日本ボクシング界、海外での世界戦ラッシュに期待の一年
スポーツライター 杉浦大介

2021年は日本人ボクサーのアメリカでの活躍が目立った。3月に世界ボクシング協会(WBA)ライトフライ級スーパー王者・京口紘人(ワタナベ)、6月にWBAバンタム級スーパー王者、国際ボクシング連盟(IBF)同級王者・井上尚弥(大橋)、9月には世界ボクシング機構(WBO)フライ級王者・中谷潤人(M・T)がそれぞれ米リングでKO防衛に成功。11月には尾川堅一(帝拳)が、ニューヨークの殿堂マディソン・スクエア・ガーデン内にあるシアター(現在の正式名称はHuluシアター)でIBFスーパーフェザー級王座を奪取するという快挙を成し遂げた。
日本人選手が本場のリングに立つことは極めて難しかった時代は今は昔――。日本のトップボクサーがアメリカをはじめとするボクシングの巨大マーケットに出ていくこの流れは、2022年も続きそうな雰囲気がある。
「リング上では常に110%の力を発揮する日本人ボクサーをリスペクトしている。私の知っているボクサーたちの間でも、"日本人選手はすべてをかけて臨んでくるから、しっかり準備しておいた方がいい"と声をかけあっているんだ」

前世界ボクシング評議会(WBC)スーパーバンタム級王者、ブランドン・フィゲロア(アメリカ)がそう述べていた通り、最近は常に勇敢でトップコンディションの日本人ボクサーの評判が米国内でも高まった印象がある。アメリカのプロモーター、放送局が比較的コストが安価な軽量級に目を向けているという背景もある。日本での世界戦の地上波テレビ離れという事情も重なって、2022年も海外に出ていく日本人選手は少なくないに違いない。
井上、WBAミドル級スーパー王者・村田諒太(帝拳)、WBOスーパーフライ級王者・井岡一翔(志成)という3大スターは、とりあえず次の試合は日本開催が有力だ。昨年12月、2年1カ月ぶりの日本での試合をこなしたばかりの井上は今春、日本で王座統一戦を計画している。IBFミドル級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのメガファイトが延期になった村田、IBFスーパーフライ級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦が流れた井岡は、ともに同ファイトの再セットに向かいそう。次戦に勝って商品価値を上げれば、日本のビッグ3がより箔をつけて年内に米再上陸を果たすことも考えられる。

「フライ級ではまずIBF王者サニー・エドワーズ(イギリス)がWBC王者フリオ・セサール・マルチネス(メキシコ)と対戦し、その後に中谷潤人と統一戦をしてほしい」
昨年末、アメリカで最も権威ある専門誌リングマガジンのダグラス・フィッシャーはそんな希望を述べていた。フライ級では所属プロモーターの違いがマッチメイクに影響する割合が低いこともあって、このような楽しみなトーナメントは実現の線も十分。中谷が村田対ゴロフキン戦のアンダーカードで予定する次の防衛戦をクリアすれば、欧米での重要ファイトに向けて視界が開ける。

WBAから正規王者エステバン・ベルムデス(メキシコ)との指名戦通告が出ている京口、英米に本拠を置くマッチルームスポーツと新契約を結んだばかりの尾川も今年中にアメリカ、メキシコ、イギリスで試合をすることになるかもしれない。また、昨年9月、WBCライトフライ級王者になった矢吹正道(緑)にも欧米の某大手プロモーターが触手を伸ばしていたという話があった。
こういった選手たちが、北米、ヨーロッパでスターと呼び得るボクサーになれるかは別の話ではある。特に軽量級選手たちが知名度を得ることの難しさは、ボクシングの歴史上で証明されてきた通りだ。
それでも陸上、サッカーなどと同様、真の意味で世界中で開催されている数少ない競技であるボクシングにおいて、日本のボクサーが国内限定ではなく、様々な国のリングで戦い、勝利を勝ち得ていることに喜びを感じるファンは多いのではないか。昨年と同様かそれ以上の海外世界戦ラッシュが見込まれる2022年。世界リングで誰が評価を高めるかを楽しみにしておきたい。