対価として得る協賛金ビジネスにしても、これまでのスポーツビジネスは「スタジアム」と「試合」が収益の源泉だった。その大黒柱をコロナ禍は直撃した。グッズ販売など「スタジアム」「試合」以外の収益事業にすでにプロスポーツは取り組んでいるが、今後はさらに試合以外のところでマネタイズできる道を探らないといけない。ホッケー協会の目指すところはまさにそこで、この試みはコロナ前からプランニングされていたけれど、今となっては偶然を超えた必然のようにも思えるのである。

企業と地域社会のニーズに応える

3つ目は、ホッケー協会の取り組みが成功すれば、世間からマイナーと見られがちな競技の価値が刷新されることだ。人気競技であれば、放映や協賛に関する権利の価値が上がることもあってか、日本では野球、サッカー、ラグビー、バスケットボールのようなメジャーな競技にならないと価値はあまりないかのように扱われがちな印象がある。スポーツを使って地域社会とのエンゲージを高めることで、競技としての価値を高めていく方法はいくらでもある。

ホッケーの挑戦は、ビッグスポーツにならなくてもブランド価値を高めることは可能という道筋を他の競技にも示すことにつながる気がするのだ。ぜひとも成功して、この輪がどんどん広がっていけばいいなと強く願っている。

私の肌感覚ではスポンサーになる企業も、スポーツとの関わりは露出一辺倒ではなくなっている。既に認知度のある企業は特にそうだ。企業もまた地域とのエンゲージメントや社会性を求め、社会性とビジネスメリットの両立にシフトしている。それに応じて、スポーツの側も公金頼りの甘えの構造を排し、企業と地域社会のニーズに応えられるように自己変革を促せば、ファミリーを増やすことができるのではないか。

それは、これまでのスポーツのビジネスモデルに取って代わる話ではない。選択肢が増えるということである。その結果として、マイナーとされる競技が自身の文化を大いに花開かせることができたら、こんなに素晴らしいことはないと思うのである。

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