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大谷、速球の被打率低下 データが裏付ける根拠

スポーツライター 丹羽政善

今季の投手・大谷はよく塁上をにぎわすが、それでも抑えているのは偶然ではない=AP

いやはや、なかなかストライクが入らない。9イニングあたりの四球の数は9.16個と、大リーグで今季、10イニング以上を投げている投手の中ではワースト2位だ。一方、9イニングあたりの三振の数は14.46個で、10イニング以上投げている先発投手の中では4位(いずれも7日試合終了時)と非凡である。

「自分でピンチ招いて、自分で抑えてっていうだけ」

大谷翔平(エンゼルス)は先日、そう自虐的に自分のピッチングを評したが、四球から崩れるというのは、なかば野球の常識だ。それなのに防御率は2.41と悪くないから不思議である。

もっともヒットは18回2/3を投げて7本を許しただけ。四死球が21個なので、結果的に毎回のように塁上がにぎわっているが、もちろん、抑えているのは偶然ではない。

前回、彼のジャイロスプリットが唯一無二であり、打者は来ると分かっていても打てない異次元の球と紹介した(大谷の「消える魔球」 ジャイロ回転するスプリット)が、彼の投球のうち、52.3%を占めるフォーシームも、今年は悪くない。

大谷の代名詞といえば、やはり100㍄(約161㌔)の真っすぐということになるのだろうが、実はこれまで、一番打たれやすい球でもあった。以下、2018年に投げた4球種のそれぞれの被打率である。

カーブは全体の6.6%しか投げてないので評価が難しいが、フォーシームの被打率が突出して高いことが分かる。もちろん、フォーシームがあるからこそ他の球種が生きているともいえるのだが、ボールが先行し、相手がある程度フォーシームに的を絞って待っているカウント、つまり 打者有利のカウントでの被打率となると、さらに上がる。

大谷は18年、そのカウントでフォーシームを69.1%の確率で投げていた。もちろん、カウントを悪くして、真っすぐでストライクを取りにいって打たれるのは、大谷に限った話ではない。

よって昨年、その点を大谷に尋ねると、「相手有利のカウントで被打率が高くなるのは、普通のことなので、特に気にすることではない」と答えたが、例えば同じ18年でみると、ボール先行のケースでゲリット・コール(ヤンキース)が投げたフォーシームの被打率は.215。ジェイコブ・デグロム(メッツ)は.226。マックス・シャーザー(ナショナルズ)は.175。速球派の先発投手と比較すれば、やはり大谷の被打率は高い。

では今季、そうした数字はどうなっているのか。まだ4回しか先発しておらず、173球しかフォーシームを投げていないが、打者有利のカウントでの被打率は以下のようになっていた。

サンプルが少ないのでさすがに参考程度かもしれないが、そうしたカウントにおいて70.0%の確率でフォーシームを投げているのは18年とほぼ同じ。しかしながら、被打率は低くなっていた。

なぜか? ボールの質を調べてみると、確かに変化があった。

まず大谷はキャンプ中、「(フォーシームの)スピンレートと回転効率を上げたい」と課題を口にした。スピンレートは18年の2164.4回転(毎分)から2402回転に上がったが、回転をいかに効率的にボールに伝えているかを示す回転効率は、18年の67%から59%に下がっている。

なぜこうなっているのか、しかも、それでいてなぜ、被打率が改善しているのか。

もう少し詳しくデータをたどると、ボールの回転方向が変わっていることが分かった。その結果、フォーシームの軌道が、18年と比べるとカットボールに近くなっていた。軌道がカット気味になると、回転軸が進行方向に傾き、ジャイロ成分が増える。それに伴って回転効率が下がるのは、前回紹介したジャイロスプリットと同じ原理だが、そうしたデータを基に軌道を再現すると、こうなった。

・左から順に18年の大リーグ平均(赤)、大谷の18年の平均(青)、大谷の21年の平均(緑)。いずれもフォーシームの平均軌道だが、分かりやすくするため球種を変え、色を分けた。
・CGの中のSPIN DIRECTIONは回転方向。SPIN EFFICIENCYは回転効率。
・到達地点に関しては、大リーグの平均軌道が真ん中に行くように設定し、それぞれの平均値との差を求めた。
・CGは米シアトル郊外にある「ドライブライン・ベースボール」が提供している「EDGE」というオープンソースのソフトを使用し、作成にあたっては事前に使用許可を取った。球速、変化量、回転数に関しては、大リーグが提供しているStatcastのデータをbaseballsavant.comから抽出し、回転効率に関しては米イリノイ大のアラン・ネイサン名誉教授が、「Determining the 3D Spin Axis from Statcast Data」という論文で公開している計算式を利用した。

これを見ると分かるが、今年のフォーシームは、18年の大谷の平均到達地点と比較して、ボール約1個分、左斜め上に到達していることが分かる。メジャー平均と比べても、左にずれている。

これがおそらく、被打率の低下に貢献している一因ではないか。平均軌道に近ければ近いほど、それは見慣れた軌道になるので打者にとって有利となる。だが今季、そのメジャー平均からも、18年の自分の平均軌道からもずれていることで、相手には「ボールが動いている」と映るはず。たかがボール1個、されどボール1個。紙一重の世界で戦う彼らにとっては、小さくないのだ。

今季の大谷のフォーシームはカット気味の軌道になっている=AP

もっとも大谷にしてみれば、回転効率を上げ、18年の平均値よりも右上に到達するような軌道をイメージしていたはずで、このカット気味の軌道について、「スプリットがカットするみたいな感じ。もちろん、真っスラみたいな感じで、真っすぐがカットすることもあるんですけど」と説明したが、軌道を変えるという本来の目的そのものは達成したことになる。

スプリットがジャイロ回転になった可能性もあり、それで落差が増したのだとしたら、思わぬ副次効果をもたらした。また、相手打者はそのジャイロスプリットを恐れるがあまり、追い込まれる前に仕掛けがち。となると、多少のボール球でも振ってくれるので、フォーシームの制球が安定しない大谷にとっては、有利に働く。

いずれにしても、打たれるときには打たれるときの、抑えるときには抑えるときの、それぞれの根拠が存在する。様々なデータがそれを裏付けていた。

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