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走るだけが能じゃない 年齢に見合う練習を(鏑木毅)

近所で毎日、同じ時間に同じコース、そして同じペースで走る初老のランナーに出会う。さまざまな大会の参加Tシャツを着ていらっしゃるので、おそらくあちこちのレースに出場経験ありと拝察する。

記録向上だけが走る目的ではないから、あまり口出しするのは控えた方がいいかもしれない。ただレベルアップをめざすなら年をとっても工夫の余地があることも知ってもらいたい。

10月中旬、3年ぶりの海外レースとなった「ソウル100K」に出場した。実は8月に新型コロナウイルスに感染し、療養期間などもあり、当初思い描いていた富士山や日本アルプスでの練習ができなかった。

月間走行距離は通常の5分の1の100キロメートルにも届かず、レース前はもはや不安を通り越して諦めの心境だった。それでも、まずまず走れた。

通常はレースの2カ月前に最も練習の質・量を上げる。ここで納得のいく練習ができなければ、レース本番での好結果は難しいといわれる。にもかかわらず走れたのは理由があったと感じている。

ひとつには体調不良で長時間走るトレーニングを諦め、坂や階段を使った短時間で強度の高いトレーニングに終始したことだった。追い込む練習のため、確かにメンタルはつらいものの、短時間で終わるので体への負担は少なかった。

50歳を過ぎるとスタミナ不足というよりも、速筋の急激な衰えのためにランニングスピードが低下、パフォーマンスに大きく響いてくる。この速筋を維持するのに短時間で高い負荷をかける練習は意味があり、走力維持の生命線といっていいかもしれない。

もうひとつの理由は、体幹を中心とした補強トレーニングを集中的に行ったこと。ランニングは左右方向への体のブレを減らし、全てのエネルギーを前進方向に伝えると無駄なく走力を上げることができる。そのかなめとなるのが体幹だ。

40代の終盤、連日走り込んでも走力の低下に悩まされた。そこで専門家に基礎体力を計測してもらったところ、体幹の能力が60歳の運動習慣のない男性レベルにも劣っていることがわかった。これを改善して走力を取り戻した経験を今回生かすことができた。

我々日本人は真面目で律義な国民性からか、毎回同じコース、同じ距離、同じペースで走る傾向がある。また一律に月間走行距離という指標で、トレーニングのできばえを測りがちだ。だが50代以上となると、量をこなすだけでは走力を落とすだけでなく、関節や靭帯を痛めてしまうリスクも増大する。レベルアップはもちろん、現状を維持するのにも逆効果となりかねない。

今回、自分がそれなりに走れたのは良い意味での開き直りがあり、精神的な気負いがなかったという要素も大きい。それでも、練習方法には自分の年齢に見合ったものがあるのだと実感する。

その答えを見いだすのも上達の秘訣であり楽しみ。歳を経るほど「ゆっくり長く」でよいけれど、それでは右肩下がりの基調は変わらない。そうした認識が頭の片隅にあるだけで、変化にも前向きに対応できる気がする。 

(プロトレイルランナー)

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今日も走ろう(鏑木毅)

プロトレイルランナーの鏑木毅さんのコラムです。ランニングやスポーツを楽しむポイントを経験を交えながら綴っています。

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