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「非甲子園組」の負けじ魂、プロ野球盛り上げる

スポーツライター 浜田昭八

オリックスの開幕投手を務めた山本。甲子園優勝投手の西武・高橋光と投げ合った=共同

「ヒコウ球児」と聞いたときは驚いた。球児たちには申し訳ないが、「非行」を連想する。取材仲間とプロ野球の開幕投手を話題に雑談していたときだ。元阪急の200勝投手、梶本隆夫は岐阜・多治見工の出身だが、高校時代は春夏の甲子園大会に出場していない。つまり、無念の「非甲子園」組だった。

そう言えば梶本から同期入団の「甲子園出場組に名前負けしたくない」と頑張った話を聞いたことがあった。1954年阪急入団の同期高卒投手は3人。梶本以外の2人は当時の強豪校のエースだった。だが、高校時代にさほど注目されていなかった梶本が、なんと高卒新人ながら同年の開幕投手に選ばれた。まさに「非甲球児」の華だった。

パ・リーグに「非甲」好投手ずらり

現役にも「非甲」の実力派高卒投手はいる。梶本時代と違って、さすがに高卒新人の開幕投手はいない。だが、梶本の後輩、オリックス・山本由伸(宮崎・都城高)は入団5年目で開幕投手に選ばれ、今やパ・リーグの代表的投手になっている。西武との開幕戦ではピカピカの甲子園組、13年夏優勝の群馬・前橋育英高のエースだった高橋光成に投げ負けた。だが、異例の中5日で登板した開幕2戦目のソフトバンク戦では被安打2、二塁を踏ませない完封勝利を挙げた。

他球団にも出世した非甲球児はいる。ソフトバンク・千賀滉大は育成選手から飛躍した投手で知られている。甲子園球児をライバル視するというより、まず支配下登録選手になろうと励んできた。2010年に愛知・蒲郡高から契約金に相当する支度金300万円、年俸270万円(金額は推定、以下同じ)で入団。着実に力をつけて最多勝など各種タイトルを獲得。11年目の今季は年俸4億円のスーパースターになった。今季初登板した6日の日本ハム戦で左足首を痛めて戦列を離れた。復帰すれば、変わらずに力を発揮するだろう。

甲子園経験のないソフトバンク・千賀は育成契約から球界を代表する投手に成長した=共同

日本ハム・上沢直之は12年に千葉・専大松戸高からドラフト6位で入団。10年目の今季、初めて開幕投手に選ばれた。昨季までのエース有原航平が大リーグ入りする巡り合わせにも恵まれた。だが、チームには斎藤佑樹(早実高━早大)、吉田輝星(金足農高)、柿木蓮(大阪桐蔭高)ら甲子園の華がキラ星のごとく存在する。野手にも中田翔(大阪桐蔭高)、清宮幸太郎(早実高)らの高契約金組がいて、上沢の「非甲魂」を刺激する要素はいっぱいだ。

ロッテ・佐々木朗はここから

球児が憧れの甲子園でプレーするチャンスは1年生の夏から2、3年生の春、夏と5度ある。この5度全部に登場したのは「KK」ことPL学園高の清原和博(西武など)、桑田真澄(巨人など)の両選手。1年生の夏の大会からずっとベンチ入りする選手が、今後どれだけいるだろうか。ホームランを連発する清原を「甲子園は清原のためにあるのか」と実況中継したアナウンサーの絶叫は有名。ここには非甲魂も食い込む余地がない感じだ。

アスリートは勝つと同時に、昇進、昇格するのを無上の喜びとしている。五輪出場を決めたときのアマ選手の涙、十両に上がり、晴れて関取になったときの力士の笑顔がそれを物語っている。高校球児は甲子園へ駒を進めるのが決まったとき、喜びがはじける。大観衆で埋まり、メディアを介して全国的な注目を浴びる緊迫感。優秀な選手はプロのスカウトの存在も意識するだろう。強豪校の壁は厚く、高校、親、OBぐるみの力を結集しないと、とても食い込める世界ではない。

その憧れの舞台に手が届きそうになりながら、自らその道を断った選手がいる。19年夏の甲子園を目指した岩手大会での大船渡高・佐々木朗希(現ロッテ)である。苦戦しながら勝ち進み、決勝戦で花巻東高と甲子園出場を争うはずだった。ところが、肝心の決勝のマウンドに佐々木は上がらず、打席にも一度も立たないままに敗れた。

まだ1軍登板のないロッテ・佐々木朗はここから実力を証明できるか=共同

佐々木は4回戦の盛岡四高戦で延長12回、準決勝の一関工高戦で完投している。連戦になる決勝戦では故障を回避すると言う国保陽平監督の配慮で、登板せず、打席にも立たない措置がとられた。このことに関して、佐々木本人は公式にはコメントしていない。ロッテ入り後、1軍での実戦登板を1年間回避したのを考え合わせると、故障の危機が迫っていたとしか思えない。

山本や千賀とは違う形で「非甲」の道を進んだ佐々木だが、甲子園球児の輝きがプロでいつまでもものをいうわけではない。それはあまたの元甲子園の星たちが実証している。岩手県大会決勝の登板回避が正解だったかどうかは、今後の佐々木の活躍にかかる。やがて日本球界の星となり、ファーストクラスで太平洋を渡る「飛行球人」になったとすると、賛否両論で渦巻いた世論はどう反応するだろうか。       

(敬称略)

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