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「釜石の奇跡」よ、三たび ラグビー新リーグへ参戦

震災10年 スポーツの絆③

(更新)
大漁旗で彩られたラグビーW杯開催1周年記念試合。岩手県釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムは「奇跡」の舞台となった場でもある=共同

子どもたちが大漁旗を振るい、各国の代表ジャージーをまとったファンが彩りを添える。あたかも1年前の祭典のようだった。昨年10月、岩手県釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた、ラグビーワールドカップ(W杯)の1周年記念試合である。

トップリーグで躍進中のクボタを、下部リーグの釜石シーウェイブスが迎え撃った一戦。相手の巨漢にひた向きにタックルしていたのがロックの高橋聡太郎だった。この町の高校1年生だった10年前、震災に遭った。家族は無事だったが、親を亡くしたり転校を余儀なくされたりする同級生を間近に見て「起こっていることを頭の中で整理できない日々だった」。

3カ月後のシーウェイブスの練習試合。会場を訪れた高橋聡は「ラグビーの試合が身近にあって、見に行くことができる場所が釜石。ようやく一つ日常が戻ってきた」と実感した。明大進学のためいったん上京したが、「自分のプレーで釜石が活力を取り戻す後押しをしたい」と2017年に地元チームの戦列に加わった。

高校時代の高橋聡が、地元のイベントなどで意義を訴えてきたのが、W杯の地元誘致だった。その夢がかない、会場となった復興スタジアムは「奇跡」とゆかりある舞台でもある。震災時、ここにあった小中学校は津波にのみこまれたが、児童全員は避難して無事だった。W杯ではウルグアイの団結が格上のフィジーを破る番狂わせ。ここでは「釜石の奇跡」が起きるのだと――。

新日鉄釜石ラグビー部の日本選手権7連覇から三十数年を経て、薄れつつあった「ラグビーの街」の色は、最近また濃くなりつつある。W杯では、スタジアムに向かう観客を子どもや高齢の人が道すがら手を振って見送るなど、他の街にはない形でもてなした。

クボタに立ち向かう釜石シーウェイブス。小学生からの関心が高まるなど、「ラグビーの街」釜石の熱は高まりつつある=共同

一時は存続が危ぶまれながらシーウェイブスもたくましく生き延びている。ジュニア部門に参加する小学生もこの5年で3倍に増加、4月には中学生の単独チームを設立する。市も2つの高校のラグビー部に指導者を派遣する構想を持つ。地元で腕を磨ける環境が整えば、高橋聡に続く釜石育ちの選手は増えるだろう。

シーウェイブスは来年1月に誕生する新リーグにも参戦する。現在の年間予算5億~6億円は国内強豪の15億円超と比べ少ない。太刀打ちするにはより多くのチケットを売り、スポンサーを集める必要があるが、「新リーグはそのアピールになる」と桜庭吉彦ゼネラルマネージャーは言う。「まずはチームの存在を知ってもらうために広域でイベントや地域貢献活動をしたい」。今月の復興道路開通で移動時間が1時間半ほど短くなった仙台などでのPRを考えている。

復興スタジアムはW杯時にあった仮設席がなくなり、6000人収容に減った。新しい「1部リーグ」の基準となる1万5000人規模とするには拡張や移転が必要となるが「ホームはあくまでも釜石」と桜庭氏はこだわる。「ハードルは高くても、走りながら可能性を考える。10年後には優勝を争い、日本一のラグビーの街になりたい」。人口3万2000人の町のクラブチームで、日本一をもう一度。そのとき、釜石に3度目の奇跡が舞い降りる。(谷口誠)

東日本大震災 10年

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