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絵になる異端児・新庄監督 球界変革の野望に期待

かつての日本ハムは「スター輩出工場」だった。ダルビッシュ有と大谷翔平が近年の双璧。2人が米大リーグに渡ってからはチームの華やかさが薄れ、成績も下降線をたどった。2021年は主砲の中田翔もチームメートへの暴行問題で巨人に去り、10年間率いた栗山英樹監督も退任。いよいよ華がなくなったと思ったところで世間をあっといわせたのが、新庄剛志監督の誕生だった。

のっけからやってくれた。就任記者会見ではワインレッドのスーツにシャツの襟を立て、さながらハリウッドスターのようないでたちで登場。「きょうはびしっと監督っぽい格好で来ました」

所信表明も振るっていた。「優勝なんか一切、目指しません。高い目標を持ちすぎると選手っていうものはうまくいかないと思っている。一日一日、地味な練習を積み重ねて、何気ない試合、何気ない一日を過ごして勝ちました、勝った勝った勝った勝った。それで9月あたりに優勝争いをしていたら、さあ優勝目指そうって」

これ以上ないインパクトを残し、改めて人の予想を超えるものをもたらす人だと感じた。およそ「監督っぽい」とはいえない服装と、これまた従来の監督にはない発言は、プロ野球が「見せる」商売であることを十分に意識したもの。アピール度満点の会見だった。

のびのびした新庄監督のこと、選手たちに変なプレッシャーを与えない監督になるのではないだろうか。チームにはムードメーカーの杉谷拳士がいるが、チームが低迷すると一人だけ浮いて見えたところがあった。新庄監督がどんなときでも明るく振る舞えば、杉谷のキャラクターがこれまで以上に生きる気がする。

プロでの指導経験がない中で監督に就いたことを不安視する声があるが、栗山前監督も指導者経験がないところから監督になり、リーグ優勝2度、日本一1度の成績を残した。現場をよく知っているからといって必ずしも良い監督になれるわけではないのは、コーチから昇格して思うような成績を残せずに去った監督が何人もいたことからも分かる。

極端な話、監督というのは野球を知らなくてもやれる職業だと思っている。大事なのは、選手たちに「この監督を胴上げしたい」と思わせられるかどうか。ヘッドコーチを筆頭に優秀な人をコーチ陣にそろえて技術指導を任せ、選手の背中を押し、成長が見込める環境を整えるのが重要な仕事だ。

胴上げで思い出すのが広岡達朗監督時代の西武。食事や飲酒の制限に代表される「管理野球」の厳しさが選手の反発を呼び、田淵幸一さんらは「優勝したら胴上げのときに監督を落とそう」と話していたという。

広岡さんが監督に就いた1982年、チームは西武ライオンズとしては初のリーグ優勝を果たした。さあ胴上げとなってある選手が「落としますか」と聞くと、田淵さんはこんなふうに答えたという。「ちょっと待て。なんだかんだいっても広岡さんは優勝させてくれた。俺たちにいい思いをさせてくれたじゃないか」。初めは落とすことを画策したチームリーダーに最後の最後で「胴上げしたい」と思わせた広岡さんは、やはり名うての将だった。

広岡さんのほかにも、以前は長嶋茂雄さんに野村克也さん、星野仙一さんと個性的な監督が多かった。弁舌巧みな3人のコメントは常にマスコミに取り上げられ、勝っても負けてもファンの注目の的だった。いずれもネーミングセンスのかたまりで、長嶋さんの「メークドラマ」や、野村さんが楽天監督時代に田中将大を評した「マーくん、神の子、不思議な子」などはそのまま新聞の見出しになった。星野さんは話のうまさとともに、審判への猛抗議や乱闘シーンでの「活躍」で「闘将」の名をほしいままにした。

そう思うと最近の監督は地味な印象だ。リクエスト制度ができて審判に食ってかかるシーンが減ったことが一因ではあるが、印象深いフレーズを耳にすることが少なくなった。それだけに、全てにおいて絵になる新庄監督は久々の個性派監督として、ファン待望の「逸材」といえるだろう。

一般企業では常務、専務と階段を上っていって社長に昇格するケースもあれば、全く違う業界からプロ経営者が社長として迎え入れられるケースもある。後者の場合、その会社を知らない人がトップに就くことで、良くも悪くも波風が生じることがあるだろう。ただ、「波風のない人生ほど面白くないものはない」というのが私の人生訓。乗り越えられる波ならあった方がよい。球団OBとはいえ内部昇格組とは一線を画し、どこか「異端」の香りが漂う新庄監督は様々な類いの波風を立たせるだろうから、来季の日本ハムは相当面白くなるはずだ。

久々に味のある監督の登場だ。はたしてその味は――。エンターテインメント力では右に出る者のいないビッグボスは「プロ野球を変えていきたい」という夢をどう実現させていくのか。早くも来季が楽しみでならない。

(野球評論家)

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