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大谷、後半戦の打席分析から浮かぶ50号への道筋

スポーツライター 丹羽政善

猛烈な夏の暑さがようやく和らぎ始めた昨年9月上旬、かつて近鉄でプレー(1988〜1995)し、1989年には49本塁打で本塁打王となり、同年の最優秀選手にも選ばれたラルフ・ブライアントに会うため、彼の自宅があるアトランタへ向かった。

節目で本塁打を放った際の記念バットなどを見せてもらい、まつわるエピソードをうかがうことが目的だったが、後半に入って本塁打が止まった大谷翔平(エンゼルス)の話にもなると、ブライアントは「気になること」として、攻めの傾向の変化と、それに大谷が対応しきれていないことを指摘した。

「(前半に比べて)相手が勝負を避けているのは明らか。しかし、大谷はボール球にも手を出し、自分で打撃を難しくしてしまっている」

彼には、同じ経験があった。中日を経て近鉄に移籍したブライアントは1988年、6月29日のデビューながら、74試合で34本塁打を放った。すると、シーズン後半はマークが厳しくなり、翌年になると、相手がなかなか勝負してこなくなった。

「イライラしなかったのかって? 当然したよ」

ブライアントは、ムキになってボール球を追いかけた。それで相手にはますます「ストライクを投げる必要のない」存在となってしまった。1989年は187三振。1990年は198三振。1993年の204三振は、当時に比べて試合数が増えた今でも、日本歴代ワーストだ。

ただ、その理由をブライアントは昔の記憶をたどり、「四球を選ぶなと言われた」と苦笑している。「『歩くためにお金を払っているわけではない。ホームランのためにお金を払っているんだ。三振しても構わないから、思い切りいけ!』ってね」

最初は戸惑った。「メジャーなら歩くことは、悪いことではないから」。ただ、すぐに切り替え、「あれで、自分の日本での役割を明確に理解したし、ボールくさい球に手を出せば三振が増えることは分かっていたけど、助っ人が生き残るには、仕方がなかった」と振り返っている。

求められているのは本塁打。ファンも自分のホームランを見に来るため、球場に足を運んでいる。勝敗を超えたところに価値観があったが、"メジャーでは"と意固地にならず、柔軟に受け入れたからこそ、1989年10月12日、西武とのダブルヘッダーで4打席連続本塁打を放つなど、今も語り継がれる伝説が生まれたのかもしれない。

さて、そうしてブライアントの目にはもどかしく映った後半の大谷だが、実際のところ、大谷の四球は増えた。

前半は11.1%だったが、後半は19.6%と倍近い。だが、三振も28.6%から30.7%へと増えた。シーズン通算では29.6%。これは規定打席に達した選手の中ではワースト9位。修正が必要だとしたら、むしろ三振の数だが、後半に入ってそのことを指摘された大谷は、「 甘い球を待っていると、今の状況では、特に浅いカウントとかはボールでもいいぐらいの感じでカウントを取りに来る場面が多いので、無理にそこに手を出す必要はない」と説明した上で、こう言葉を継いだ。

「そうすると、2ストライク後の打席が多くなるので、結果として三振も多少増える」

強引に、というより、際どい球を見極めようと慎重になった結果、追い込まれるケースが増えた。2ストライクと追い込まれれば、ボールくさい球にも手を出す必要があり、それが三振増につながっていった。

ならば追い込まれる前の過程で、もっと積極的になるべきなのか。それは今季の課題の一つとなる可能性があるが、「それほど神経質になる必要はない」とエンゼルスのジョー・マドン監督は話している。

「(マイク・)トラウトが戻ってきて大谷の後ろを打つようになれば、相手は、大谷と勝負せざるをえない」

歩かせてもいい、という攻めが成立しなくなるので、大丈夫ではないか――というわけだ。もちろん、大谷があれだけの結果を残したことで、大谷と勝負か、トラウトと勝負か、という選択も生まれ、相変わらず大谷が勝負を避けられるパターンもありそうだが、去年ほどではない、と楽観的だった。

実際のところ、相手の攻めは昨季前半と後半では、どの程度異なったのか。

相手の配球をコースで比較すると(赤が濃いほど比率が高い)、球宴後は外角が徹底され、ストライクかボールかという際どいコースの球が多くなっていた(図1、図2参照)。数字的には20%近くが外角の黒い丸で囲んだ部分(筆者が加筆)に集中している。

以下、そのコースに限定して話をすすめるが、そのコースを打った場合にどんな差が出たのか確認すると、前半は広角に長打を打ち分けているものの(図3参照)、後半は長打が右翼への本塁打1本(図4参照)のみだった。

※ 図1〜4の出典はすべて「baseballsavant」

外野へ飛んでも、フェンス前で打球が失速しており、上がりすぎたか、詰まったか。同コースのバレル※の打球数も調べると、前半は7本だったのに対し、後半はわずか2本だった(下表参照)。

※ バレルとは、打者の評価において重要な指標で、打球初速と打球角度の組み合わせ。バレルに必要な打球初速は最低98㍄(157.7㌔)で、その場合の打球角度が26度から30度であれば、バレルゾーンに入ったと規定する。打球初速が1㍄上がることに打球角度は広がり、99㍄の場合、打球角度は25度から31度、100㍄なら24度から33度でバレルゾーンに入る。昨年、バレルの打球の打率は.772、長打率は2.591。大谷の場合、前半に限定すると、バレルの打率は.857だった。

決して苦手なコースではないはずだが、何がどう違いをもたらしたのか。前半と後半では、そのコースに投じられた球種の比率が異なる可能性もあったが、右投手、左投手、それぞれ調べても、特に違いを見つけられなかった。ということは、相手が変わったというより、大谷が変わったということか。

苦手ではないからこそ、多少のボール球でも強引に打ちにいったのか。あるいは、肩や腰の開きが早いといったわずかなメカニックのずれが、影響したか。要因は一つではないはずだが、このコースの球を前半のようにセンターから左方向へ強い打球を打てなくなった原因をつきつめていくと、そこに今季50号への道筋がうっすらと浮かび上がり、その先に頂が見えるようでもある。

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