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重賞勝ち馬ヨカヨカに続け 熊本の生産者、還暦での挑戦

2021年の中央競馬で活躍した人馬を表彰するJRA賞受賞馬が1月11日、日本中央競馬会から発表された。受賞馬の顔ぶれとともに21年の競馬シーンを改めて思い起こすと、受賞馬とは別に個人的に最も印象に残った場面は、1984年のグレード制導入後初となる熊本県産馬の平地重賞制覇を果たしたヨカヨカの活躍だった。

熊本産ヨカヨカ、初のGⅠで大健闘

20年6月の新馬戦で素質馬モントライゼを抑えてデビュー勝ちし、小倉のフェニックス賞、ひまわり賞と3連勝。重賞初挑戦となったファンタジーステークス(GⅢ)で5着と健闘した。初のGⅠ挑戦となった阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神JF)のレースぶりは「今までの九州産馬とはモノが違う」と強い印象を受ける内容だった。スタートから先手を取り、内を巧みに立ち回って先頭で4コーナーを迎えると、ソダシを始め、並みいる強豪馬が迫る中、直線も粘り腰を見せて残り200メートルまで先頭をキープ。最後は勢いが鈍ったが、着順掲示板に入る(5着)大健闘だった。

生産者の本田土寿さんは、零歳時のヨカヨカを「5月という遅生まれの馬でしたが、とても優等生で手がかからず、他の馬とは成長曲線が違っていました」と振り返る。調教タイムや身体の使い方、特に首の使い方が他の馬と違っていて、走る馬だと強く感じたそうだ。

「栗東の谷(潔)調教師にお世話になりましたが、初めての坂路調教の日に2本目を(800メートル)52秒台で上がってきたときには、トラックマン(競馬専門紙の取材スタッフ)たちのいる記者席がどよめいたそうです」

谷調教師から調教の動きを伝え聞いて、本田さんもとにかくデビューが待ち遠しく期待に胸を膨らませていた。デビュー後は、その期待にたがわぬ走りで応えてきたヨカヨカ。阪神JFで5着の後、当然のように桜花賞に駒を進めた。結果はブービーの17着。それでも本田さんは「桜の季節に阪神競馬場に連れていってもらって、長年の夢がかなった気分でした。ヨカヨカに『よくぞウチで生まれてきてくれた』と感謝の気持ちでした。それと同時に、まだまだ自分自身もやれるなぁ、と勇気づけられました」と当時を振り返る。

夏の小倉でGⅢ制覇、21年のハイライトに

ヨカヨカにとって21年のハイライトは、何といっても8月に小倉競馬場で行われた北九州記念(GⅢ)。残念ながら本田さんは所用でテレビ観戦となったそうだが、画面越しに久々に見るヨカヨカは筋肉もついてパワフルさがあり、頼もしく映ったそうだ。「五分のスタートを切って、途中の折り合いも完璧。ハミ受けも馬の動きも良く、モントライゼに勝ったデビュー戦にそっくりなレースになりました。4コーナーを回ってきて、絶対に差してくれるというか、はじけるという予感がありました」

予感の通り、見事に差し切って優勝したヨカヨカ。熊本県産馬にとっては初の中央の平地重賞制覇という快挙となった。ゴールの瞬間は、本田さんも大きな声とともに涙が止まらなかった。自宅の電話は、祝福の連絡で2時間鳴りやまなかったという。

今年61歳になる本田さんは今、新たな挑戦を始めようとしている。牧場の新築である。「構想は以前から持っていましたが、探し求めていた土地が見つかったのが昨年の7月。60歳にして見つかった土地で、神様が巡り合わせてくれたのかもしれません。それとヨカヨカの活躍が背中を押してくれました。広大な土地で、今以上の競走馬の生産と育成を夢に描いています」

国内のサラブレッドの生産頭数は年間7000頭を超えるが、ほとんどが北海道生まれ。本田牧場のある熊本をはじめ、九州産の競走馬は1%にも満たず、70頭ほどにすぎない。ここから中央のレースを勝ち上がり、まして重賞で好成績を収めるのは、並大抵のことではない。

「真冬の標高900メートルの土地(熊本県阿蘇郡高森町)は日中でも気温8度くらい。市内と比べてだいぶ低いです。ここで他のスタッフ2~3人とともに、早朝から夕方まで伐採作業や土地の造成作業などを繰り返しています」

今春には、計画中の3カ所のうちのひとつである東京ドーム1個分の広さの牧場が完成する。ここに1歳馬と、12頭の繁殖牝馬のうち何頭かを移す計画だ。本田さんは「サラブレッドは夢を見させてくれます。寝ても覚めても馬のことばかり考えています。次の大きな目標は牧場を完成させて、デビューする馬がどこの競馬場でもよいから1つ勝ってくれて、オーナーたちに褒めてもらえれば……。そんな馬をつくっていきたいですね」と還暦を超えてもなお衰えない、むしろパワーアップしたさらなる夢を語ってくれた。本田さんと同世代の筆者にとっても、心に響く取材となった。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 木和田篤)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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