「真の4番」試された1球 ロッテ・安田尚憲㊤

3年目の昨季、4番を任されたロッテ・安田尚憲(21)に、思い返しても眠れなくなるような打席があった。10月1日の日本ハム戦(札幌ドーム)。2-3の九回2死満塁で回ってきた。
マウンドには宮西尚生。粘りが身上のベテランは簡単にはストライクを投げてこない。カウントは3-1。そこに落とし穴があったともいえるだろうか。
四球、押し出しでも同点だ。次の直球を見逃してフルカウント。振り返れば、仕留めることのできた球はこの球だけだったかもしれない。
相手も役者だ。昨季、通算358ホールドと自己の日本記録を更新した救援のスペシャリストは打者の弱気を見逃さない。一転、攻めにかかってきた。ファウル2つのあと、外角低めにずばり。手が出なかった。悔いが残る打席となった。
ヤクルト・村上宗隆(熊本・九州学院高)、日本ハム・清宮幸太郎(東京・早実)とともに、2017年度高校卒業組の注目株として、大阪・履正社高からドラフト1位で入団した。
1年目のシーズン末〝お試し〟の1軍昇格があったが、じっくり地力を養おうという球団の方針で、19年は2軍でプレー。イースタンの2冠(19本塁打、82打点)を獲得した。
満を持しての1軍昇格となった昨季、開幕1カ月後の7月から4番に抜てきされた。ブランドン・レアードの調子が落ち「4番を打てる打者がいなかった」と監督の井口資仁は打ち明ける。
だが、決してその場しのぎではなかった。1軍に上げたいのを我慢しつつ、あえて下積みをさせた成果を認めたうえでの起用だった。
滑り出しは順調だった。プロ初の4番に入った7月21日の西武戦は2安打1打点。最初の10試合で、37打数13安打の打率3割5分1厘、7打点の成績を挙げた。
「高校から4番しか打ったことがない人だからね」(井口)。大器には大器の椅子がふさわしい、とのリップサービスまじりのコメントにも、確かに、とうなずけるものがあったのだが……。
最初は何も考えず打席に立てていた。それが次第に重圧にとらわれ始めていた。
人当たりがよく、誰からも信頼され、高校時代の恩師、履正社監督の岡田龍生からみても「非の打ちどころのない」生徒だった。責任感も人一倍だ。優勝争い、そしてクライマックスシリーズ進出がかかったシーズン山場。肩に力が入った。
宮西に敗れた一幕は2死無走者から、連打と四球でつないだ好機だった。点差は1点。一打でひっくり返せたのだ。
なぜ、バットを振れなかったのか。持ち前の選球眼にはボール球とみえた。それもあるが、球審の腕が上がればそれまでだ。自問自答の結果、出た答えは簡潔だった。「自分で決める、という気持ちが欠けていた」
安田が凡退したなら、仕方がない。誰もがそう思える打者になるためのハードルが、そこに見えた。=敬称略
(篠山正幸)