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最後のびわ湖で好レース 天の運、42人が10分切り

びわ湖毎日マラソンでの鈴木健吾選手の2時間4分56秒の日本記録樹立は素晴らしかった。特に最終盤でのペースアップは圧巻のひとことに尽きる。これほど速いスピードで苦しい終盤を駆け抜けた日本選手は見たことがなく、底知れない力強さを感じた。

マラソンという競技で大成するランナーには2つのタイプがあるように思う。ひとつは抜きんでた才能に恵まれ、効率的な練習で結果を出す選手。もう一つは走ることが心底好きで、圧倒的な練習量で結果を出すタイプだ。後者は独特の哲学が強すぎて、ともすると失敗レースを繰り返す。鈴木選手は、もちろん高い才能を持っているけれど「趣味は走ること」だそう。合宿では練習の合間に1人でさらに走るほどだと聞く。だから後者のタイプなのだろうとみている。

私も走ることが好きで、全盛期は寸暇を惜しんで走った。そのため疲れが抜けずに結果が出ず、周囲からは練習を休むようにと言われ続けた。当初は走ることにただ楽しさを感じていたものの、より高い結果を求められるようになると休むことが恐怖に変わり、追い込まれて走っては故障や慢性疲労に陥り、走れなくなる。そこで初めて練習を休むという悪循環を何度も繰り返した。

鈴木選手の人並み外れた努力を楽しめる好循環がもたらした今回の快挙。今後は日本記録保持者としてより大きなプレッシャーが迫ってくる。体調を気遣いながら、ときには休む勇気を持ち、さらに高い境地に挑むことを期待している。

それにしても今年のびわ湖は特筆すべきレースだった。

鈴木選手の(2時間)4分台をはじめ、6分台が4人、7分台が10人、ほかのエリートマラソンで優勝タイムになってもおかしくないような2時間10分を切ったランナーがなんと42人も出た。世界のマラソンの歴史を振り返っても、これほどハイレベルなレースはなかったのではないか。

その要因は2つある。ひとつは気候条件だろう。例年吹く湖岸の風がなく、気温も低くマラソンには適温だった。

もう一つはトップ選手が集結したこと。新型コロナウイルス禍で大会数が少なくなり、かつてないハイスピードの大集団が形成され、多くの選手が余分な力を使わずに効率の良い走りができたことだ。

マラソンは当日の天候やレース展開で結果は大きく変わる。びわ湖で川内優輝選手は33歳で8年ぶりに自己ベストを更新した。以前、彼は2018年ボストンマラソンに優勝したのも「多くのレースに出場したからこそ(自分に合った条件のレースに巡り合い)ビッグチャンスをつかむことができた」と語った。今回もみごとにそれをつかんだ。ただやみくもにマラソンを走ればいいわけもなく、その都度、万全の体調でのぞみ、年間を通して高いレベルを維持できる調整力と強い意志がなければなしえなかった。

びわ湖のコースでのマラソンは今年で最後となるけれど、間違いなく日本のマラソンの流れを変える大きな1日となったように思う。コロナ禍の日本を元気づけた奇跡のレース――。長く語り継いでいきたい。

(プロトレイルランナー)

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