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スマートシティーで都市力向上 五輪機にアピール

日本経済新聞社は11月26日、情報通信技術を活用した都市の開発について考える「TOKYOスマートシティーフォーラム」を東京ポートシティ竹芝(東京・港)で開いた。東急不動産の岡田正志社長、CiP(コンテンツ・イノベーション・プログラム)協議会の中村伊知哉理事長らが講演したほか、竹芝の街づくりを推進する関係者が東京五輪のタイミングに合わせて都市の魅力をアピールする施策などについて話し合った。

オフィスタワーをスマートビルに

東急不動産社長 岡田正志氏

東京ポートシティ竹芝の開発は2013年にスタートした。都有地を70年間の定期借地で借り受け、周辺地区も含めたエリアマネジメントを実施するプロジェクトだ。15年には当時の国家戦略特区の第1号案件として都市計画決定され、今年9月、無事に開業を迎えた。

プロジェクトは総開発面積20ヘクタールの大型再開発。40階建てのオフィスタワーの9階以上はソフトバンクグループのオフィスとして利用されている。低層には商業施設が入っている。

浜松町駅から竹芝駅や竹芝ふ頭までつなぐ全長500メートルの歩行者デッキも整備した。人の往来を活発化させ、街のにぎわいを創出する。2階から6階を階段状の緑地として整備。緑に囲まれた憩いの空間として来街者に親しまれ、オフィスワーカーの働く場としても活用されている。

エリアマネジメントは約28ヘクタールの活動区域で実施する。東海汽船、東京ガスなど、ほぼ100%の地権者が竹芝地区まちづくり協議会に参画して活動している。

このプロジェクトはテクノロジーを活用した街づくりが特徴。中心となるCiP協議会は中村伊知哉・慶大教授を理事長に迎え、情報通信、メディア、エンタメなど約50の企業・団体と研究開発、人材育成、起業支援、ビジネスマッチングに取り組んでいる。エリアマネジメント活動と「デジタル×コンテンツ」のテクノロジーを活用した街づくり、この2つを融合させた竹芝ならではの街づくりを推進する。

竹芝は7月に東京都が推進する「スマート東京」の先行実施エリアに選定された。「都市OS」と呼ばれるスマートシティーの情報プラットフォーム(基盤)を構築して気象、交通、人流データなどをリアルタイムで取得し、街を訪れる人にサービスとして提供しようとしている。

第1弾として、オフィスタワーをスマートビルにするため、約1000のデバイスを設置し、エレベーターやテラスの混雑状況、最適な通勤時間を選べる情報などを提供。店舗テナントには来店客の属性情報も提供して、マーケティングや食材の仕入れ、従業員のシフト管理にも役立ててもらっている。

今後、ビルでの取り組みを街に広めていくことで、街全体をスマートシティー化していく。竹芝での取り組みを重点拠点である渋谷の再開発にもつなげていきたい。

おかだ・まさし 1958年岡山県生まれ。82年阪大工卒、東急不動産入社。14年取締役、19年副社長。20年4月から現職。

コロナ後の新常態を構築

CiP協議会理事長 中村伊知哉氏

CiP(コンテンツ・イノベーション・プログラム)は竹芝の街づくり構想で、CiP協議会はそれを担う団体だ。構想から8年を経て、東京ポートシティ竹芝が街びらきした。

当初、東急不動産、鹿島から「漫画、アニメ、ゲーム、音楽などのコンテンツ集積地」をつくるという都市開発構想について聞いたとき、東京は世界のポップカルチャーの中心地ではあるが、発信する拠点がなく、業界もバラバラだから、発信、集積の拠点が必要という問題意識あった。重要なのはテクノロジーとの融合だと考えた。

テクノロジーは人工知能(AI)、(あらゆるモノがネットにつながる)IoTといった大きな波が来るので、コンテンツも大波を受ける。だから、すでに存在するコンテンツだけでなく、テクノロジーで新しいコンテンツを生む街にしようというのが、基本コンセプト。ポップとテックを融合した国家戦略特区、つまり「ポップ・テック特区」のCiPだ。

協議会の活動について発信するため、来年の東京五輪に合わせ、竹芝で7月3~4日にイベントを開く。アニメ、ゲーム、お笑いなどにテクノロジーを導入して未来を見せていく「ちょっと先のおもしろい未来」というイベントで、略称は「チョモロー」。毎年実施して、海外のポップ・テック系イベントに負けない世界的イベントに育てたい。

第4次産業革命やソサエティー5・0の時代に機械は人より賢くなる。早くAIとロボットが仕事を奪う世の中になってもらいたい。AIやロボットに仕事を任せれば、超ヒマになるからだ。「超ヒマ社会」が到来するとき、どう創造的に生きていくのか。そのために必要なのが、CiPだ。

コロナ禍の後にどうなるのか。これまでの(大都市への)集中から、いったん分散に向かっているが、おそらく数千年かけてつくってきた都市化が逆行することはないと思う。ただし、バーチャルは高止まりするだろう。だから新しいリアルとバーチャルの掛け合わせ、つまり「新しい密」を設計しなければならない。そんなニューノーマル(新常態)をコロナ前よりも魅力的な環境としてつくる。これがCiPに課せられた宿題だ。

14世紀のペスト流行で教会と領主の権威が低下し、民衆が強くなった。そこで生まれたのがルネサンス。再生するという意味で、芸術と科学が生まれた。コロナが再生するものは何か。竹芝はコロナ後に何を生み出せるのかが問われている。ポップ・テック特区の整備、超ヒマ社会の設計、コロナ後の新常態の構築、そこからの新ルネサンス。これらを竹芝に関わる人たちと作り出していきたい。

なかむら・いちや 1961年京都府生まれ。京大卒業後、郵政省入省。98年退官しスタンフォード日本センター研究所長などを経て、2006年から慶大教授。15年CiP協議会理事長就任。

◇   ◇   ◇

竹芝、新しいことができる街

パネル討論では「竹芝から見えるスマートシティーの未来」をテーマに、東急不動産などが出資するアルベログランデの根津登志之社長、ソフトバンクの宮城匠・第三ビジネスエンジニアリング統括部長、CiP協議会参与の石戸奈々子・慶大教授、東京都の米津雅史・戦略政策情報推進本部特区推進担当部長が討論した。司会は日本経済新聞社の前野雅弥BRG解説委員が務めた。(文中敬称略)

司会 東京ポートシティ竹芝の街づくりで、何に注力していますか。

根津 竹芝は東京湾に近く、旧芝離宮恩賜庭園などもあり、恵まれた環境だ。ただ、近年は建物が老朽化し、地域のつながりも薄れていた。東急不動産などが東京都から(都市開発の)事業者に選ばれ、地元と一緒に街づくりをしようと呼びかけた。地元の東海汽船などにJR東日本も加わり、街づくりの基盤が整ったところに、ソフトバンクが来ることになった。テクノロジーを活用した街づくりを進めるためのキーコンテンツがそろった。

宮城 スマートシティーが働く人、住む人、訪れる人のために最適な情報をリアルタイムで届けられるようにしたい。オープンデータを組み合わせ、リアルタイムに活用することで、人目線で有意義な街をつくれる。まずオフィスビルにテクノロジーを実装するため、1000個以上のセンサーを設置し、従業員やテナント向けに情報を提供している。来年以降はビルを含む街区、次に街と街をつなぎ、着実に進めたい。

石戸 街づくりのプラットフォームに「学」も必要と考え、様々な教育機関が集う「超教育協会」を2年前に立ち上げた。今は竹芝を拠点に3つの活動をしている。1つ目は人材育成。大学の枠を超えたリカレント教育の「超大学」などを立ち上げた。2つ目は実証実験をするフィールドの提供。大学は街全体をフィールドにして産学融合で研究し、その成果を社会に実装させるべきだ。

3つ目はコミュニティーづくりだ。慶大の学生らと取り組む街のブランディングでは、アーティスト、主婦、子供も参画しやすい仕組みをつくる。面白い未来を創造するラボを目指し、来夏に「ちょっと先のおもしろい未来」というイベントを企画している。東京五輪は延期になったが、もともと東京ポートシティ竹芝は五輪のタイミングでオープンする街だった。すべてのテクノロジーを集積したショーケースの場になれると構想してきた。

米津 東京都は東京全体を世界に冠たる街にしていく目標を掲げながら、先行実施エリアを設けている。大丸有(大手町・丸の内・有楽町)、豊洲、竹芝の3地区だ。竹芝はベイエリアの一端を担う重要な地域。新時代に対応した街として発信していくエリアと考えている。スマートシティーには、都市を動かすOS(基本ソフト)のような機能が必要。都市OSは国によって違うが、竹芝のような民間主導型の先行モデルは世界でも類を見ない。このモデルが成功するように、都としても最大限のことをしたい。

司会 竹芝は日本の都市開発の未来にどんなインパクトを与えそうですか。

根津 街に来る人や住む人などとのつながりの中でデータを生かしながら、勝てる街をつくっていく。それが日本の競争力向上につながると思っている。街は常に進化し続けないといけない。そのためにもデータを活用し、働いている人や住んでいる人が「便利だな」と感じてもらえるように、「万一のときにも、ここは安全だな」と思ってもらえるように、つくり込んでいく。

宮城 ソフトバンクの本業は通信事業だが、東急不動産とともに街づくりにチャレンジしている。データの活用も利害関係者の理解を得ながら進めていくことに挑戦する意義がある。実際に竹芝で働いていると、オフィスビルは空間がオープンだから、非常に使いやすい。竹芝ふ頭などの景観も快適。ただ、飲食店は不足しているので、テクノロジーで(混雑状況を把握して、不便さを)埋めていきたい。

石戸 これまで都市は密になることが使命だったが、協議会の中で議論してきたのは、密ではない集積だ。にぎわいの創出ではなく、全国の点と点をうまくつなぎ、竹芝に集積させる。竹芝ではコンビニ店で(遠隔操作の)ロボットが商品の陳列作業をしている。街は仮想オフィスとして機能し、自宅からアクセスして働ける。スポーツは各地の拠点を結びながらパブリックビューイングで観戦することを東京五輪で実現したいと議論してきた。密ではない集積を目指してきた竹芝はアフターコロナの街のあり方を提示している。

米津 行政も「集積」を物理的なものとしてイメージしていた。そこからのコミュニケーション、ネットワーキング、人のつながりを期待していた。竹芝はウィズコロナ、アフターコロナの時代を先取りする形で進んできた。人の集まりから生まれる新しいものを全否定することはないが、このままではいけない。

街は新しい価値をつくるインキュベーション機能が非常に大きい。新しい産業が芽吹く場で、肝になるのは「学」だ。CiP協議会に入っている企業との新しい結びつきが、新産業を興していくと期待している。

司会 竹芝の街づくりをめぐる今後の課題は何でしょうか。

宮城 JR浜松町駅につながる歩行デッキはあるものの、竹芝と浜松町駅は物理的に分断されているからシームレスにつなぐのが課題だ。竹芝には(各種施設の)満空情報や(飲食店の)クーポンを届ける仕組みがあるが、浜松町駅まで足を延ばすと違う世界。デジタル技術で(分断回避を)サポートしたい。こうした取り組みは、しっかりマネタイズしながら、事業継続性を持たせる必要がある。小さく挑戦し、失敗しながらも着実に実装していきたい。

根津 竹芝のプロジェクトで大事にしてきたのはワクワク感。どれだけワクワクできる未来感を提示できるかが課題だ。ロボットは未来感を出すうえで、ぜひ使いたいと思っていたから、各方面に「竹芝ならば新しいチャレンジができる」と声をかけた。今後、パーソナルモビリティーやドローンも導入したい。まだ、竹芝は交通の結節点としてできることがあり、地の利をいかし切れていない。

石戸 1936年のベルリン五輪はラジオ中継、64年の東京五輪はテレビで放送された。2012年ロンドン五輪は全種目がネット配信され、次に技術が飛躍をする21年のタイミングで何を示すのかが大事なのに、ドローンは飛ばせないし、パーソナルモビリティーも使えない。こうした規制を取り払い、竹芝を新しいことをやってみたい人が集まる場にすることが重要。規制に対しては、具体的な代替案を提示して議論しながら突破すればいい。竹芝には(規制する当局と)対話できる環境も整っている。

米津 規制は大きな課題。パーソナルモビリティーやドローンなどを推進するのに、「ここに配慮して工夫すれば、今のルールではなくてもいい」と一緒に話せる器があるのはありがたい。新しいサービスを提供したいのに、日本では難しいと思われ、世界から日本がスキップされる状況は国全体にとってもよくない。ルールの作り方は率先して柔軟に考える必要があると思っている。

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