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五輪惨敗のラグビー7人制 強化へ先進的な挑戦必要に

ラグビー7人制の男女日本代表は東京五輪で惨敗といえる結果に終わった。参加12チーム中、男子は11位、女子は最下位。両チームとも長期にわたって強化を進めてきたが、目指すメダルは遠かった。2024年パリ五輪に向けた巻き返しも容易ではない。何が足りなかったのか。

日本ラグビー協会は11日に東京五輪の総括記者会見を開催。男女のヘッドコーチ(HC)は同日付で退任し、7人制の強化を担当する本城和彦ディレクターも8月限りで職を離れることが発表された。

「男女を共通して正直なところをいうと、五輪の1年延期は厳しい結果につながった」。本城ディレクターは敗因として真っ先に新型コロナウイルス禍の影響を挙げた。「ただでさえ国際経験が乏しい我々にとって、本番でベストなパフォーマンスを発揮するコンディショニングをすることは難しかった」。男女とも、世界での序列は十数番目。追いかける側にとって実戦がなくなった影響は大きかったと振り返った。

条件は皆同じという意見は正しくない。コロナ禍でも競技、国によって国際試合の実施数は大きく異なった。各団体球技の五輪日本代表をみると、バレーボールの男女は20年春から五輪開幕までに約20試合戦っている。バスケットボール男子も11試合、サッカー男子も6試合を行った。一方、ラグビー男女の海外勢との実戦機会はいずれも2度だけ。バスケット3人制の男女と並び、最少レベルだった。

ブランクも足かせとなった。ほとんどの競技は7月に最後の国際試合を行ったが、ラグビー男女は4月上旬以降、海外勢と戦わないまま本番に臨んだ。

もちろん、穴を埋めるための手は打っていた。男子の場合、選考から漏れた選手や日本にいる海外出身選手らを集めて練習試合を繰り返した。一定の効果はあったと松井千士主将(キヤノン)は話す。「外国人選手が(練習試合の)相手になってくれたのでフィジカル面ではありがたかった。(フィジーとの)初戦の後は『練習試合の方がコンタクトプレーが強かった』とみんなで言い合ったくらい」

しかし、予行演習が難しかったプレーがある。カギになるとみていたキックオフだ。1試合で多ければ10回近く発生し、勝敗に直結する。練習試合の相手は混成チームだからキックオフの技術は高くない。日本代表はボールを捕れた。だが、本番になると相手の正確なキックや空中戦での体の使い方で後手に回り、獲得率は上がらなかった。

パンデミックという未曽有の事態。どれだけリスクを取って試合を行うか、判断が難しかったのは事実である。仮に濃厚接触などで2週間の自主待機となった場合、コンディションが戻るまでに約1カ月かかるといわれる。足踏みを避けるための感染予防ではラグビーは最高レベルだった。最後まで男女含めて一人の陽性者も出さなかった。

しかし、結果的には石橋をたたきすぎたのだろう。男子は帰国時の自主待機さえ我慢すれば、6月に米国の大会に出る選択肢があった。他競技のように7月に来日したチームと戦うこともできた。岩渕健輔前HCも反省の弁を述べる。「実力を考えると、保守的な強化ではなかなか結果が出せない状況であるのははっきりしていた。HCとして思い切った強化戦略を出せなかった責任を感じている」

日本と対照的だったのが、銅メダルを獲得したアルゼンチンの男子である。19~20年シーズンの国際大会では総合9位だったが、コロナ禍でも可能な国際大会には全部出るほどの積極策が実り、序列を覆す躍進を見せた。

もちろん日本の敗因はコロナだけではない。成績に加えて、目指すスタイルをプレーで表現できなかった点も残念だった。史上初の銀メダルを取ったバスケット女子は身長の不利を運動量で補ったうえ、3点シュートという武器を磨いていた。メダルを逃していたとしても、その戦いぶりは称賛されただろう。

ラグビー男子は、理想とする「ハチのようなラグビー」がなかなか見せられなかった。要因は複数ありそうだが、キックオフ対策として長身選手を3人並べる布陣が「ハチ」に必要なスピードや運動量を低下させた面はある。

1次リーグの2戦目が象徴的だった。英国はボールを持つと大きなパスで外に展開、日本の選手同士の距離が空いたところで縦に切り込んできた。スピードを生かして防御ラインの裏に出る形でトライを量産している。「あそこまで一人ひとりで仕掛けてくるとは考えていなかった」と松井が言うように、相手は弱点を的確に突いてきた。日本もキックオフでボールが捕れれば、守る時間を短くして粗が目立たぬようにできたはずだが、この試合では布陣のデメリットの方が目立った。

準々決勝進出が難しくなる、0-34の大敗。終盤には、突進した味方を隣の選手がサポートせず見殺しにした結果、ボールを奪われてトライを献上したシーンもあった。

「何で仲間を助けないんだ!」。試合後、副島亀里ララボウラティアナラ(コカ・コーラ)が涙ながらにチームメートに語りかけた。普段は「いじられキャラ」という最年長38歳の心の叫び。松井も「最終戦で勝ってグループ3位になれば、得失点差で上にいける可能性がある」と仲間に奮起を促した。しかし、翌日のカナダ戦では「気持ちの部分が見られなかった」と松井。12-36で敗れ、敗退が決まった。

「みんな日本のラグビーのためにという気持ちはあった。キャプテンとしてまとめきれなかった自分の責任」。松井は自らを責めつつ、こうも語る。「国際大会がなかったこともあって、次に取り返せばいいというメンタリティーをつくるのが下手だったのかな」。実戦不足は心理面にも影響していた。

直近の2年間は、岩渕HCが協会の専務理事を兼務する形になった。岩渕氏は練習の仕切り役をコーチに委ね、自らを半ば総監督のような立場に置くなどの対策はとっていた。「兼務の影響はなかった」と本城ディレクター。松井主将も「岩渕さんは僕たちに対して全力でやってくれて、何一つ不自由はなかった。僕らは慕っていたし、感謝していた」と強調する。しかし、HCが練習に参加できない日もあったことを考えると、専任の方が理想のラグビーに近づけていたことは確かだろう。

女子も選手の力を引き出せたとはいえない。協会のHC交代の判断が遅れ、後任のハレ・マキリ氏の就任が本番7カ月前になったことが痛かった。マキリHCの選手選考も、中村知春(ナナイロプリズム福岡)らのベテラン勢を、戦術遂行力が低いとしてメンバーから外したことが論議を呼んだ。ここ数年の体づくりが非効率だったとの批判があるほか、五輪直前に男子チームと多く試合をしてけが人が続出するなどHCの体調管理にも疑問が残る。

こうした問題の一方で、「今の女子の地力では、1次リーグを突破することはどうやっても難しかった」という声が協会内には多い。体格や走るスピードなど、基本的な身体能力でライバルに大きく劣ったからだ。しかも、その差は以前より開いている。

根本の課題は選手層にある。女子ラグビーの競技人口は今年3月時点で約5000人。女子バスケットは今年で約21万人、コロナ前の20年3月には約25万人もいた。銀メダルという大輪の花は、豊かな土壌の上に咲いたものだった。

どうやってラグビーの裾野を広げるのか。これは女子に限った悩みではない。男子も含めた競技人口は今年3月時点で約9万2000人。04年度の12万5000人から大きく減った。19年ワールドカップ日本大会によるブームは起きたが、コロナ禍が影響して競技者増につながらなかった。近年は安全性への懸念から、ラグビーをやらせたがらない親も多い。男女とも改めて普及に本腰を入れる必要がある。

若手の才能発掘でも他の団体球技に後れを取っている。国内の複数の競技団体は様々な手法で中学生らの将来の身長を推測し、「ビッグマン」の候補をエリート教育している。ラグビーにもこうした仕組みを取り入れるべきではないか。

選手の確保という面では、男子にも特有の問題がある。近年は15人制日本代表の認知度が大幅に上がったことや、7人制が競技として専門化したこともあり、なかなか有力選手を招集できない状況が続いている。

前回のリオデジャネイロ五輪以降、協会が選手の給与を負担して7人制に専念させる制度ができたことは収穫だったが、今回も代表メンバーが固まったのは開幕まであと2年になってから。呼べる選手もかなり制限されている。「選手は頑張ってくれているが、7人制にきてくれるのは所属チームで主力になれない選手がほとんど」という声は協会内に多い。

松井主将も15人制の代表入りを目指し、7人制を離れる。「若手の選手数人が7人制をやりたいと僕に連絡してきてくれた」と語るように明るい話題もあるが、自国開催の五輪という大義がなくなったことで新チームも選手集めに苦労しそうだ。

本城ディレクターは打開策として、国際大会の誘致や国内大会の創設など7人制のPR策を挙げる。能力が劣るとしても次の五輪までの4年間、7人制に専念してくれる選手だけで固める案も語った上で「リスクも伴うが議論する必要がある」と話した。ただ、「特効薬はない」のが実情だ。

「東京五輪は終わったが、協会として7人制の強化はむしろ加速していく」と岩渕専務理事は強調する。「男女ともどこの国もやっていないような先進的な取り組みが必要になる」とも話した。現場、それを支えるマネジメント、普及や育成……。自国での惨敗を、様々なレベルで先進的な挑戦を始めるきっかけにしてほしい。

(谷口誠)

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