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なでしこ、メダルの期待大 世界一経験の「妹」ら成長

東京五輪に向けた強化合宿で調整するなでしこジャパンの選手たち(6月21日)=共同

東京オリンピックの開幕(7月23日)が近づいている。サッカーは開会式に先立って女子は21日、男子は22日に競技をスタートする。男子は16チーム、女子は12チームが金メダルを目指して戦うが、私は今回女子の「なでしこジャパン」にメダルの可能性がかなりあると期待している。

先般の欧州選手権でイングランドの復活が話題になった。惜しくも決勝戦でイタリアにPK戦で敗れ涙にくれたが、3年前のワールドカップ(W杯)ロシア大会の4位に続く好成績は「古豪復活」を印象づけるのに十分だった。

イングランドの復活は「アカデミー」と呼ばれる育成組織の改革に、イングランド・サッカー協会(FA)と各クラブが団結して取り組んだことが大きくあずかっている。その際、選手育成に優れたスペインやドイツなどライバルの実情を学びの対象とした。

2021年1月、日本サッカー協会(JFA)主催のフットボールカンファレンスで、オンラインによるインタビュー映像が紹介されたイングランド代表のガレス・サウスゲート監督も「コーチの手腕で選手がどこまでいけるかは決まる。島国として座して動かずというか、進んで他の国々から学ぼうとするアプローチが乏しかったことが、我々の長い間の足かせになっていた」と語っていた。

改革の成果は確実に表れ、17年にU-17(17歳以下)とU-20のW杯に立て続けに優勝。その中からドミニク・カルバート・ルーウィン(エバートン)、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティー)、ジェイドン・サンチョ(ドルトムント)のように今回の欧州選手権のメンバーに入る選手も出てきた。

残念ながらサンチョはイタリアとのPK戦で4人目のキッカーとして失敗する憂き目を見たが、まだ21歳。この悔しさをバネにマンチェスター・ユナイテッドで迎える新シーズン、さらなる高みを目指していくことだろう。

イングランドは欧州選手権の決勝でイタリアに敗れたものの、古豪復活を印象づけた=AP

なでしこジャパンの話でイングランドの復活に触れたのは理由がある。アンダーエージの好成績をA代表の競争の活性化につなげる流れが、なでしこと似ているからだ。なでしこの〝妹〟たちもU-17W杯は14年優勝、16年準優勝、U-20W杯は16年3位、18年優勝と素晴らしい成果を上げている。すべて11年のなでしこのW杯ドイツ大会優勝の後のことだから、〝長女〟の快挙が〝次女〟や〝三女〟を大きく刺激したのは確かだろう。

ちなみに、女子でW杯と名のつくタイトルをすべて持つ国は世界中を探しても日本だけだ。この功績、本当はもっとたたえられてしかるべきだと思う。

残念ながら前回のリオデジャネイロ五輪出場は逃した。栄光のなでしこイレブンに新旧交代期が訪れたことが原因だった。今回のメンバーで11年W杯優勝、12年ロンドン五輪2位の栄光を知るのは主将の熊谷紗希(30、バイエルン・ミュンヘン)と岩渕真奈(28、アーセナル)だけになった。

一方、7年前にU-17で世界一になった経験のある選手として宮川麻都(23、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、長谷川唯(24、ACミラン)、杉田妃和(24、INAC神戸)、南萌華(22、三菱重工浦和)がいる。3年前にU-20で世界王者になったのは宮川、南のほか、北村菜々美(21、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、宝田沙織(21、ワシントン・スピリット)、遠藤純(21、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、林穂之香(23、AIK)とそろった。

(右から)宮川、南らアンダーエージのW杯で活躍したタレントたちが世界と十分に戦えるレベルに成長してきた=共同

アンダーエージのW杯で活躍したタレントたちが、ここにきて十分に世界と戦えるレベルに成長してきたのは頼もしい。彼女たちの強豪に競り勝って頂点に立った経験は貴重で、グループリーグからノックアウトステージ(8強)に突入する同じ形式の五輪でも必ず生きてくるだろう。

JFAは30年までに普及面はサッカーファミリーを800万人に、強化面は男子がW杯でベスト4になることを目標に掲げている。普及面でファミリーを増やすには、もっと女子に注力しなければならないと、個人的には思っている。

例えば、中学校に男子のサッカー部は当たり前にあるけれど、女子のサッカー部はまずない。これが野球なら野球部はなくてもソフトボール部があり、バレーボールやバスケットボールも女子は部活動を普通にできる。

ところがサッカーは、体格と体力に差が出てくる中学生以降は男女が一緒にプレーするのは難しいのに、校内に受け皿がない。それで泣く泣く別の競技に転向したり、遠く離れた民間のクラブに通うしかない状況に追い込まれたりする。れっきとした五輪競技なのに、なぜ同じ校内でこんな扱いを受けなければならないのか。男女共同参画という時代の理念からも大きく逸脱すると感じるのは私だけだろうか。

日本サッカーは記録面では完全に女子が男子をリードしている。3つのカテゴリーのW杯王者にして五輪のメダルは銀(男子は1968年メキシコ五輪の銅が最高)、国民栄誉賞まで授与された。それでもまだ中学、高校で普通に部活動ができない状況は続いている。

また、女子サッカーは9月から日本初のプロリーグ「Yogibo WEリーグ」を始める。今回の選手たちはオリンピックのメダルをそこにつなげる意欲に燃えている。逆境に立つほど、背負うものが大きいほど、奮い立つのが「なでしこ魂」だから、今回もやってくれるのではないかと私の期待もつい膨らんでしまうのである。

なでしこの選手たちは東京五輪でメダルを取り、9月に始まる「Yogibo WEリーグ」につなげたいとの意欲に燃えている=WEリーグ提供・共同

さて、大量のオリンピック関連のニュースに埋もれてしまったが、地味だけれど小さくない変更が先だってニュースになった。7月のJFA理事会で、2024年以降のインターハイ(全国高校総体)の男子サッカーを福島県内で毎年開催することを決めたのである。猛暑の連戦が選手に与えるダメージを危惧してのことだ。

サッカー界は夏場の試合を減らす作業をかなり前から着実に進めている。東京・よみうりランドなどで夏休みに開催されていた小学生の全日本選手権も、15年から冬休みの鹿児島に時期も場所も移した。U-15の日本クラブユース選手権は11年から毎回北海道の帯広で開催されている。どちらも時期や場所を変えたことで、選手の負担が軽減し、パフォーマンスの質は著しく向上した。

私が「夏場にこんなことをさせてはいけない」と危機感を持ったのは、19年の沖縄のインターハイだった。食べたものを試合中にもどした選手が、水を飲んで、またピッチに戻る光景を目の当たりにした。予測不能の気候変動に襲われる時代、日本の夏の暑さも殺人的なレベルに達する日が増えた。大変な事故が起きてからでは遅いなと。

ただ、いくら夏場の試合は危険だと訴えても、ずっとやってきたことを変えるとなると反対意見は出てくる。一時は北海道や東北など比較的涼しい場所をローテーションしながら開催する道を探ったが、なかなか意見がまとまらない。それでも林義規・JFA副会長と全国高体連サッカー専門部が中心になって粘り強く議論を重ね、「少年たちの成長にとって何が一番大事か」を議論の中心に据えて、22年度の徳島県、23年度の北海道の後はJヴィレッジを主会場に福島で継続して行うことになった。

インターハイの固定開催が福島の復興に何らかの形で寄与することを期待している面もある。大会に出場する選手やその親御さん、サッカー関係者が福島に集うことでもたらされる経済効果など、プロスポーツやオリンピックに比べたら微々たるものかもしれない。それでも息の長いスパンでやり続けることで、インターハイが福島に根づき、Jヴィレッジを拠点にした〝夏祭り〟の一つになれば、もたらされる潤いのようなものがあるのではないだろうか。

そんな楽しい祭りの思い出と同時に、日本の未来を担う高校生たちに、東日本大震災と原発事故について学びの機会を与えられたら、あの未曽有の出来事の記憶を風化させないことにもつなげられるのではないだろうか。

(サッカー解説者)

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