U-20、U-17サッカーW杯中止 未来の代表強化に打撃
サッカージャーナリスト 大住良之

「寝耳に大洪水」
ニュースを聞いたとき、日本サッカー協会の反町康治技術委員長はそう思ったという。
年末の12月24日、国際サッカー連盟(FIFA)は、2021年に予定されていた2つの世界大会、「FIFA U-20ワールドカップ」(5~6月、インドネシア)と「FIFA U-17ワールドカップ」(10月、ペルー)の中止を発表した。
「世界」を体感する機会が消えた
折から、千葉県内では、影山雅永監督率いるU-19日本代表候補のトレーニングキャンプが行われている時期だった。年が明けて21年になるとこのチームが「U-20日本代表」となり、3月にウズベキスタンで開催されるアジア予選に参加し、5月のインドネシアでの本大会に臨む予定だった。
森山佳郎監督が率いるU-16日本代表も、12月10日から13日までトレーニングキャンプを行い、ことし4月にバーレーンで開催されるアジア予選への準備を進めていた。しかしアジア選手権を兼ねるその予選の先のターゲットである世界大会が消えてしまった。
このコロナ禍にあって、国際的なスポーツ大会の中止が相次ぎ、多くのアスリートが打撃を受けている。今回は、「世界大会」といっても年代別の大会である「U-20(20歳以下=2001年生まれ以降の選手によって構成されるチームで争われる)」と「U-17(17歳以下=2004年以降生まれの選手)」の大会の中止であり、「当然」と言っていいのかもしれない。だが日本のサッカーにとっては大きな打撃なのだ。
「個の力」アップへの経験の場
「ワールドカップ優勝」を究極の目標にする日本のサッカー。だが一足飛びに世界チャンピオンの座を手に入れることはできない。過去6回の大会で最高成績は「ベスト16」(3度)である。まずは「ベスト8」、さらに「ベスト4」の力をつけてから優勝のチャンスをうかがうというステップが必要になる。
日本のサッカーの最大の長所であるチームプレー、コンビネーションに磨きをかけるだけでなく、そのベースとなる「個の力」を世界のトップレベルに引き上げなければならない。そのために必要なのが、世界の強豪との対戦によって得られる経験であり、その経験に直結するのが「U-20」や「U-17」の世界大会出場ということになる。
年代別世界選手権に含まれるものとして、もう一つ「オリンピック」がある。基本的に「U-23(23歳以下)」の選手で構成される大会であり、昨年に予定されていた東京大会の1年延期によって、ことしのオリンピックは「U-24」で争われるが、「U-17」から「U-20」、さらにオリンピックを経てワールドカップで活躍するというルートは、日本だけでなく世界のトップ選手がたどってきた道でもある。

ただ、強化という側面におけるオリンピックの地位は、日本では以前ほどではなくなっているかもしれない。欧州の中堅クラブが10代終わりから20歳そこそこのタレントを世界から集め、それを育ててビッグクラブに「売る(移籍させる)」ことでクラブを経営していくという「ビジネスプラン」が確立され、現在では「オリンピック年代」の多くの日本選手がオランダやベルギーといった欧州の中堅リーグでプレーするようになったからだ。こうしたリーグで継続的にプレーすることで得られる経験は、もしかすると、オリンピックに出場して得られるものより大きいかもしれない。
しかし、そうしたリーグに目をつけられるには「U-17」や「U-20」の世界大会での活躍が必要になる。欧州や南米、近年ではアフリカの選手であれば、スカウト網が張り巡らされ、地元クラブの育成組織でプレーしていても十分目が届く。しかし日本の選手たちは、世界大会で評価されるしかない。
中田英寿、小野伸二らも歩んだ道筋
年代別世界大会は1977年に第1回大会が開催された「U-20」に始まり、その成功に刺激されて「U-17」が85年にスタートした。そして92年には、オリンピックが「U-23」の大会になった。オリンピックは4年に1度だが、「U-20」と「U-17」はともに2年に1度、奇数年に開催される大会であり、80年代以降の日本代表は、こうした大会で「世界」を体感した選手を中心に形づくられてきたと言っても過言ではない。
日本は、過去22回開催された「U-20」に10回、18回行われた「U-17」には9回出場している。98年ワールドカップ初出場の立役者となった中田英寿は、93年の「U-17」(日本で開催)、95年の「U-20」、そして96年のアトランタ・オリンピックに出場し、「世界の舞台」を踏んだ経験をワールドカップで生かした。99年「U-20」で日本は準優勝に輝いた。そのチームの中心だった小野伸二らは2002年ワールドカップで日本代表の中核となった。
「極東」に位置する日本。真剣勝負での「世界」との対戦の機会は非常に限られている。日本サッカー協会は毎年「U-15」から1歳刻みの「日本代表」を編成し、積極的に海外遠征を行うなど「育成・強化」を行いながら、「U-17」と「U-20」の世界大会に強化の重点を置いてきた。
2大会の中止は、その強化プランに大きな痛手となるのは必至だ。両代表チームは今後も「アジア予選への準備を進める」としているが、現在のコロナ禍の状況では、アジア予選の中止も十分あり得る。反町技術委員長は「国外の親善大会など、新たな強化策を模索する」と話す。真剣勝負の「世界大会」に匹敵する経験を積むことができる強化の舞台をつくるのは簡単ではないが、一日も早いコロナ禍の収束を祈りつつ、できることを積み重ねていくしかない。