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コロナで苦闘続く力士 制約ある稽古も工夫次第

合同稽古では御嶽海(左)を圧倒した鶴竜だが、5場所連続の休場が決まった=共同

大阪から両国国技館に会場を変更した大相撲春場所が14日、初日を迎える。初めて完全無観客で開催した2020年の春場所から1年。新型コロナウイルス感染の収束は見えず、力士たちは日々の稽古にも制約を受けながら苦闘している。特に出稽古ができない状況は本場所に向けて大きなマイナスだが、置かれた環境の中で知恵を絞って鍛えていくほかない。

場所直前の11日、横綱鶴竜の5場所連続の休場が決まった。部屋で霧馬山と稽古している際に太ももを肉離れしたという。こうした稽古中の故障はちょっとしたきっかけで起きてしまうもので不運というしかないが、ここまでの流れを考えるとこれも新型コロナのあおりを受けているのかもしれない。

ベテランになるほど場所前の調整というのは難しい。ただでさえ鶴竜は連続休場の原因となった腰痛を抱えている。安静にするだけでは体が弱ってしまうので、休んでいる間にどれだけ鍛えられたかで体の状態は変わってくる。それが今は病院の治療やジムでのリハビリに通うのもままならない。1、2場所程度なら問題なくても、この状況が1年も続いてしまうと影響は大きい。

本来なら鶴竜も他の部屋へ出稽古に行っている時期だったが、感染拡大を防ぐために部屋の行き来が禁止されている。その代わりに昨年11月場所の前から組まれているのが相撲教習所での合同稽古だ。6日間だけとはいえ、様々な相手と手合わせできる機会は貴重で、多くの力士の要望を受けて設定されたものだ。

阿武咲(左)は合同稽古に皆勤した数少ない力士の一人。白鵬にも胸を借りた=共同

ただ、その割に参加した関取は連日10人程度で、6日間皆勤したのも阿武咲ら数人だけ。その程度の熱意しかないなら、感染対策などを考慮して準備する親方衆もわざわざリスクを負ってまでやろうという意欲がそがれてしまうだろう。

しかも今回、鶴竜と2日連続で10番以上取った御嶽海が全敗したという。もし御嶽海が全力で挑んで歯が立たなかったというなら、復帰を目指していた鶴竜の強さが証明されたことになるが、そうではないだろう。私はその場に立ち会っていないが、見ていなくてもおかしいとわかる。三役の常連としてずっと上位にいる力士が、いくら横綱とはいえ休場続きで故障を抱えた相手に一度も勝てないのはあり得ない。

横綱との稽古なら必死になってぶつかって胸を借りるのが普通で、手を抜くなどということ自体が失礼だ。稽古で力をぶつけ合うからこそ自分の状態や調子もつかめるし、力もつけることができる。最近の関取衆は稽古場で思い切った稽古をしないが、今の両横綱は若い頃からしっかり稽古してきたからこそ30代半ばを迎えても一定の力を維持できている。だから鶴竜も合同稽古ではもどかしく、物足りない思いをしただろう。これでは自分の調整具合を確かめることもできない。

中には「体がまだ出来上がっていない」という理由で参加を見送る力士もいるという。これもおかしな話だ。初場所後の休みが明けてから再始動するのに十分な期間があり、そもそも番付発表前の時期は目いっぱい稽古して体を追い込むべきタイミング。打撲など多少のけがをしても本場所には間に合うし、がんがん鍛えて体を強くしてスタミナもつけていかなければ。私も現役時代、そうすることで徐々に番付が上がったものだ。

そこで力をつけた上で、番付発表後には自分の相撲の形を確認しながら攻めていく稽古を場所直前まで続け、少し体を休めて初日を迎える。こうした流れが望ましいはずだが、そんな考え方を持った関取が今は少ないのが残念だ。

部屋での筋力トレーニングなど、コロナ禍での稽古方法を模索するしかない=日本相撲協会提供・共同

以前なら初日の2、3日前まで出稽古で鍛錬する力士も多かった。コロナ禍ではそれはできないので、部屋に関取が1人しかいないようなケースでは場所前の調整が本当に難しく、関取が豊富な部屋と比べてハンディがあるのは否めない。とはいえ、それなら四股などの基礎を以前の3倍やって足腰を鍛えたり、ぶつかり稽古を2度、3度と回数を増やしてみたりと、工夫の余地はあるはずだ。

私の部屋の場合、番付に差がある力士同士が相撲を取る際には、下の力士にあえて立ち合いの変化や引き技をやらせる試みもしている。通常の稽古では絶対にさせないことだが、普通に正面から当たると上位の力士にとっては物足りないので、いろんな動きに対応できるように取り入れた。実際に本場所になれば相手はそういう手も使ってくるので、思わぬ展開になっても体が反応できるよう慣れさせる意味がある。

出稽古ができなくても何とでもなる、とまではいえなくても、どんな状況でも工夫してやれることはあるということだ。コロナ禍がいつまで続くのか見通しは立たないが、常に考えて行動していけばいい方法は見つかる。幸い、我々には稽古場があり土俵がある。そこで新たなやり方を模索しながら乗り越えていくしかない。

(元大関魁皇)

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