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宴席が戻る日は来る? 師を得た山談議、仕事離れ発見も

10月1日より緊急事態宣言が全国的に解除された。

思えば新型コロナウイルス禍のこの2年近く、周囲からほぼ宴席はなくなった。時折「リモート飲み会」と称する会をやることがある。システムの特性上、参加者全体でひとつの話題を展開せざるを得ず、どうもなじめない。リアルの宴席では同じ空間にいて、あちらこちらで話したい人と個々に会話する場を持つことができる。普段話す機会のない人や、たとえ面識がある人でも人柄の別の一面をうかがい知れる楽しみがある。

公務員時代、職場の宴席は常に欠席する上司がいた。酒が嫌いなわけでも偏屈でもなく、むしろ面倒見のいい優しい人だった。出ない理由は、職場でいつも顔を合わせている者同士が時間外まで一緒にいる必要はない、とのことだった。

酔っ払って語り合う時間は楽しい。ただ、それで仕事が円滑に進む一助となるかといえばそうでもなく、職場内は相変わらずのセクショナリズムのままだった。士気向上という宴席の趣旨は「一体何なんだ」と思うことも多く、その上司のポリシーも正論と理解はできたけれど、私に欠席する勇気はなかった。

ではまったく無為な時間ばかりかというとそうでもない。運命的な出来事も何度かあった。同じ職場でいつも大声で自分の意見を言い放ち、奔放で正直とっつきにくい先輩職員が、勤務中には決して聞くことのない山の話を宴席で語っていた。過去のヒマラヤやヨーロッパアルプスを登った体験談だった。

こんな公務員もいるのかと驚き、すぐに意気投合。一緒に冬山へ行き、本格的な登山の師匠的存在となった。トレイルランニングにのめり込むことになったのも彼の既成概念にとらわれない自由な登山観に影響された面がある。

国内レースで活躍し、海外への足がかりをつかんだ頃、ある宴席で職場の同僚たちが額を寄せ合い、私が公務員を辞めプロになるべきかどうかを議論し始めた。当時はプロになる気など全くなかったのに、酒席のたわ言といった雰囲気ではなく、それぞれが真剣に知恵を絞って、まじめに議論していた。そこには仕事上でたびたび険悪な雰囲気になる同僚もいた。そんな人たちが、私のことをこれほどまでに考えてくれるのがとにかくうれしかった。周囲から自分がそのような目で見られていることに驚き、プロへの道を漠然と考え始めたのがあの時期になるだろうか。

ワークライフバランスが話題となる昨今、コロナ禍という諸事情も重なって、職場での宴席はすでに過去の文化になりつつあるようだ。大半の宴席にさしたる意味はなかったけれど、人生の大きな転換点となった体験があったのも確か。

人生にインパクトを与えるような大人物は、身近にはいないだろうと考えがち。平凡な日常にも可能性は潜んでいる。これだけの人が行き交うなかで、偶然でも同じ職場になる人とは何らかの縁があり、その縁を生かすのも自分次第。気軽に仲間と酒をくみ交わす日が戻って来てほしい。

(プロトレイルランナー)

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