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マラソンの野口みずきさん 絵画から力もらった

「パラリンアートカップ」審査員が語る

オンラインでのインタビューに答える野口みずきさん

2004年アテネ五輪マラソン女子の金メダリスト、野口みずきさんは知る人ぞ知るアート愛好者。現役時代から練習の合間に美術館を訪ね、ときにはイラストを描く。最近は障害者アーティストの絵画コンテスト「SOMPOパラリンアートカップ」で審査員を務め、障害者の社会参加も後押しする。障害者のアーティストやアスリートの活躍をどう感じているのか語ってもらった。

――マラソン選手とアートとの接点は何だったのでしょうか。

「現役時代、スイスのサンモリッツでトレーニングをしていました。合宿しているホテルの近くにセガンティーニ美術館という小さな美術館があって、時間があるときには、ジョバンニ・セガンティーニの作品を鑑賞していました。彼は北イタリアの画家ですが、最後はスイスで亡くなったのです。なかなか現役時代はゆっくりと鑑賞する時間は持てなかったのですが、それでも合宿先に素晴らしい場所があるのはよかったですね」

「アート鑑賞は気分転換になる。力ももらえる」

「絵や音楽を鑑賞すると気分転換になりますから、走ることにも役立ちます。絵画はレースの直前でも、少しでも時間があると見に行っていました。松江市でハーフマラソンの大会に出場したとき、市内の美術館で岡本太郎展が開かれていると知って見に行ったこともありました。絵から力をもらうのです。特に岡本太郎さんの作品からはそう感じました」

――鑑賞だけでなく、筆を手にすることもあるのですね。

「特に『よし、描くぞ』という感じではなく、練習の合間などに、ふと描こうかなと思い立つのです。本格的な油絵というわけではなく、マジックでイラストを描きます。似顔絵も好きです。今でも(所属する)岩谷産業の(陸上競技部の)監督の似顔絵などをよく描いていますよ」

――障害者の絵画コンテスト「SOMPOパラリンアートカップ2020」では、晴れやかな笑顔を浮かべる花の絵を自ら描き、出品を呼びかけました。

「昨年、出品を呼びかけたときは新型コロナウイルスの影響で(1回目の緊急事態宣言の)自粛期間中でしたから、自分も含めて、耐えないといけない時間でした。それにコロナ禍だけでなく、生きていれば、しんどいときってありますね。そんなときもしっかり我慢して、がんばった先には必ず希望の光が見えてくるという気持ちを表現しました」

――コンテストでは長野県に住むYou-kiさんの「陸上競技場」という作品に野口みずき賞を贈りました。どこを評価したのでしょうか。

野口みずき賞が贈られた、長野県のYou-kiさんの作品「陸上競技場」

「絵のタッチが私の好みにぴったり。とてもカラフルですから、明るく、楽しく、ワクワクする印象を見る人に与えてくれます。陸上競技場は普通ならば楕円形を思い描くのでしょうが、この作品では変わった形のコーナーが表現されていて、固定観念に左右されず、作者自身が持っているイメージが詰まっていると思います。東京五輪・パラリンピックは延期になっている状態ですが、この絵を見る人には希望を持ってもらえると感じます」

――ここ数年、障害者のアーティストやアスリートの活躍が注目されるようになっていることをどう感じていますか。

「障害を持っている人の中には、自分の状況の中で可能性が残っているものを、どのようにうまく使うか、どう前に進もうかと常に考えている人がいて、そういう人たちの活躍を見て、力をもらっています」

「最も力をもらったのは、08年北京五輪の日本代表として選ばれていたなかで、足をけがして直前に欠場となり、いろいろなプレッシャーで気持ちが沈んでいた時期でした。そんなとき、足が不自由な方から手紙をもらったのです。『私は片足をなくしたけど、あなたには足があるから、けがを治せば、また走ることができるので、がんばって』という言葉をいただき、前を向いて進むしかないと思えるようになりました」

――昨春、東京五輪のギリシャでの聖火リレーの第2走者を務めました。

ギリシャのオリンピア遺跡で行われた東京五輪の聖火リレーで、第1走者から聖火を引き継ぐ野口みずきさん(左)=共同

「オリンピア遺跡での採火式の後、(近代五輪の父と呼ばれる)クーベルタン男爵の記念碑の近くでギリシャの第1走者からトーチを引き継いだとき、熱く胸にこみ上げてくるものがありました。すでにコロナの影響で大会が開催されるのかどうか不透明になっていましたから、コロナが早く収束し、皆がいつも通りのパフォーマンスができる環境になってほしいと願いながら、トーチをつなぎました」

――ギリシャを訪れ、04年アテネ五輪を思い出しましたか。

「もちろん当時のことがよみがえりました。レース当日の朝、(マラソン競技の由来とされる『マラトンの戦い』の戦死者を祭る)マラトンの塚に行って、戦士たちに(勝利に向けた)お願いをしたのですが、走り終わった後、ちょっとバタバタしていて、再び塚を訪ねてお礼のあいさつをすることができなかったのです。16年がたって、戦士たちに『ありがとう』と伝えることができました」

――コロナ下での東京五輪開催には慎重な意見もありますが、どう考えますか。

「賛否の両論があってよいでしょう。できることならば、今まで通りに行われて、応援してもらえる形がよいけれど、状況次第でしょう。ただ、五輪を経験した者として言わせてもらえば、やはり大会は格別なエネルギーやパワーを持っていて、アスリートとしても力を出せる場所です。今後、ワクチンが少しずつ普及して、夏までに収束に向かい、応援してくれる人の力もひとつになれる大会であってほしいですね」

野口みずき(のぐち・みずき)
1978年三重県生まれ。三重・宇治山田商高から実業団入りし、マラソンは初挑戦の2002年名古屋国際で優勝、04年アテネ五輪金。16年引退。現在は岩谷産業陸上競技部アドバイザーを務める。

(聞き手は山根昭)

◇   ◇   ◇

パラリンアートミュージアム2020、オンラインで開催

障害者の支援活動に取り組む一般社団法人、障がい者自立推進機構はスポーツをテーマにした障害者アート作品のコンテスト「SOMPOパラリンアートカップ2020」の受賞作を発表した。778点の応募作品の中からグランプリ(最優秀賞)に選ばれたのは、大阪府の久野浩太郎さんの「優勝」。満員のスタジアムの熱気を伝える迫力ある作風が評価された。

長野県のYou-kiさんの「陸上競技場」なども入賞した。今回の受賞作はオンラインで開催している「パラリンアートミュージアム2020」(https://www.asahi.com/sports/events/pacup/2020.html)で鑑賞できる。SOMPOパラリンアートカップは朝日新聞社と日本経済新聞社がメディアパートナーを務めている。

Tokyo Olympic and Paralympic 特設サイトはこちら

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