/

投手大谷の伸びしろ 今季初先発から見えたもの

スポーツライター 丹羽政善

4日のホワイトソックス戦で今季初先発した大谷=USA TODAY

3月半ばのことである。大谷翔平(エンゼルス)のオープン戦登板翌日、今度はダルビッシュ有(パドレス)の先発を取材したが、連続して2人を見たことで、その差を実感。必死にアウトを重ねる大谷とは対照的に、ダルビッシュのピッチングは無駄がそぎ落とされていた。

当然ではある。投手としての経験もさることながら、大谷はまだ、故障からようやく復帰し、実戦経験を重ねている段階。片やダルビッシュは、ここにきて円熟味が増しており、投手としては完成の域にある。

その後も、まるで、暴れ馬を力で押さえつけるがごとくのピッチングが続いた大谷。今季初先発となった4月4日も、まずまずの立ち上がりではあったが、例えば四回は三振、四球、三振、四球、三振と綱渡り。大谷は「全体的にはすごくいい球が多かったんじゃないかなと思っている」と話したものの、打者との駆け引き、スカウティングリポートを利用した配球は、まだ先か。

ただ、その場で気づいたこと、あるいは、後でデータを確認して見えたことを整理すると、大谷の伸びしろの大きさが改めて透けた。

まず、分かりやすいのが球速。三回にレギュラーシーズンでの自己最多タイとなる101.1㍄(162.7㌔)をたたき出し、52 球投げたフォーシーム・ファストボール(以下フォーシーム)のうち、9球も100㍄以上をマーク。たった1試合でこれまで公式戦で100㍄以上を記録した回数(7球)を塗り替えてしまった。

見えたことは、単に球の速さだけではない。これだけコンスタントに100㍄以上を投げるには、2018年に移植した右肘の靱帯、それに伴って修正を加えたフォームが、ともに体になじんでいなければ無理。大谷自身、「去年より、肘のなじみ方もいい。 メカニック的なこともありますけれど、投げている感覚ではそこが一番」とキャンプ序盤に認めていたが、その言葉を証明した。

同じくキャンプ序盤、「スピンレート(回転率)とか、回転効率を上げたい」とテーマを口にした大谷。オフから、球のキレ、球質の向上を意識してきたことには以前も触れたが、果たしてどうだったのか。

4日の投球ではフォーシームの回転数はアップしたが、回転効率は下がった=USA TODAY

3月29日、大谷はドジャースタジアムで開幕前最後のマウンドに上がると、フォーシームの平均回転数が毎分2460回転をマークした。これは18年の平均値(2164回転)と比べて296回転ものアップ。そして、4日の初登板では、2448回転を記録しており、もはや安定して高い数字を残せるようになった。

もちろん、回転数が多くなっただけで球質が良くなるわけではなく、回転をいかに効率的にボールに伝えているかを示す回転効率が上がらなければ、意味はない。大谷の場合、そこに課題があるが、取り組みの成果は見られたのか。

近々、NHKの「クローズアップ現代+」で、そうしたデータに触れた番組が放送される予定だが、その取材に携わる中で大谷の回転効率を詳しく調べたところ、4日の回転効率の平均値は60%ちょうどだった。これは18年の67%よりも低く、むしろ下がった。回転数は2448回転だったが、なんと回転の40%をロスしている計算となる。

回転効率を決定づけるのは回転軸。回転軸が進行方向に対して90度の角度ならば、100%の回転効率を得られるが、回転軸がホーム方向に傾けば傾くほど、回転効率が落ちる。つまり、回転軸の改善こそが、回転効率の改善に直結するわけだが、大谷の言葉をたどると、目指す方向も見えてきた。

4日の試合後、「初戦なので、すごく力入ってるなっていう印象が自分自身ではあった」と話した。彼の場合、力むことで、踏み込むタイミング、腕を振るタイミングのバランスが崩れがち。「強度高く投げようと思うと、そういうのがずれる」と話したこともあるが、その場合、回転効率も落ちる傾向にある。

もちろん、ずっと力が入っていたわけではないので、4日の試合を見直し、展開やカウントなどを考え、比較的、力を抜いて投げているであろう球を探して回転効率を調べてみた。すると五回、アダム・イートン(ホワイトソックス)に3ボールから投げた97.4㍄のフォーシームがなんと86%という高い値を示していた。この球を18年の平均軌道と比較すると、ボール約1個分、縦の変化量が増えていた。相手が、ホップしていると錯覚するような動きだ。

おそらくこれこそ、大谷が思い描く軌道。となると、いかに脱力して投げられるか。それは間違いなく彼にとって今後のポイントではないか。大谷もそれを否定しない。「うまく力を抜きながら投げられたら、また違ってくる」

むろん、成長の余地は、それだけにとどまらない。キャンプで試していた80㍄前後のパワーカーブを決め球として使えるようになれば、投球の幅が広がる。

18年と20年は、2ストライクからカーブを投げたのはわずか6球(2.3%)。本来、4球種の投手だが、追い込むと3球種の投手となる。そのため大谷も、「カウントを整えにいくだけでなく、しっかりと最後に空振りを取る、三振を取る球としても有効になってくれれば」と取り組みの狙いを明かす。

その方向性には、データ的な裏付けもある。フライボール革命への対応として、大リーグでは緩いカーブよりも回転数の高い80㍄前後のパワーカーブが主流となっているが、その有効性は明らか。球速と回転数で分け、被打率を計算してみたが、やはりパワーカーブのほうが低かった。

大谷にとってパワーカーブが球種に加わることは、単にプラスワンではない。

同様に、これは以前も触れたが、チェンジアップも習得したいところ。キャンプ序盤はブルペンで投げていたが、実戦ではまだ。しかし現状、左打者に対しては、外角へ逃げていく球種がない。左打者にはほとんどスライダーを投げないので、チェンジアップを投げられるようになれば、効果は小さくないだろう。

さて、今季初先発から見えたことを改めてまとめれば、脱力、パワーカーブ、チェンジアップが、キーワード。その3つの言葉は今後、大谷の成長を見極めていく上で、紛れもなく重要な要素となりそうだ。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン