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日本、サッカー外交のバージョンアップを

スポーツコンサルタント 杉原海太

2021年は東京で開かれたオリンピック、パラリンピックが一番大きなスポーツイベントだった。スポーツやアスリートの輝きを感じる一方で、スポーツ団体の揺らぎを感じる1年でもあったように思う。

例えば、国際オリンピック委員会(IOC)に対する信頼。新型コロナウイルス禍でのオリパラ開催の是非をめぐるあれこれの中で、人々の間にIOCに対する不信感がかなり広まった気がするのだ。

それは長年、スポーツ界を支えてきたIF(国際競技連盟)/NF(国内競技団体)モデルにもダメージを与えるのではないかと心配になる。このモデル、スポーツの持つエンターテインメント価値や広告価値を権利ビジネスにつなげ、これまで最大限に果実を享受してきた。

五輪の場合は1984年ロサンゼルス大会からマネタイズに成功。イベントの主催者として集めたお金は、IOCであれば各IFや各国内オリンピック委員会(NOC)に、国際サッカー連盟(FIFA)であれば各MA(Member Association=FIFAに加盟する国・地域のサッカー協会)に補助金的に分配されてきた。これはマイナーなIFやNOC、MAには恵みの雨となり、分配金=組織の予算全額、みたいな感じで命綱になっていたころもある。

この資金の循環の土台には、トップアスリートの競演という競技面の魅力と同時にスポーツが持つ清新なイメージがあるだろう。オリンピックやパラリンピックなら「世界平和」であるとか「この世からあらゆる差別をなくす」とか、そういう崇高な理念である。それに共感するから人々はスタジアムやアリーナに足を運び、企業は資金を提供する。その理想と現実のギャップがあまりに過ぎると、「話が違う」という感じで冒頭でも触れたが不信感を募らせ、距離を置く人が出てくるのではないだろうか。

サッカーは別の意味で複雑だ。ワールドカップ(W杯)という世界中が注目するイベントを主催するFIFAという強固なIFは存在するが、脅かす競争相手も多く、その競争相手はコロナ禍で自分たちの利益を最大化することに躍起になっている。その争いはこの先ますます先鋭化するのではないだろうか。

FIFAの競争相手に欧州連盟(UEFA)など各大陸連盟がある。また、毎年行われる欧州チャンピオンズリーグ(CL)という優良コンテンツの主役である「クラブ」という一大勢力もある。W杯は4年に1回であるのに対し、CLは毎年あって、競技レベルも寄せ集めの代表戦より高いから、そちらに注目度もカネも流れていくのは仕方のないところである。

またFIFAの「ビジネスモデル」を俯瞰(ふかん)してみると、移籍金や給与を支払って選手と契約しているのは「クラブ」であり、代表チーム編成のために年に数回選手をいわば「借りる」ことで「ビジネスモデル」を成立させているFIFAは、「クラブ」の立場からすればフリーライダー(ただ乗りモデルを享受する人たち)と見えなくもなく、その観点でも摩擦が激化していくのは必然なのかもしれない。

その「クラブサッカー」の対抗軸にする気だろうか。ここに来てFIFAは、現在4年に1回のW杯を2年に1回に増やすプランを持ち出している。「代表戦」を中心に回してきた自分たちの生態系を、W杯の回数を増やすことで何とか維持したい。この新機軸にそんなFIFAの若干の焦りを感じるのは私だけだろうか。

W杯を2年に1回にすると、他のビッグイベント、例えば、ユーロ(欧州選手権)やコパ・アメリカ(南米選手権)、アジアカップといった、W杯のない年にやってきた各大陸連盟主催のチャンピオンシップとのバッティングが懸念される。オリンピックもそうだ。それもあってUEFAや南米連盟は反対の立場を示している。あちらにはあちらで、守るべき権益があるわけである。

一方、コロナ禍を乗り切る策としてクラブサッカーの〝ドン〟たちが画策した「欧州スーパーリーグ構想」は、「ビッグクラブの利益だけを追求するものだ」としてUEFAとFIFAは共闘してつぶしにかかった。クラブ側は一応軍門に下ったが、これとて火種はくすぶったままだろう。案件ごとに「敵の敵は味方」という構図があるわけで、まさに同床異夢という感じだろう。

そういう複雑な国際情勢の中で日本はどう対処していくべきなのか。結論としては、今よりもっと外交機能をバージョンアップさせる必要があると思う。

日本はアジアサッカー連盟(AFC)内の信任を得る形で選挙に勝ち、FIFAの理事ポストを獲得することに全力を挙げてきた、IF/NFモデルが十分に機能していた時代の外交戦略としてはそれで十分だった。しかしサッカー界の中心である欧州でクラブサッカーが勢力を増す今は、そちらとのチャネルも持つ必要を感じてしまうのである。

JリーグとJクラブはこの10年ほど、アジア戦略に熱心に取り組んできた。タイやベトナムなど東南アジアの選手を獲得してリーグとクラブの認知度を高め、それを放映権など新たなビジネスの販路拡大につなげてきた。そうやってビジネス面の開拓は進んでいるのだが、それに比して外交面はまだまだではないだろうか。

外交の分野でいうと、今、元気なのは中東勢だろう。来年カタールで開かれるW杯はもちろん、クラブサッカーでもマンチェスター・シティはアラブ首長国連邦(UAE)の、パリ・サンジェルマンはカタールの資本がコントロールしている。さらに英プレミアリーグのニューカッスルもサウジアラビアの資本がこのほど入ることになった。W杯の2年ごとの開催をFIFAに提案したのもサウジだといわれている。

中東勢はIF、クラブの両方向から攻勢をかけている。彼らは、それぞれどんなプランを持ってサッカー界にチャレンジしているのか。国のブランディングのためにスポーツを活用しようとしているのではなどとも噂されるが、大陸連盟レベルでは同じアジアというくくりにいながら、その意図を我々はつかみかねているのが実情ではないだろうか。

欧州では代表サッカーをクラブサッカーが追い越す勢いだが、代表サッカーが強いアジアはまだ大陸連盟モデルが機能している。代表とW杯人気を盛り上げ、サッカー景気をけん引するモデルのアジアで一番の優等生が日本だった。しかし、近年AFCが力を持って放映権ビジネスを仕切ることで、皮肉にもカタール大会アジア最終予選は、日本の放送局がパッケージで買うことができず、アウェー戦は地上波で見られない事態に陥った。

多くの人が見るから競技として普及し、強くなって人気が盛り上がり、めぐりめぐってお金に変わって協会の財政を強固にする。そんな日本の成功モデルが、AFCの事情という外的要因で今、揺らいでいる。この難局を乗り切るために必要なことも外交力であろう。

国際サッカーの政治・外交分野で、資金力のある中東勢のプレゼンスはこれからもっと高まるのかもしれない。AFCは最近になって「欧州とシーズンを合わせる(秋春制の)必要性」を説き始めた。W杯の2年開催もそうだけれど、この手の大きなテーマが持ち出されたとき、あたふたとリアクションして対応策を協議するようでは後手に回る。本来はテーマの議論の段階から、しっかりと会議体に入って、プロアクティブ(積極的)に座組の中から影響力を行使できるようになりたい。

サッカービジネスがグローバル化し、巨大な市場となってステークホルダー(利害関係者)が増えた今、いろんな分野とレイヤー(階層)に、もっともっと日本の関係者を送り込みたい。それが日本サッカー全体の外交力アップにつながると思うのである。

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