NBA、コロナ禍での新シーズン 難敵との闘い続く
スポーツライター 杉浦大介
NBAの2020~21シーズン開幕から2週間以上がたち、その行方に暗雲が漂い始めている。昨季、新型コロナウイルスの感染拡大で一時中断後、NBAはフロリダ州オーランドに"バブル"と呼ばれる隔離空間をつくり、そこでの再開後はウイルス感染者ゼロを達成してみせた。しかし、再び全米各地のアリーナでゲームを開催するようになった今季、リーグが定めた安全プロトコルに抵触してプレーできなくなる選手が続出しているのだ。

1月7日、ブルックリンで行われたブルックリン・ネッツ対フィラデルフィア・76ers戦の途中、この日はケガで欠場した76ersのセス・カリーが新型コロナウイルスで陽性反応を示したというニュースが届いた。第1クオーター中はベンチで座っていたカリーだったが、試合中に慌てて隔離。カリーへの感染追跡の結果として、76ersの多くの選手たちにも隔離が必要になってしまった。
76ersからは他に故障者が出たこともあって、9日のデンバー・ナゲッツ戦で選手登録されたのはリーグ規定ギリギリの8人。試合に出場したのは7人のみとあっては、76ersが103-115と完敗を喫したのはやむを得ないことだった。
「この36時間は大変だったよ。私たちはプレーすべきだとは思わない。コートに立つ選手たちの健康状態が心配だ」
76ersのドック・リバースHC(ヘッドコーチ)の言葉は悲痛だった。
スター選手の離脱が相次ぐ
カリーと76ersのメンバー以外にも、欠場を余儀なくされる選手は後を絶たない。4日にはネッツのケビン・デュラント、9日にはボストン・セルティックスのジェイソン・テイタムといったスター選手たちがそれぞれ新型コロナウイルスの陽性者ないし陽性の可能性がある人物との接触があったことで、1〜2週間の離脱と報道された。その後、テイタムは陽性が確認された。9日、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズのエース、ブラッドリー・ビールもテイタムとの濃厚接触があったということでこの日のマイアミ・ヒート戦は欠場となった。
「安全プロトコルなどもあって、今季は本当に何が起こるかはわからない」
ウィザーズのスコット・ブルックスHCはそう述べていたが、各チームのコーチ、選手たちはパンデミック中にリーグを続行する難しさを改めて実感しているのかもしれない。現在までのところ、試合が延期になったのはヒューストン・ロケッツのメンバーが規定の人数に達しなかった昨年12月23日のロケッツ対オクラホマシティー・サンダー戦だけ。ただ、前述通り、コロナ陽性者はもちろん、陽性者に接触した選手にも感染追跡が行われるため、出場が不可能になる選手はこれからも出てくるだろう。

9日のヒート 戦後、八村も「トップ選手たちがコロナにかかっていなくても試合に出れないという状況が続いている。NBAは(ウイルスを)軽く見てはいない。僕としても気を付けるしかないなと思います」と述べていた。
今後、厳しいやりくりを強いられるチームは多いはずで、延期になるゲームが頻発する可能性もある。ゲームを何とか開催できても、このペースで離脱者が出ればプレーの質、リーグ全体のクオリティーにも影響が出てくる。そんな危惧もある中で、NBAは今後どういった対策を講じていくか。
状況次第では代替プランも
「ご想像通り、私たちは代替プランを用意している。状況次第で、他のプランを模索する必要が出てくるのだろう」
12月中に行われた電話会見で、アダム・シルバー・コミッショナーはそう述べていた。そこで示唆した代替プランの中に、昨夏、ルールと検査を徹底することでウイルスの締め出しに成功した"バブル"も含まれていると考えるのが妥当だろう。選手、関係者をフルシーズンにわたって隔離空間に閉じ込めるのは現実的ではなかったとしても、プレーオフの時期には再び"バブル"が考慮されることは考えられる。それ以前に感染がさらに拡大してしまった場合、一時的にシーズンを中断しての立て直しや、MLBプレーオフで採用されたような複数の小型バブルも考慮されるのかもしれない。
ウイルスという目に見えない難敵との闘いは続く。米4大スポーツの中でも先進的なリーグと呼ばれるNBAは、この新たな苦境も乗り切れるのか。ワクチンの普及もにらみながら、今後も絶え間ない適応が鍵となっていくに違いない。